表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

第5話 聞かない理由、言わない理由

 横浜からの帰り道、私は自分を責めた。

 最低、最低、最低、私は最低だ。


 カッちゃんに会いたい。


 そればかりを思って最寄り駅に着いたとき、奇跡が起こった。

 改札を出たところに、彼がいた。

「カッちゃん!」

 スーツ姿で、私に向かって手を挙げ、白い歯を見せて笑う。

 私はカッちゃんに駆け寄って抱きつき、彼の胸に額を押しつけた。

「ごめんなさい」

 それだけで伝わるはずがないのに、カッちゃんは、

「いいよ。気にすんな」

 と言って、大きな手で私の頭をぐしゃぐしゃにした。

 それから、深夜まで営業しているスーパーで買い物をして、街灯が照らす道を二人でアパートまで歩いた。

 カッちゃんは学会の帰りらしかった。

「泊まっていくでしょ?」

「泊まっていくも何も、そこは俺のうちでもあるだろ」

「だったら、もっと帰ってきてよ」

 と言って、カッちゃんの脇腹を肘で突く。

 彼は大げさに痛がって見せる。


 やっぱりカッちゃんは最高だ。

 私の理想の彼氏だ。

 私にはカッちゃんしかいない。


   ***


 アパートに着いて玄関のドアを開け、中に入ると、彼がすぐに求めてきたので、

「ダメ。シャワーを浴びてから」

 と強く言った。

 今日はどうしても、体をゴシゴシと洗いたかった。

 脱衣所で服を脱いで、お風呂場に入り、シャワーの蛇口をひねる。熱いお湯を浴びて、スポンジを泡立て、体を洗い始めたとき、

「背中流してやるよ」

 と言って、カッちゃんが入ってきた。裸になっている。

「ちょっと。そういうことはお父さんとでもやってよ」

 抵抗する私を押さえつけ、スポンジを奪い取ると、お父さんが子どもの体を洗うように、私をゴシゴシと洗い始めた。


「何があったのか聞かないの?」

「それは学術的に価値がある話か」

「ないよ」

「じゃあ聞かない」

「バカ」

「はい、今度は前」

 と言って、私を振り向かせると、前も同じように洗っていく。

 シャワーで泡を流した後、カッちゃんが私を抱きしめ、口づけてきた。私は彼の舌に自分の舌をからませる。カッちゃんの手が私の内太ももの付け根を這う……。

 お風呂場から出て、パジャマに着替えた後、冷蔵庫を開けた。

「プリン買ってあるけど、食べる?」

「後で食べるよ」

 と、すでにベッドに寝転んでいるカッちゃんは言った。


   ***


 しわくちゃになったベッドで、カッちゃんの講義を聞いた。

 今日は、砂漠で見る星空の話だった。

 天体観測の最大の敵は湿度だ。だから、日本という国は、どこに行っても天体観測の条件があまり良くないらしい。向いているのは広大な砂漠で、アメリカのアリゾナ砂漠やチリのアタカマ砂漠には、世界中の天体観測所が集まっている。

「星が降るようなって表現があるだろ。アタカマ砂漠で見る星空はそんなものじゃないんだ。降るも何も、自分たちも宇宙にいるんだってことが、はっきりとわかる。小マゼラン星雲まで肉眼で見えるからな」

 私は、その星雲よりも、砂漠で寝転がって星空を見上げているカッちゃんを想像した。

「瑠奈もあれは一度見るべきだ」

「見るべきだ、じゃなくて、カッちゃんが連れていってよ」

「ダメだ。自力で来い」

「意地悪」

 私はカッちゃんの耳を責めた。

 仕返しに彼が私の両脇に腕を入れて引き寄せ、強く抱きしめる。

「ねぇ、カッちゃん」

 彼の襟足の毛を指でもてあそびながら、私は聞いた。

「私のこと、愛してる?」

「当たり前のこと聞くな」

「じゃあ、なんで言ってくれないの?」

めいのことは省略するのが論文のルールだ」

 まだ心にわだかまるものがあったけれど、それ以上は聞かなかった。

 カッちゃんに抱きしめられたまま、私は眠りに落ちた。


 翌朝、目を覚ますと、やっぱりカッちゃんはもういなかった。

 冷蔵庫のプリンも手つかずのままだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