5.占いは気をつけて
このゴミ山では人間の目を気にすることなく、自由に行動できる。だからおもちゃ達は基本的に暇を持て余すのだという。
そこで占いや探検など、人間の娯楽を取り入れて遊ぶ者が出てきた。確かに探検なら毎日毎日ゴミが増えるのだから、飽きることはないだろう。
「長老は動けなくて、暇じゃないの?」
ふと疑問に思ったロッタはそう聞いてみた。長老は優しく笑って、答えてくれた。
「暇は暇だが…、いろんな子が来てくれるから大丈夫だよ。ロボも前は毎日来てくれてたんだが、大人になったなあ」
ロボが毎日?、と驚いたロッタはロボをじいっ、と見つめた。ロボは「あいつがここに来るからだ」と言った後、恥ずかしそうに俯いた。
「そいつだったらもうすぐ来るぞ。帰らなくていいのか?」
あいつやそいつがわからなくて首をかしげるロッタの横で、ロボは焦ったような顔をした。そして何か行動を起こす前に『あいつ』が来てしまったようだった。
「やっほー、長老一日ぶり!そこのロボットは久しぶりどこ行ってたの!…ありゃ、新人さん?」
「ぬいぐるみって珍しいなあ」
テンションの高い声と共に現れたのは、ここに来るまでに見た、占いをしていた人形だった。続いて小さなショベルカーのおもちゃも現れる。ロボは不満がそのまま顔に出ていた。
苦い顔で笑った長老はとりあえず戸惑っているロッタを紹介した。
「こいつはロッタ。ロボが連れてきたんだ」
「「ロボ!?」」
その単語に素晴らしい反応をした二人は、すばやくロボを見た。そうだけど何か、と言いたげな仕草をしたロボを見たとたん、二人は笑い出した。
「あはっ、あははっ!だ、誰がつけたの…っ」
「あ、私」とロッタが手を挙げた。
「そのまんまじゃないっ」
「でもナイスだっ!上手い!」
笑いころげる二人に、長老はそんなに笑わなくても、と苦笑していて、ロボは必死に何らかの感情を抑え込んでいるようだった。顔が赤いから、多分羞恥心だろう。
散々笑った後、占いの人形はスイッチを切り替えたように話題を変えて、自己紹介をした。
「はじめまして!私はらら。こっちはショベルね。よろしくっ」
「よろしくな!」
よろしく、とロッタは挨拶して、さっきから言っていた『あいつ』はこの子達なんだろうな、とぼんやり考えた。それと同時に占いのことも気になっていたが、それは相手が言ってくれた。
「私は催眠術みたいなものをやってるんだけど、ロッタもやる?」
「やめとけ、ロッタ」
二人が来てからずっと黙っていたロボが口を開いた。ららはきっ、とロボを睨んだ。
「変な言いがかりつけて邪魔しないでよっ」
「ふざけんなよ、お前のせいで何人おかしくなったと思ってるんだ。催眠術の研究だか知らないが、これ以上犠牲者を出すなっ」
「それが言いがかりだって言ってるでしょう!」
「じゃあこの前ジョンがここ掘れワンワン、て言いながらゴミ山あさり出したのも、説明できるんだろうな」
「えっと… っ、それは…」
ららが言葉に詰まって、何も言えなくなった。どうやら、ららの仕業ならしい。
危ない事だとわかってしまった今でも、ららは期待の眼差しでロッタを見てくるものだから、苦笑いしながら断りをいれる。
「えへへ…、エンリョしときます」
ららの怖い視線を感じながら、ロボが毎日長老に会いに来なくなったのはこういうことか、と考えていた。気持ちがわからなくもない。
催眠術ができる相手を探すららを見ながら、ロッタはこっそりショベルに聞いた。
「ショベルはやったことあるの?」
「いや、まだない。けどあれはやらない方がいいぞ」
その後ららが標的を近くにいたおもちゃに定めて追いかけるのを、ロボが必死に止めていた。ららの勢いはなかなか止まらなくて、全員で掛かってようやく強制終了させることができたのだった。
止めるのに大分時間がかかったからか、ロッタはここに来たときと景色が変わっている、と気づいて空を見上げた。つられてみんなも見上げる。
空は夕暮れでオレンジに染まっていた。もうそろそろ解散の時間らしい。
「じゃあね!」「またね!」
次々と自分の場所に帰っていくおもちゃ達に、行き場をなくしているロッタの手を、ロボの手が握った。
「ほら、行くぞ」
その言葉が嬉しくて、ロッタは笑顔で頷いた。




