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やっとの思いで見つけた教室は学校でも外れに位置する棟の2階の一番奥だった。
先ほど近代的な学校だと述べたばかりだが、さすがに学校側も使われない校舎まで修繕するほど羽振りは良くないらしい。
今の時代にしては珍しい木の廊下。歩みを進めるたびに嫌な音が耳をつんざいた。
「うっわ....本当になんか差別化を図ってる、ねえ?」
「えらい変わりようだな」
二人は1ーFとかろうじて読める程度の札を発見し、教室へと足を踏み入れた。
もちろん掃除なんて行われているはずもないその教室は全体的に埃っぽい。机が乱雑に置かれ、教室の端はよく分からない荷物で物置きと化している。
「これはまた酷いね〜!」
「入学早々掃除をするハメになるとは」
とりあえず窓を全開にし、後ろに備え付けられている掃除用具入れからほうきを取り出す。シャッシャッと早速掃き出した真鯖に要が驚いた声を出した。
「ちょっ、魚津くん?!え、手作業なの?!ここは基礎魔法使えば一発じゃん!!」
「それも、そうだが、俺は魔法は__」
驚いた声を出す要に真鯖も顔を上げて答えようとしたその時。
「あっれー?Fクラスって自分だけかと思ってましたー!他にもクラスメイトっていたんですね!!!やった!!」
真鯖の声を遮るように響く素っ頓狂な声に振り返ると教室の入り口に背の低いショートカットの少女が立っていた。濃い茶髪をふわんと揺らしながら手には学校には似つかわしくない大きな抱き枕を抱えている。
「クラスメイトってことは....君もFクラスか!僕は飯田 要だよ!よろしくね!」
「要くんかー!私は、真幸田 花苗だよう!じゃあそっちの黒髪のキミはー??」
「魚津 真鯖。よろしく頼む」
真鯖が名乗った途端明るいニコニコとした表情が一瞬冷たい無機質な物へと変わる。その変化に驚く暇もないまま花苗は爆弾を落とした。
「ふーん!まさばなんて親御さんはよっぽどのお魚好きかな??それとも魚の名前を入れなきゃいけない決まりとか??」
「真幸田、お前っ」
「ま、私にはなーんにも関係ないよ??」
慌てふためく真鯖と対照的に花苗は落ち着き払った様子で一つの椅子に座った。
姉の真鯛は魚の一族としてこの学校でも通っているが今朝他人宣言をされたばかりだ。真鯖としては出来る限り伏せておきたい事の一つだった。
「ところで花苗ちゃん、その抱き枕もしかして」
「ん?私の魔器具だよ?」
「やっぱり!抱き枕かあ〜変わってるなあ!」
もふもふと抱き枕に顔を埋める花苗。その様子を興味深そうに眺める要に真鯖はため息をついた。
「そんなことより、お前ら掃除」
「ハーイ、席つけFクラス諸君。つっても3人か」
担任らしき人物の登場によって再び邪魔をされた真鯖は小さくため息を漏らす。
そのままほうきをしまうと、適当な席に着席した。
「お前ら一年間の担任、久田だ。何も言わんから校則に引っかからねえ程度に好きにしろ」
ぼさぼさの髪に白衣といかにもな風貌をしている久田という男は躊躇うことなく胸ポケットから煙草を取り出した。カチッとライターの音が響き、そこはかとなく煙が辺りを漂う。
「あ、そうそう。魔器具の格納ロッカーだが、隣の棟のF列の1番から3番がそれぞれお前らのだから」
魔器具はモノによっては持ち運びが不便である。そのため、学校には専用のロッカーが設置される。
特別仕様のそのロッカーはどんな大きさでも重さでも収納することができ、モノ使いがいる学校では必須アイテムとなりつつある。
「しかしまあ、あれだ、その、頑張れ。Fクラスだなんて、と思うかもしれねえが楽だぞ」
久田の言葉に真鯖の隣に座っていた要が、嬉しそうに顔を明るくしている。どうやら彼にとって「楽なのか」が重要らしい。
配られたプリントに目を通しながら真鯖はそう考えた。
担任 久田センセイ(魔法物理担当)(通称:クダさん)
Fクラス唯一の女子 真幸田 花苗
続きます。
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