ラスボス
僕はラスボスだ。
いきなりこんなことを聞かされても意味が分からないよね。だからラスボスなんだ。
ラスボスだけあって、ここへ到達した敵は未だにいない。僕がラスボスでなければ、多くのプレイヤーが僕を倒しにきたかも知れないけど、僕がラスボスである以上、敵はそう簡単に僕の元へは辿り着けないのだ。
僕が倒されればこの世界は終わる。エンディングが待っている。
けれど、例え敵がここへ無事辿り着けたとしても、僕を倒せる保障などありはしない。
ドンドンドン、と扉を叩く音がする。僕はここでふんぞり返っていればいい。
ここへ辿り着くための鍵はそう簡単には入手できない。僕はラスボスであるがゆえ、ここでどっしりと構えていればいいのだ。
ピポピポピポーン――チャイムがうるさい。そんなリズムでは僕が扉の元へと歩み寄ることさえない。
例えばそう、僕の元へ芳醇な香り漂う食べ物を持参したり。ア〇ゾンのロゴが入ったお届けものを持ってきたり、あらかじめ僕の敵でないことを示したものだけに扉が開くことがあるだけなのだ。
ラスボスである以上、敵に対して扉へと足を運ぶことなど絶対にありえない。
なぜなら、ラスボスだから。ラスボス最強。ラスボス万歳。ラスボスを倒せるものなど、きっとこの世界には存在しない。あまねく下々の者たちは僕のカリスマに膝を折り、瞳を輝かせながら僕に屈するのだ。
この世界は僕がラスボスとして用意された舞台。その舞台を主軸としたこの世界は、誰もが強制的にプレイさせられている。ランダムに産み落とされたプレイヤーたちはこの世界で生きてゆくためにさまざまな知識を学び、雑魚として少しづつ経験値を貯めてゆくしかない。
多くのプレイヤーたちは自らの装備を整えるために必死になって働き、食べるために働き、欲望を満たすために働き、僕というラスボスへ辿り着くことなく朽ち果ててゆく。
僕はラスボスなので最初から全てを用意され、全てを与えられていた。
ラスボスたる僕は常に暇を持て余し、照りつける陽射しを一身に浴びながら、今日も訪れることのないであろう敵を想い、ラスボスとしての使命を全うする。
ふんぞり返り、横になり、命の水を啜り、有り余る食料を好きな時に好きなだけ食べ、ラスボスとしての神々しい姿を、僕の世話をする下々のものたちへ見せてつけてやる。今はそう、たったそれだけでいいのだ。
愛らしく、力強く、ラスボスとして。今日も僕はこの部屋で敵を待ち構える。
さぁ、来るがいい! 勇者ごうとーよ。決して僕は勇者になど遅れはとらない。
僕はいつかここへ辿り着くかも知れない敵の存在に、胸を高鳴らせていた。
「ラスコス、おいで」
「最近、ラスボスっていうと反応するのよ」
「ラスボス、おいで……お、ほんとだ」
僕はラスボス、ポメラニアン。この世界に君臨する、ラスボスだ。
(おわり)