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入学式はいたって普通のものだった。
新入生からも在校生からも溢れ出る無地蔵の魔力が体育館に充満していたこと以外は、だが。
厳格そうな校長や頭が寂しい感じのお役所の方々のお話がつらつらと続く。
だがしかしみな言うことは一つ。
「高校課程の3年間死ぬ気で勉強し、力をつけ将来はモノ使いとして尽力なさい」
5分10分と続く話だって要約すればこういうことなのだ。
モノ使いの力は今や国家間の優越を決める判断材料とまでなっている。国は力のあるモノ使いへの育成に必死だ。
「であるからして、新入生諸君にはこれから上ノ川高校の一員として勉学に、魔法にと励んで欲しいところでありー」
「....なっが」
悪態を思わずついてしまった真鯖に横に座っていた男子が笑う気配がする。ちらりと横目で伺えば、胸元には真鯖と同じ1Fのクラスバッジが付いていた。
上ノ川高校は年度始めに学年とクラスが入ったバッジを配布する。これで学年とクラスがすぐに分かるようにしているのだ。
新入生は先ほどの受付時に配布されており、全員バッジを付けた状態で体育館に入場している。
「いやあ普通思ってても言うかなあ」
「あまりにも長すぎるぞこれは...」
無声音で交わされる会話。
甘栗色のふわっとした髪に優しそうな風貌。いかにも恋愛事に浮き足立ちたがる女子が好みそうな容姿だ。
「おっ、やっと終わったぞ。もう入学式も終わるな」
拍手と共に先ほどまで壇上で熱弁をふるっていたどこかのお偉いさんが退場していく。そこから先はつつがなく進行し、あっという間に入学式の全てが終わっていた。
「そういえば君、クラスFなんだね。最初に言葉を交わした人が同じクラスなんてついてるなあ。僕は飯田 要。よろしくね」
「魚津 真鯖。よろしく」
体育館を退場し、新入生はぞろぞろ案内に従って自分の教室へと向かう。
お互いに自己紹介をした要と真鯖は流れに沿ってクラスFを目指していた。
上ノ川高校は比較的新しい高校であり、校舎も近代的な造りになっている。その上生徒たちによる実戦で校舎は破壊されやすく常日頃工事やちょっとした補修を行っている。
入学式のしおりとデカデカと書かれた紙を片手に二人して進んでいる途中どこからともなく聞こえてくるヒソヒソとした喋り声が聞こえてきた。
「おいあいつら....Fだぞ。試験で何したんだよ...」
「もしかしたら中学校の時の素行が悪いとかそういうのかもよ」
「どちらにしろここじゃただの無能扱いさ」
「いつの間にか消えてるって」
小さな声でも集まれば大きくなる。
好奇心や同情の視線が二人に容赦なく降り注ぐ。
「なあ真鯖くん。なんか僕らすごく注目されてる?」
「そりゃあ上ノ川に何故引っかかったか本気で怪しまれるレベルだと言われるFクラの人間がいたら、気になるのは仕方がないんじゃないか」
上ノ川高校は実力によってクラス分けを行う。Aが一番上でFが一番下。
入学試験をもこの愛用のシャーペンのみで乗り切ってきた真鯖はFクラスにしか入れないだろうと考えていた。徹底した実力主義のなかで万人の筆記具シャーペンを選んだ真鯖が伸びるとは考えられにくいからだ。
そう割り切っているいるのでそこらの悪口は気にならない。もっとも家でも似たような悪口を言われてるのだ。
では今目の間にいる要は何故Fクラスなのか。見知らぬ生徒が言っていたように、試験に失敗したのか、素行が悪かったのか、はたまた___
「なあ、飯田。お前なんでFクラスなんだ?」
「えっ?だって一番楽そうじゃん」
ただのアホだった。
確かに、Fクラスは他に比べ比較的楽な部類に入る。Aクラスのように小難しいことを学び続けるより、基礎を定着させることを教師が目標としてくるからだ。
だがしかし、
「課題の量はAの倍だぞ」
「...............へ?嘘だ〜〜!嘘だと言っておくれ真鯖クーーン!」
本気で知らなかったらしい要は頭を抱えて唸り始めた。
まだ教室にも着いていないというのに、途端に動かなくなった要を引きずり真鯖は慌てて歩調を上げた。
飯田 要 (イイダ カナメ)くんです。
続き頑張ります。
感想とか諸々待ってます