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21.0~30.0

†††21.0


・・・・・・とんとんとん


・・・・・・とんとんとん


女の子は規則正しく聞こえてくる音に目を覚ましました。

いつの間にか眠っていたようです。


「・・・・・・はい」

女の子は半分眠ったまま扉を開けました。


「眠っていたの?ごめんね、あたし・・・・・・」

そこまで言ってアリスははっとしたような顔をしました。


「どうしたの?」

「う、ううん。なんでもない」

アリスは女の子の顔から目を背けて言いました。

そして一度ぎゅっと目をつぶり、次に目を開けたときはいつもの光が戻っていました。


「晩ご飯の時間よ」

アリスはにやっと笑いました。


†††22.0


アリスは女の子を連れて部屋を出ました。

「ねえ、どこに行くの?」

女の子が不安そうに聞きます。


「パンの倉庫よ」

アリスは女の子の手を引いたまま振り向かずに答えました。


「行って大丈夫なの?」

「大丈夫よ」

アリスは自信たっぷりに言いました。

「屋敷の玄関に置いてある時計が十回鳴いたら、魔女が出かけるの。それで次に十一回鳴くまでは帰ってこないの」

「留守にしててもばれるんじゃないの?」

「ううん、魔女が屋敷にいないときは気づかないわ」


「カエルにされたりしない?」

「大丈夫よ。あたし毎晩行くもの。さ、早く行くわよ」

アリスに手を引かれて女の子の胸はどきどきとわくわくで落ち着きませんでした。


廊下の途中に鏡が置いてありました。ちら、と鏡を見た女の子はびっくりしました。さっきまで泣いていたせいで顔がはれていたからです。


(さっきアリスが気まずそうにしてたのは私の泣き顔を見たからね)


女の子はアリスの手を少し強くにぎりました。


†††23.0


しばらく歩いて二人はパンの貯蔵庫の前まで来ました。

「開けるわよ」

二人でドアを開けました。


朝と変わらず大量のパンが静に眠っています。

アリスがその中の一つを朝とは違って大きく切り取りました。


「はい」

自分も食べながら女の子に切り取ったパンを渡します。

女の子は手の中のパンを目をまん丸くして見つめています。


「食べないの?」

女の子はアリスを不安そうな目で見つめました。


「・・・・・・食べてもいいの?」

「大丈夫よ。魔女にはわからないわ」

「そうじゃなくて」

女の子は首を振ります。

「こんなにたくさん食べていいことってなかったから」

アリスはパンをかじりながら女の子を見つめます。

そしてふとにやりと笑って言いました。

「・・・・・・食べないのならあたしが全部食べちゃうけど?」


女の子はうっ、と息をつめました。そしてパンをじっと見つめ、一口。

もう一口。

一回一回かみしめるように味わって食べます。


「ゆっくり食べなよ。パンも時間もたっぷりあるんだから」


†††24.0


「大丈夫かい?」

「大丈夫。・・・・・・よいしょっ・・・・・・!」

男の子は足を悪くした男の腕を担ぎなおしながら言いました。

ケガをしてしまった男に肩を貸して数時間歩いていますがまだ城は遠く、さらに数時間かかるでしょう。日が暮れてしまうかもしれません。

男は杖を使って男の子になるべく体重がかからないように歩いていますが、その歩みはどうしてもぎこちなく、遅く、不安定でした。倒れて男の子に助けてもらうことも二度や三度ではありません。


「・・・・・・やはり君だけでも、先に」

「何度目ですか。僕は行きませんよ。あなたは連れていきます。早くここを通り抜けさせたいのなら足を動かしてください」

男の子は男の十何度目かの提案を途中で遮った。

男がおとなしく懸命に痛みに耐えて歩いていたその時。

「来たか・・・・・・」

男が苦々しげにつぶやきました。

盗賊です。


†††25.0


盗賊が二人のいる草原の端に姿を現しました。七人組で全員が馬に乗り、腰に曲刀を下げているのが遠目にもわかりました。

「急ごう!」

「いや、もう無駄だよ。逃げられない」

少年は眼下に盗賊を見下ろして言います。

盗賊は二人に気づいたらしくこちらに向かってきます。

「待つことはないよ」

少年はそう言って盗賊達の方へと歩きだそうとしました。

「君!おい、気は確かか。な、なぜそっちへ向かう!?」

「待ってても仕方ないよ」

少年は男を振り返ってにや、と笑った。

「こっちから行こう」


†††26.0


「僕からあなたに三つほどお願いがあります」

少年は男を半ば引きずるようにしながら少し強ばった声で言います。

「いや、君・・・・・・」

男が反対しようとしますが、それを遮るように少年は言います。

「一つ目はあなたはあの町の貴族であるように振る舞うこと。二つ目は僕をあなたの従者として扱うこと。三つ目はあなたは一刻も早く町に行かねばならない用があるような態度をすること」

