7.『街』にでる
「うーん…。道は遠いね」
ロッタはぼそっとつぶやく。まだ歩き始めたばっかじゃねぇか、というロボの声は聞こえないフリ。
確かにゴミ山から出発したのはついさっきだ。けれど、ロッタの頭が大きすぎるという、可愛い体の比率のせいで大いに苦しめられていた。そもそもこの体は、長時間の活動には向いていない。
ふらふらと、それでも歩き続けるロッタに、ロボはストップをかけた。重たい頭が右に左に揺れる。
「ロボありがとう…。頭取れるかと思った」
「それは笑えないな」
頭が取れたら縫うしかない訳で、でもロボは片手しかないしそもそも手がアーム状な訳で。
本当に危ないのだ。
冗談抜きで。
二人は近くのダンボールなどの影の裏に隠れて休んだ。人間はおもちゃが動くなんて夢にも思ってないので、見つかってはいけない。
その条件が余計二人の進む距離を縮める。移動にさえも神経を使うものだから、もうへとへとだった。
「ここまで大変なことだったなんて」
大分疲れているようで、相手の言葉に反応するのも遅れてしまう。二人そろって初めて街に出るので、上手な移動方法を知らないだけかも知れないが。
「…しんどくなったから、帰るのか?」
「いいや、まっさかーぁ」
その声も、いまいち元気がない。「やっぱり帰る」と言ってもおかしくないテンションだった。
気力もだんだん落ちてきて、歩けるような状態ではなくなった。少しでも先に進みたいところだが、体は動いてはくれなかった。
「まだ朝にもなってないが…、ここで寝るか」
「うん、そうするしかないね」
おやすみ、と言い合ってから、二人は眠りにつく。
ゴミ山を出て、数十メートルの地点でのことだった。
「…こんなところで何をしているんだ?」
突然頭上から降ってきた声で目を覚ます。危険に関して敏感なロボの方が先に体を起こした。
「何って言われても」
ロッタはつぶやきながら声のした方を見上げた。いつの間にか朝になっていて、太陽の光が眩しかった。
声の主は、木でできた馬のおもちゃだった。木とは言っても、体は自然に動くようだ。
木馬は二人をじっと見て、何か考えたみたいだった。結論を素早く出して、くるんと後ろを向く。
「ついて来い、こんなところに居ては人間に見つかってしまうぞ」
勝手に話を進めて歩き出した木馬に、二人は訳がわからないままついて行ったのだった。