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ブラックバイトの楽しみ方  作者: ぎるばあと
13/15

13話

「ほっほっほ。いつからじゃと?そうじゃのう。お主が興奮して『死合おうぞ!』とかなんとか年甲斐もなく叫んでいたあたりからかの。興奮しすぎてわしに気付かないとは二人とも情けないわい」

「ぐっ」


 何も言い返せず、おし黙る刀であった。


「全く、昔の冷静沈着なお主はどこへいってしまったのやら。久しぶりに逢うてみたら『死合おうぞ!』とかなんとか叫んでいるしのう。ふぁっふぁっふぁ……ふおっ!」


 からかいが過ぎたのだろう。

 マーリン―――エイジの師匠であり命の恩人でもある老魔法使いに向かって、刀は無言で突きを放ち続けるのであった。

 言葉には出さずとも刀からあふれ出る「コロスコロスコロスコロス……」という殺気とともに繰り出される連打が空を舞うマーリンに降り注ぐ。

 そのすべてを紙一重でかわし、舞い踊るように空中を闊歩する動きはまさに大魔導士と呼ぶに足るものであり、夜空に輝く月を背にしたその姿は見るものに美しさを感じさせるほどだった。

 そして業を煮やした刀が全身の力を集約し、一点突破といわんばかりに全身全霊を込めた突きを放つ。

 その空間をも切り裂くような鋭い一撃に、さしものマーリンも回避するに能わず、その刀の先端がマーリンの眉間に吸い込まれていった―――はずだった。


「……ちっ、化け物め」


 空を切った刀が静止して吐き捨てるようにつぶやく。


「ふぉっふぉっふぉっ。まだまだ若い者には負けんよ」


 そして本来刀に打ち抜かれていたはずのマーリンが、刀の背後からそう答えるのだった。



「まあ戯れはこれくらいにしておくか。久方ぶりだな、マーリンよ」


 どう考えても戯れのレベルを超えた攻撃を繰り出し続けた刀が、諦めたかのようにマーリンへと声をかける。


「お主もの。元気そう……かどうかはその姿ではわからぬがのう」

「おかげさまで問題なく存在できている。それはともかくマーリンよ、ちょいと相談なのだがあれをどうにかしてくれまいか?」


 そういって刀が指し示したのは、地面にキスをし顔面蒼白で泡を吹いている一人の若者の姿であった。



チュンチュン


「ん……」


 部屋の窓から降り注ぐ太陽の光を感じ、エイジは目を覚ました。

 (体の節々がいたむ)

 エイジは痛む身体と寝起きでぼやけた頭をフル回転させて状況を把握し、昨晩の運動で空いた腹を満たすため、今いる寝室から居間へと移動を開始する。


「おはよう、カタ……師匠?」


 居間へ続くドアを開けて、刀とあいさつをかわそうと試みたエイジの目に映ったのは、居間のテーブルで何やら会話をしている、刀とマーリンの姿であった。


「久しぶりじゃのう、エイジ。見たところ元気そうで何よりじゃ」


 マーリンは孫を迎える好々爺のごとき表情でエイジを出迎え、軽い挨拶を告げる。


「お久しぶりです、師匠。師匠もお元気そうで何よりです」

「むぅ。私への態度と全然違うな。もう少し私にも敬意を払ってくれてよいのだが」


 マーリンに丁寧語で挨拶を返すエイジに向かい、刀が茶々を入れるのであった。

 その後エイジとマーリンはお互いに近況を話し合い、マーリンは大抵のことを刀から聴取していたようで、お互いの現状を把握するのにそう時間は要しなかった。


「それにしてもエイジ。中々に腕を上げたようじゃの。師匠として鼻が高いぞ」

「いえ、僕などまだまだです。現に刀には手も足もでませんし」

「まあそう謙遜するでない。この刀は少し残念なところもあるが、ある時代ではそれこそ5本の指に入るほどの剣士だったからの。そんな相手とそれなりの勝負ができるお前さんは相当の腕利きじゃと思うぞ」


 残念な、という部分に反応した刀が昨夜の再現とばかりに無言で突きを放つ。

 それをかわしつつマーリンは続ける。


「おお、そうじゃエイジよ。お主今後の予定はあるかの。昨夜の様子から察するに刀との修行はもういいのじゃろう?」

「そう、ですね。一応刀からは合格判定をいただけたようですし、また塔の攻略に戻ります。今ならもう少し上層へ挑戦できると思いますし」

「ふむ、そうか。もし急ぎでなければ一つ提案があっての。お主、学校へ行ってみんか?」


 マーリンから出たのは、エイジには懐かしい響きのある学校という二文字であった。

 マーリンいわく、今のエイジはB,ともすればAランクくらいの冒険者とも十分に渡り合える実力をもっており、今後の活動で望む望まないにかかわらず、貴族などといった権力者との関わり合いをもつ可能性が高いという。

 貴族から仕官の誘いを受けることも十分考えられるが、それを受けるにせよ断るにせよ、最低限の作法や礼儀、教養といったものは身に着けておいたほうがよい―――というのがマーリンの主張であった。

 

 まだこの世界におそらく転移してから3年ほどしか経過しておらず、大半をマーリンのもとで過ごしたエイジ。

 マーリンの話や蔵書からこの世界について少しは学べたが、まだまだいろいろと学ぶべきものはあるだろうし、塔攻略にも役立つ知識や人脈が増えるかもしれない―――そう考えたエイジは、急がば回れとばかりに、マーリンからの提案を受け入れるのであった。


 

 そしてエイジ20歳手前にして再び学校へと通うこととなる。

 そこで運命と呼べる出会いを果たすことを、この時のエイジは知る由もないのであった……。


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