男は流れるようにそう言った少年の顔を信じられない、とでもいうように見ました。

「あとは流れで。僕に合わせてください」

少年は男の顔を見てにこっと笑いました。

「大丈夫です。うまくいきます」


†††27.0


「お願いします!どうかお願いします!旦那様に手を貸してください!」

馬で素早く少年達の元へやってきた盗賊達に少年は必死に訴えた。

「・・・・・・何だ?何を言っている?」

リーダーらしき男がいぶかしげに眉をひそめて尋ねた。

「聞くことないですよ。さっさとと奪って帰りましょう」

リーダーのそばにいた男がより疑い深い目で少年を見る。

このままではいけない、と少年はさらに言葉を重ねた。

「旦那様は今日どうしても王様の御前に参上しなさらなければならないのです。しかし、先ほど馬車が壊れ怪我をしてしまいました。このままでは間に合いません。どうか協力してください」

盗賊がざわつく。当たり前だ、王様が登場したのだから。これでこの男は「王様に謁見できるほど」の男・・・・・・かもしれない、と思わせることができた。

「その儀とは?」

リーダーが聞いた。

「は?儀?」

少年は儀という言葉を知らなかった。

「・・・・・・何用で王に合わねばならんのだ。・・・・・・小僧お前は喋るな」

リーダーは答えようとした少年を遮って言った。

「しかし、旦那様は怪我で・・・・・・」

「二度言わせるな。王に会って話せるなら今も話せる。次に割り込んだらお前も『旦那様』も殺すぞ」

少年はうっとなった。迫力に圧倒されたのもあるし、話を思ったより信じていないことがわかったからだ。

「・・・・・・言え、ない。極秘事項、だ」

男がうつむいて、苦しそうに、それでいて重々しく言う。

「言え。言わなければ今ここでお前を殺す」

男はうつむいたまま何も言わなかった。

「貴様・・・・・・。ならこの小僧を殺すぞ」

少年はまずい、と思った。この解答に間違えれば二人とも死ぬ。問題は男がそれに気づき、なおかつ上手い答えを出せるかどうかだ。


「・・・・・・やめろ。その子は、殺すな」

まずい、と少年は思った。このままでは二人とも、殺される。


†††28.0


「ほぉう」

リーダーの目が意地悪くほんの少し細くなる。見ているものが気づかない程度にほんの少し。


王様に聞かせる程の極秘事項を、言えない、と断ったのはいい。しかし直後にたかが従者の子供の命がかかった程度のことで弱みを見せるのはおよそ臣下の行為ではない。

そのことをリーダーもわかっている。

だから、このままでは男は『臣下』ではなくなる。

二人とも殺されてしまう。


「・・・・・・その子が極秘事項を知っているんだ。殺されては困る」

男が言った。この道があったか、と少年は少しほっとした。

「どんな?」

しかし、リーダーがなおも問いかける。

「言えない」

「言わないと殺す」

「言えないと言っている」

男はなおもしぶった

「今、言わなければ王様に拝謁賜ることなくここで死ぬぜ?」

男がうっとつまる。

今だ、と少年は思った。

「旦那様・・・・・・」

『旦那様』が『従者』を見やった。


「・・・・・・わかった。少しならいいだろう」


†††29.0


その言葉にリーダーが油断なく目を光らせる。男が次に何を言うか注意深く聞いているのだ。半端なことを言えば殺されるかもしれない。


「西の国を知っているな?」

男は切り出す。口調は淡々と、早くもなく、遅くもない。

リーダーは黙っている。男はリーダーの目を見据えて言う。

「西の国の南西の町ランフェン、その郊外に不穏な気配あり、だ」

部下たちがざわつく。声の具合からすると話を信じたようだ。

しかし、リーダーは細い目をさらに細くした。

「・・・・・・不穏な気配?なんだそれは」

鋭い刃物のようなリーダーの視線が男を、そして少年をえぐる。

男は視線を正面から受け止めて斬り返す。


「・・・・・・軍隊が結成されつつある」


†††30.0


男の言葉を聞いてリーダーはじっと考え込みました。

しばらくして彼は

「わかった。信じよう」

と言いました。

少年と男はとりあえず命だけは助かったと、ほっとしました。


「小僧が言っていたようにその男を王都まで連れていってやろう。ただし」

リーダーの目がぎらっと光る。本題はここから、というわけか。


「見返りとして百万ギーレン。それと小僧は置いて行け。金と引き替えに返してやろう」


*1ギーレン≒1円


†††

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