6.行きたい場所があるの
このゴミ山に来てから数日経って、ロッタは大分ここでの生活に慣れてきたようだった。ロボにいろいろなことを教わり、新しい暮らしをそれなりに楽しんでいた。
だから突然のロッタの言葉にみんなが驚いた。
「人間の住むところに、行きたいなぁ」
長老のいる場所でみんなが集まっているときにぼそっとつぶやいてみると、周囲が固まっていた。予想以上にびっくりしたらしく、口がぽかんと開いてしまっているこまでいる。
あれそんなに変なこと言ったっけ、とロッタが首をかしげると、ららが冷静に尋ねた。
「ロッタ…、本気?」
「え、うん。何が?」
何が言いたいのか理解できていないロッタは、ららの次の言葉を待っていた。
「だって!事情は知らないけど、私たちは主人に捨てられたんだよ。そんな最低な人間らが暮らすところに行きたいなんてまさか!」
「そりゃあそう、だけれど」
口を尖らせると、みんなが何かしら説得の言葉を言おうとしていた。誰かが発言をする前にロッタは早口で言った。
「私たちはすでに捨てられたけど、元々人間が遊ぶためのものでしょ?」
そう言うと、みんなが目を伏せた。呻くような、長老の反論が聞こえる。
「そんなことはわかっている。でも、もうそれは無理なんだ。…だからよく考えてほしい」
悲しそうにみんながしているものだから、ロッタは何も言えなくなった。辛いことを忘れてここで楽しくやっているはずなのに、嫌なことを思い出させてしまったな、とロッタは後悔した。
「もう少し、考えてみるね」
無理矢理にでも笑顔をつくって、ロッタはみんなの輪から外れた。何とも言えない表情をしているのがちらっと見えたけど、考えずに歩く。
忘れていた。
楽しそうにしていても、捨てられた者たちだってことを。
みんなが呆然とするなか、ロボが一人後を追った。
「考えてみるとか、嘘をつくなよロッタ」
そんな言葉が後ろから聞こえて、ロッタはゆっくりと振り返った。へらっと笑って「なぁに」とたずねる。
見えたのは、怒ったような顔のロボ。何がロボの気にさわったのかわからないロッタは、軽く首をかしげてみた。
「どこへ行くつもりだ」
「えー?寝るー」
もういつの間にか夜だし、と笑ったけれど、ロボは引いてくれなかった。むしろ目つきが鋭くなった気がする。
「寝る所はあっちだろう」
「うん、知ってる」
ロッタは誤魔化すのをやめた。こんな会話をいくら続けたとしても、ロボには絶対に勝てないだろう。
「どうしても、行きたいんだ…」
「……」
笑うロッタにロボは諦めたようだった。いや、諦めたというより、ただの確認だったようだ。
「じゃあ、うん、俺も行く」
「…え?」
てっきり引きずってでも連れ戻されると思っていたロッタは、一瞬状況が読み込めなくて、固まった。ロボはにやっとして、「俺も見たいものがあるんだよなぁ」と笑った。
「…ついてきてくれるの?」
「ああ」
「本当に!?やったあっ」
その日の夜に二人はまちを出た。もちろん長老たちには報告せずに。
まちにいるみんながその事実を知るのはもう少し後のこと。