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ブラックバイトの楽しみ方  作者: ぎるばあと
12/15

12話

「せいっ!」


 エイジは持てる最大の速度で大地を蹴りあげる。

 そして渾身の力をもって目の前の空間を切り裂かんと剣を振り下ろすのだった。


「甘い」


 刀の無情な一言が響く。

 これで幾度目だろう。

 今のエイジに出せる最大の剣技を、まるでハエでも撃ち落すかのように簡単にあしらわれるのは。

 エイジは精根尽き果てたとばかりにその場にへたり込むのであった。


「情けないな、お主はマーリンに一体何を学んだのだ」


 ここは絶望の森にある小屋の前。

 エイジがこの世界に降り立った際、一夜を明かしたあの小屋である。

 実はあの小屋はエイジの師であるマーリンの別荘であり、

 マーリンとの魔法の修行時にも使用していた小屋であった。

 エイジはここを剣の修行場として選んで現在に至る。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。何がって、魔法だよ、魔法。剣は一切習ってない」

 

 エイジが息を切らしながら刀の問いに答える。

 剣技はともかく身体能力にはそこそこ自身があったエイジであったが、目の前の刀から発せられる重圧を長時間浴びせられたせいもあるだろう、相当に体力を消耗しているようだった。


「まあ良い。当分は私と実践だな。並行して素振りや走り込みといった基礎作りだ。妥協は一切認めんからな」


 刀との実践。

 刀は肉体を持たないが、ある程度動けるような魔法がほどこされている。

 本人いわく「盗賊などのつまらない者に所持されても困るからそのように処置してもらった」とのことだ。

 この処置を見るに、どうやら罪人をそのまま刀に封印したわけでもないようである。

 そういったわけで現在刀は宙を舞い、エイジと相対して訓練を行うことができた。

 ただ刀の使い手に関してはエイジの想像力任せであり、仮想の敵に向かってエイジは攻撃を繰り出しているのである。


「私がまとうは剣気。おそらくお主は私の間合いに入った場合、どこに攻撃をしかけても打ち返されるイメージが湧いてしまうのだろう?」

  

「そうだな。正直隙が見当たらない」


 エイジは刀からの問いに素直に答えるのであった。


「まあそうだな。実際私にはお主のすべての攻撃を予測することができる。といってもあくまで私の間合いに入ればだがな。そのあたりのことをよく考えてみるといい」


 エイジはこの一言から、何か刀を攻略する方法があるのだろうと察する。

 やれやれ、先は長いな―――そう考えながら、エイジは重い体に鞭を打って再び刀へと斬りかかるのであった。


 

 そして半年の月日が流れた。


「……ほう」


 刀が目の前のエイジに相対して感嘆の声を上げる。


「思えばあんたと剣技で真っ向勝負が間違ってたんだな」


 エイジが幾分余裕に満ちた表情で返答した。


「中々に考えたようだな。剣気を纏うではなく、全身に魔力を纏うとはな」


 刀が素直に賛辞を述べる。

そう、今のエイジの身体は全身にうっすらと魔力の層を帯びている。

 火の魔力による攻撃力の増加、土の魔力による防御力の増加、風の魔力による速度の増加……その他ありとあらゆる魔力がエイジの身体能力を大幅に増幅させているのであった。


「まあな。まあまだ試作段階だが……。こういうこともできるぞ」


 エイジがそう発すると同時にエイジの纏う魔力の層が膨張する。

 そしてエイジを中心に半径3メートルほどの円状に魔力の層が押し広げられたのであった。

 

「これがあんたの間合いのような、俺の領域だ。この領域内に存在する物の動きはある程度魔力の流れで察知できるし、行動を制限することもできる」


 エイジは続けて説明を行った。

 それによれば例えば領域内に入った相手に風の魔力を発動し速度を低下させる等、この領域には相手の行動をある程度阻害できる副次効果もあるのであった。


「はっはっは。よいよい。これでこそ闘いと呼べよう。来るがよい、エイジ。存分に死合おうぞ!」


 刀の声を皮切りに、数時間にわたるエイジと刀の打ち合いが巻き起こる。

 その余波で地面の土はえぐれ、木々はその幹を散らし、決着がついたときには一面荒野となっていたのであった。


「よかろう。これにて我が修行は終わりとする。見事だ、エイジよ」

「はは、それはどうも……」


 エイジが地に伏せる。

 エイジの脇腹には深々と刀の柄がめり込んだ痕がついていたのであった。


 さてどうするか。

 刀は思案に暮れていた。

 エイジはまさに死闘と呼ぶにふさわしい戦いを終え、さらにはかなり強烈な一撃を腹部に喰らっている。

 おそらく目覚めるのは相当に後のことだろう。

 仕方ない、足に引っ掛けて引きずっていくか……。

 刀は寝床は無理でもせめて小屋の中まで運ぼうと、エイジの足首にその刀身をすべり込ませる。

 

 カキン

 

 ……ん?

 何かにぶつかった感触を得た刀が、その乾いた金属音のした方向に目を向ける。

 刀とぶつかったのはエイジの両足首にはめられた金属のアンクルのようなものだった。

 

「これは……。ふふ、はっはっは。マーリンめ、面白いことを考えるではないか」


 刀は心底面白いといった感じでその刀身を震わす。

 そこへ、


「どうじゃい、我が愛弟子は。中々に面白いだろう?」

「……いつからのぞいていた、マーリン」


 エイジの師匠であるマーリン。

 その人が空に浮かび、見下ろしながら刀に問いかけたのであった。


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