15話
「あらためて挨拶するぞ。俺がこのEクラスを担当するドライツェーン=オジーだ。中には成績優秀でクラス移動するやつもいるとは思うが、二年間よろしく頼む」
エイジの目の前で筋肉の塊がクラス中に響き渡る声で挨拶をする。
そう、ここは一学年のもっとも低いランクであるEクラス。
そしてエイジの所属するクラスでもある。
オリエンテーションで残念ながら評価の芳しくなかった生徒40名が集うクラスであり、生徒たちも心なしか表情に影があるようだ。
「なんだお前ら、元気がないぞ。確かにこのクラスに来ることは名誉なことではないが、お前らはそもそも難関といわれる入学試験を突破した優秀な生徒なんだぞ。もっと自信を持つんだ!」
オジーが激を飛ばしたことで幾分クラスの雰囲気が明るくなる。
それでも生徒たちは現段階の成績がよろしくないということを簡単に割り切れるほどの年齢でもなかったため、完全に解決とまではいかないようだった。
「うーむ、まあいい。とりあえず学校の仕組みをざっくり説明するぞ。まず授業は基本的に出なくていい」
オジーの意外な一言に生徒は皆一様に驚きの表情を浮かべる。
「剣なら剣、魔法なら魔法の講義、それと鍛冶、教養等講義自体は毎日一定のスケジュールで開催される。それぞれ自分が必要だと思った科目に出席し、学べばいいというのがうちのシステムだ」
生徒は得意分野も出自も様々で、今更教養が必要のない貴族出の人物もいれば、エイジのようにまるで世の中のことを知らない人間もいる。
剣や魔法についても同様で、どれだけ頑張っても魔法を使えない人間が魔法を勉強しても仕方がないし、剣についても似たようなものである。
要するに個人差があるため、各々自由に自分の適性を見極めて修練してほしいというのが学校のコンセプトなのだった。
「ただ実習だけは必修だ。定期的に各フィールドや塔で実践訓練を行う。これには必ず参加してもらう。参加できない場合は残念ながら留年になるので、各自しっかりとスケジュール調整を行うように」
この実習であるが、こちらはクラス単位で行う。
クラス分けはあくまで実力の近しいもの同士で演習したほうが効率がよいだろうという考えからきている。
普段の講義については学年合同で行うことで、入学者への学びの機会不平等というクレームを防ぐ配慮がなされているのである。
「そしていきなりだが3日後に迷いの森にて実習を行う。クラスの親睦も兼ねて行うが、迷いの森はそれなりに危険な場所だ。各自しっかりと準備して臨むように。以上、解散!」
こうして初日のクラスミーティングはオジーの一方的な会話で終わりをつげた。
さてどうするかな、とエイジが考えていると前の席に座っていた少年がこちらを振り向いて話しかけてきた。
「いやー、君、Eクラスなんだね。正直以外だよ。オリエンテーションの時ちょうど僕の前だったから見てたんだけどとんでもないスピードだったよね」
エイジの前の席に座っていた少年がやや興奮した面持ちでしゃべりかけてくる。
ウェーブのかかった金髪でやや長髪。
真っ白な肌で細身、ピシッと決まった制服と長身。
どこかのお坊ちゃまのような印象を受ける人物である。
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕はヤーマダッタ=ロー。気楽にローと呼んでよ。君は確かエイジだったかな?」
「よく覚えているな」
「記憶力はそこそこ良いほうでね、それより君、今日は暇かい?よかったら付き合ってほしいのだけど」
付き合う……。
まさかな、という思いはよぎりつつ、特に予定のなかったエイジは目の前の男と行動をともにするのだった。
そして今二人は学校を出て、学術都市の人気のない場所に移動する。
目の前には今にも崩れ落ちそうな廃工場のような建物。
「着いたよ……。ふふ、さあ中に入ろうか」
ローが笑みを浮かべてエイジを案内する。
なんとなく危険な雰囲気を感じて一瞬ためらったエイジだが、意を決して中に踏み込む。
そしてエイジは驚きに目を見張る。
建物の中は足の踏み場もないほど大量の武器が地面を占領していたのであった。
「これは、なんというかすごいな……」
「そうでしょ?実はこれ、全部僕が作ったんだよ。僕は鍛冶職人志望なのさ。それでね、君にみせたいものがある」
ローがそういって奥の部屋へと入って戻ってくる。
その手には一振りの黒い剣が握られていた。
「ほお。中々の業物だな」
「わかるのかい?やっぱり君はすごいね。僕の目に狂いはなかったようだ。よかったらちょっと使ってみてくれないか?」
ローがそういって剣をエイジに手渡す。
剣がローの手を離れる。
ガキン
エイジは渡された剣を地面にたたきつけてしまうのであった。
「……なんだこの重さは」
「はっはっは。驚いたでしょ?これは僕の試作品で隕石を使った剣なんだよ。あまりの重さに使い手が見つからなくてね。君ならどうかな、と思って今日は来てもらったんだよ」
「ローが何気なく持ってきたから騙されたよ。ずいぶん力持ちなんだな」
「ふふ。まあ小さいころから鍛冶用のハンマーを振り続けているから多少はね。まあ驚かせようと思ってかなり無理して平然を装ってはいたんだけど」
中々にいい性格をしているようだ。
エイジはそう考えつつ、手に持った黒剣を握り直す。
たしかに重いが振れないこともない。
先ほど地面にたたきつけたにも関わらず傷一つない刀身を見る限り、質量に比例してかなりの強度も持っているのだろう。
エイジは幾度か剣の感触を確かめるように素振りを繰り返すのであった。
「うんうん。さすがだね。正直ここまでまともにこれを扱えるとは思ってなかったよ。そこで提案なんだけど、よかったらそれを貰ってくれないかい?」
「いいのか?普通の人が使えるかどうかはともかく、結構貴重なものなんじゃないか?」
「構わないよ。剣は使ってこそだからね。僕としては君に使ってもらって感想を聞かせてほしいな。僕がより鍛冶師の高みを目指すのに参考になりそうだしね」
「そうか、ならありがたく頂戴するよ」
「こちらこそありがとう。それとメンテナンスは任せて。後もし今後素材になりそうなものを見つけたら僕に見せてくれないかな?きっと君の気に入る武器を作ることができると思うよ」
こうしてエイジと一人の鍛冶師が出会いを果たす。
人気のない廃工場の中で、二人はめでたく結ばれたのであった。