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「牽、制・・・・・・?」

西の国の魔法使いは言っている意味を理解しようと必死になっているのか、おうむ返しにそうつぶやいた。

「そう。牽制」

少年は座っていた木箱から下りて、偉そうに指を振りながら説明口調で話し始めた。

「東の国の首都に護送されてきた西の国の捕虜の大群がいきなり息を吹き返したらどうなる?・・・・・・これは詰みだよ。首都の軍はほとんど出兵してる。城の警護さえ手薄になってる。まあ、決して少ない訳じゃないんだけどね」

一個大隊だったら押し破るのはワケない、と少年は何でもないことのように言う。

「ど、動機は!お前がそうする理由は何だ!」

グルップリーは少年に人間的でない何かを見たような寒気を覚えた。

「動機か・・・・・・」

少年はグルップリーの問いにしばらく視線を落とし、ぐるぐると歩き回っていた。


「・・・・・・僕はね、最初は妹を探すために旅に出たのさ。魔女にさらわれてしまってね・・・・・・。それで途中で一匹の狼を助けたのさ。彼は言ってたよ」

少年は立ち止まり、何度も深呼吸しました。

まるで沸き上がる怒りでも抑えようとしているかのように。

「何の罪もない生き物を自分の手で殺してその肉を食らうことがたまらなく嫌だって。自分の存在さえ否定するほどにその嫌悪は激しかった。それでも彼は最後にはその業を背負って生きていくと決めたんだけど・・・・・・」

少年が一息をつく。東と西の国の大人二人は子供の長い演説を口を挟むことなく聴いている。

「彼は狼だから生きるためには食べなければならない。その過程で殺すことは必要なことだ。人間だって同じ。家畜を殺して、その肉を食べるし、その時にはきちんと祈りを捧げる。でもさ・・・・・・」

少年は突然、顔を歪めた。その表情は怒りを含んだ悲痛なものだった。

「これから起きようとしてることは違うだろ!食べるためでも無いし、もちろん生きるためでもない!何がしたいんだ!何が目的なんだよ!?無数の生命を散らしてまで何がしたいんだよ!?

宗教?思想?人種?金?領土?下らない!

・・・・・・僕たちは人間だ。わざわざ殺しあう必要のない人間なんだ。他者の命を奪う必要性の無い者がどうして殺しあってるんだよ。そんなの、おかしいだろ・・・・・・」

少年は、はらはらと涙をこぼしながらその口元を怒りに歪める。

「そんなの僕は認めない。そうでなければ、僕は、僕はあの狼にも、鹿の長にも面目が立たない。断固として拒否する。僕の目が黒いうちは・・・・・・」

少年は涙を拭き、決然と顔を上げて二人の大人に宣言した。

「戦争なんてやらせない!!!」


†††

狼の話を忘れてしまった人は10~20を参照してね。

鹿は1~9。

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