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モノ使いたちの審美眼  作者: 利町 まる
草の一族の次女の話
2/5

0⒈

4月のある朝。

魚津 真鯖はシャーペンをくるくると手で回しながら家の廊下を歩いていた。モノ使いの一族として5本指に入る魚の一族の本拠地とも言えるこの家は日本家屋風の古い感じを出しながらもしっかりとした造りになっている。

朝の優しい光を全身で浴びながら歩くととても気持ちがいいのだ。

その時廊下の向こうから歩いてくる人影が見えた。


「真鯛姉さん」


真鯖の姉で真鯛と呼ばれた少女は日本でもトップクラスの高校と名高い上ノ川高校の制服を身に付けていた。艶やかな黒髪を長く伸ばし、どこから見ても美女という言葉が似合っている。

しかし、その可憐な美女には似つかわしくないモノが肩に乗っている。

細く糸の張ったそれは釣り竿。それが彼女の魔器具だ。

扱いずらさや持ち運びの不便さから魔器具からは敬遠されやすい。しかし真鯛はその釣り竿を操り実力で学校のみならず近辺のモノ使いたちの間に名を馳せている。


「真鯖。あんたがうちの高校に通るとはね。いくら基礎魔法の実力があるとはいえ、魔器具にシャーペンなんかを選んだあんたが」

「その言い方はおかしいですよ姉さん。現生徒会長で、学校では無敵の負け知らずの姉さんがそこらへんの教師より発言力が劣っているはずがない。もし僕の入学が嫌なら試験の時に小細工を仕掛けることが出来たはず。それをしなかったというこ」

「ペラペラとうるさいわよこの無能」


真鯛の冷たい視線と共にピタリと真鯖の首筋に当てられる釣り竿。普段は何も害をなすはずもないこの道具が今は真鯛の魔力によって獰猛な殺人鬼へと変化している。

あと数ミリ釣り竿がずれれば真鯖の首筋はぱっくりと割れるに違いない。

真鯖はごくりと唾を飲んだ。計り知れない姉の魔力に朝っぱらから冷や汗が垂れる感覚を感じる。


「そうやっていつもあんたは口だけ。充分に戦える戦力も持たないで何を語っているの?」

「それは失敬姉さん。自分思ったことをすぐ口に出す性分なもんで」


にたりと余裕ありげに笑う弟に真鯛はため息をついた。

中学の時に教わる基礎魔法と呼ばれる分野では類を見ない成績を出し、モノ使いとしても期待され、それ相応の力を持っていた弟が。

気がつけば魔器具にシャーペンを選び自らその力を潰し、ただのクズになったと知った時の真鯛のショックは測りきれないものだった。


「学校では他人。魔法で戦えないなら筆記で対抗しなさい。ペーパーテストは常に上位」

「わかってますよ姉さん」


釣り竿を定位置に戻し、再び歩き始めた真鯛の背中に真鯖はそう呼びかける。

かくいう真鯖も新しい制服に着替えるため自分の部屋へと歩き出した。




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