始まり 初めて
始まり 初めて
気づいたら僕の体はプリウスの後部座席で一人だけ揺られていた。頭がぼーっとする。体もなんだかだるい。
いつからこうなんだっけ…。ぼーっとする頭を必死に働かせながら思い出す。
確か、そうだ、あの日から3週間くらいたった時。あの時の晩御飯はカレーだった。
誰もいないかを、ドアに耳をつけて、10分くらい慎重に確認してから、それだけ部屋の中に入れて食べた。
あの時以来、母は毎日二階にご飯を運んできた。そしてそれ以外の用事では滅多に二階には上がってこなかった。
僕はそれを毎日部屋の中で、1人で食べた。
一度だけ担任だった先生が家に来た。その時も僕は部屋から出なかった。下の階の声は、一つ仕切りの上の部屋に、声が大きくなくとも自然に聞こえてくる。
その間、それ以上長い間ずっと耳を塞いで毛布の中にいた。聞きたくなかった。
そうだ、あのカレーだった。あれを食べた。あと、すぐに眠たくなった。強烈な睡魔だった。僕には、そんな睡魔と闘う根性も理由も意味もなかったからすぐに眠りに落ちた。
外の景色は夕焼けに照らされた山々が綺麗に映る。そして、すぐに流れてく。それが高速道路だからなのか、車の通りが少ないからなのか、車はスピードを上げたまま走っている。
体が重い。眠い。もうどうなってもいい。僕の意識は微睡みの中に消えてった。
車が止まって僕の体が揺すられる。
どこなんだろうここは。体を起こして周りを見る。森だ。自然だ。夏休みにでも来られたなら相当興奮してだろうな。山の中はこの季節だと少し涼しくて、寧ろこの格好では。ああ、服が変わっている。学ランだ。これを着るのはいつぶりだろう。新品の学ランの匂い。少し袖が余ってて、ズボンの裾は今にも地面ですれてしまいそうだった。ベルトを緩めてズボンを上げ直す。
そんなことをしていると父が言った。「この道を、少し歩けば学校があるから。
お前はこれからそこに通うんだぞ。書類はこのカバンの中にあるから。出すんだぞ。」そう言ってあのスポーツタイプの小柄なカバンを押し付けてくる。「え。あっ。」唐突過ぎて現状がつかめない。
父がドアを開けて乗り込みエンジンをかける。突っ立ってる自分。そのまま父は車を出し、走り出していた。
僕はこれからどうすればいいんだろう。