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ブラックバイトの楽しみ方  作者: ぎるばあと
11/15

11話

 

 どこからともなく響いてきた声。

 エイジはその声の主を探すため周囲を見渡すが、そこには同じく驚いた表情を浮かべて固まっているメルとルキア、そして見えない何かにさえぎられているかのように動けないでいる巨大うりゅふの姿しかない。


「どこを見ている。ここだよ、ここ」

 

 またしても謎の声が室内に響き渡る。

 エイジは腰のあたりにわずかな振動を感じ、そちらに目を向ける。

 そこにあるのは掘り出し物ということで購入した抜けない刀。

 その鞘に納められた刀が上下にゆれてアピールしていたのだった。


「おい、驚いていないでさっさと行動せんか。動きを止めていられる時間はそう長くはないぞ」

 

 その声で我に返ったエイジはすぐさまメルとルキアに向かって撤退を告げる。

 目の前の現象を理解できずにいた三人であったが、そこは防衛本能が働いたのであろう。

 速やかに撤退を開始したのであった。


 塔には10階毎にボスが存在するが、そのボスは圧倒的に強力である。

 塔の中で討伐された魔物はなぜか一定の時間がたつと再生するという仕組みになっており、塔から撤退する場合も階段を下って行った場合は復活した魔物と再び相対することとなってしまう。

 これを防ぐためかどうかはわからないが、10階毎のボスの間手前の部屋には転移水晶というマジックアイテムが置かれており、これを利用することで一瞬のうちに塔の一階へと戻ることができるのであった。

 エイジ達三人もこれを利用し、即塔から脱出。

 その後反省会も兼ねてルイージの酒場にて食事会を開催していた。



「さて、おかげで助かったのは事実だが。色々と聞きたいことがある。いったいあんたは何者なんだ?」

 

 エイジがテーブルの上に置いた刀に話しかける。

 刀に向けて話しかける人間。

 事情を知らない人物から見れば奇妙な光景だろう。

 ただこのテーブルに座っているのは実際にこの刀が言葉を発するところを見たエイジ、メル、ルキアの三人だけであり、テーブルの上に置かれた刀に向かって話しかけるのも周囲から見れば普通に三人が会話しているように見えるのであった。


「ふむ、何者といわれてもな。しかし助けられたことに対して礼も言わずに追求とは最近の若者は礼儀を知らないと見える」

「あ、ああ。すまない。そうえいば礼を言ってなかったな。あんたのおかげで助かった。ありがとう」

 

 エイジが少し慌てたように礼を述べる。

 それに合わせてメルとルキアも軽く会釈をする。


「最低限の礼節はもっとるようだな。よいよい。さて何から説明するかな。ざっくり言えば私は過去に人を斬りすぎてこの刀に封印されてしまった憐れな元人間といったところだ」

 

 元人斬り―――普通であれば警戒すべき言葉であったが、そもそも刀に人間が封印されるということの現実感のなさが、どこかその忌避性を緩和していたのであった。


「にわかには信じられないが……。こうして実際に刀がしゃべっているところを見せられると正直なんでもありだと思えてくるな」

 

 エイジがそう言うとメルとルキアも無言で相槌を打つ。


「ところでさっき巨大うりゅふの動きを封じていたように見えたのだけどあれはどうやって?」

 

 エイジが刀に向かって問いかける。


「あれは私の間合いといったところだな。私くらいの達人になるとレベルの低い獣なんかは気合いで近づけないようにできるのだよ」

「き、気合か。しかし塔のボスをレベルが低いというあたり、あんたは相当達人だったのだな」

「はっはっは。そうだとも。少なくとも当時では五本の指には入る剣客と自負しているぞ。時にこちらこらも質問なのだが、お主ひょっとしてマーリンのことを知っているのではないか?」

「師匠のことを知っているのか?」

 

 ふいをつかれたエイジは驚きの表情を浮かべて答える。


「そうかそうか。お主マーリンの弟子か。どうりでお主の魔力からマーリンの魔力を感じるわけだ。しかしあやつが弟子とはな……。おお、そうだ。お主マーリンの弟子なんぞやめて私の弟子にならないか?あやつの魔術より余程使える剣術を教えてやるぞ」

 

 刀からの提案にエイジは少し心を動かされた。

 魔法は生活上なにかと便利であり、詠唱の時間さえ稼げれば大多数の魔物に対しても有効な手段となる。

 しかし今回のような前衛でボスと一対一で戦うには少々物足りない。

 将来的にはソロでも攻略できるような力があればと願うのは必然の結果であった。

 ただ一点引っかかるのがマーリン―――つまりはエイジを救ってくれた大恩ある老魔法使いをないがしろにして弟子をやめるという点。

 これさえクリアできれば目の前の刀に教えを乞いたいとエイジは考えていた。


「悪いが師匠は俺の命の恩人でもあるんだ。師匠を裏切るようなまねは俺にはできない」

 

 試案の末にエイジが出した結論がこれであった。


「中々に律儀なやつだな。気に入ったぞ。とりあえず無償で私が剣の基礎を教えてやろう。私の弟子になるかどうかはそれから決めるといい」

 

 刀からの妥協案。

 エイジもそれなら……ということで一時的に刀の弟子になることを了承したのであった。

 ある程度話がまとまったところでメルやライチからの質問、本日の塔攻略の反省、刀の昔ばなし等々に花を咲かせ、飲めや歌えやの大騒ぎをした後一同は解散したのであった。


 

 そして翌日から刀とエイジの厳しくも美しい師弟愛による濃厚な修行が続いていくことになる。

 

 エイジ達の冒険はこれからだ。


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