9.野良おもちゃ
「行き倒れを拾ってきた」
アンディはそう言いながら、隠れ家のような場所へ入って行った。入るかどうか一瞬迷ってから、ロッタとロボは後に続く。
そこはガラクタが積み上げられた隙間みたいなところで、捨てられたおもちゃ達には丁度いい場所なのかなと感じる。
「ふぅん、こいつらか」
中に入ると五人ほど、集まっていた。誰が特にリーダーという訳ではないだろうが、真ん中に座っていた一人がそうつぶやいた。
それはくまのぬいぐるみで、しかしかわいいというより怖いイメージだった。つぎはぎだらけで、縫い目が痛々しい。
ロッタはごくりと唾を飲み込んだ。すっかり萎縮してしまって、何も言えない状態だ。
けれどロボは違っていた。別に怯んだ様子もなく、隠れ家のおもちゃ達の前に歩み出た。
「俺たちは街のことを知らないから、迷ってるんだ。よかったら助けてほしい」
なんの躊躇もなく言うロボを、くまは気に入ったようだった。ははっと愉快そうに笑って、他のおもちゃと目配せをした。
「大体の奴らは俺の姿を見て、何も言わずに帰っていくんだよ。お前は違うんだな」
「まぁ…、怖いもの知らずなところあるからな」
会話から、このおもちゃ達は悪いひとではなさそうだと思ったロッタは、けれど周りについて行けずにぼおっとしていた。それを見ていたくまは、ロッタに声をかけた。
「そっちのうさぎは怖がってんのかぁ?」
「へっ…、あ!いえいえっ」
驚いて慌てたロッタを、くまはなんだか懐かしそうな目で見て、優しく笑った。
「俺はボスって呼ばれてるんだ。ボスじゃないんだが…、そう呼べばいい」
「はいっボスっ」
なんとなく敬礼をしてみる。ボスは笑顔で「ご苦労っ」と返してくれた。
楽しくなってきたロッタは、へらっと笑った。ボス以外のおもちゃも、二人を受け入れてくれたみたいだった。コントでも見ているような雰囲気だった。
しばらくして、他のおもちゃといろいろ話したりしていると、いきなりボスが真剣な顔をした。
「それでアンディ、二人はお前持ちなのか」
「そのつもりだが、何か問題でもあるか」
突然真面目な話に入って内容があまり理解できてないロッタとロボは、「それでいいか」とボスに聞かれてとりあえず頷いた。
「…どうゆうこと」
後からこそっとアンディに聞いてみると、特に大事なことではないから、と返された。
「ただ、行き倒れのおもちゃは結構いたりするから、ここに集まってる人らで対応するんだ」
本当に特に大事なことではなかったので、うんうんと適当に頷いて返した。けどとりあえずは案内してくれるようなので、安心した。
「んで、どこへ行きたいんだ?」
アンディがそういえば、と気がついて聞いた。ロッタも、そっちのことはよく考えてなかったので、半笑いでロボを見た。
「…、お前考えなしであそこを出たのか」
「だってぇ…、や、考えはあるけど」
小さな口論をしていると、おもちゃの一人がちょっとした疑問をぶつけた。
「おまえたちはどこから来たんだ?」
ロッタがアンディと同じように軽く答える。「まちだよー」と笑うロッタに、みんなの反応は早かった。
「なんでまちを出たんだよぉっ!おかしいだろ!」
「デューイ、落ち着け!」
「だって『まち』だぞ!だって…」
激しく身振り手振りするおもちゃに、ロッタとロボは若干引いていた。引きながらもロボは、どういうことか尋ねた。
「まちって言ったら、たくさんおもちゃが集まるところじゃん。野良の奴らにとっては、あそこは憧れなんだよなぁ…」
ぽつんと一人のおもちゃが言う。それでアンディたちの反応の意味もわかった。
そりゃあ、憧れの場所から出てこんなところにいたら怒るのだろう。そんなこと気にしなくてもいいのに。ロッタもロボも同意見だった。
「来たらいいのに。歓迎するよ?」
「捨てられたもの達の集まりだからな、野良とか関係ないけどな」
二人の言葉に、みんなは嬉しそうに笑ったのだが、首は横にふった。決心は固いようだ。
「俺らはこっちの世界で生きるべきなんだ。今更どうしようもないんだよ」
微笑みながら言うので、ロッタとロボは何も返せなかった。捨てられた者の中でも、こんなところに差があるとは思っていなかった。
いつか絶対にこのみんなを連れて、長老のところへ行こうと、二人はこっそり合図を出した。