4.はじめまして
「…あれ」
開けた場所の真ん中で、ロッタは小さくつぶやいた。首をかしげて考える。
ロボの話によると、ここには長老、いやちょーろーがいるはずだ。けれど、辺りを見回してもそれらしきおもちゃはいない。
「空いててよかったな。混んでるときは大変なんだよなぁ」
ロボがのんびりと話しているが、空いてるもなにも本人がいないじゃないか、と悩んでしまう。
「お留守なんじゃないの」
「何言ってんだよ。ここに……、ははあ」
上げかけた腕を下ろしながら、ロボは意地悪そうに笑った。何か企んでいるご様子だった。
「どれだか当ててみろよ。まあロッタだし 、できるよな」
楽しそうに言うロボに、対抗心が湧いてくる。相手の思うつぼだと思いながらも「そのくらいできるよ」とロッタは駆け出した。
けれど言ったのはいいが、全くわからない。かくれんぼするようなお茶目な長老なのか、とつぶやきながら、とりあえず手前の古い鉄のバイクの後ろを確認しようとした。
すると頭上からふっふっふ、と笑いを抑える声が聞こえてきた。まさか、と思って顔を上げる。
「残念だなあ、ロッタ。そのバイクがちょーろーだよ」
勝負に勝って嬉しそうなロボの声を聞きながら、ロッタは戸惑っていた。バイクの方から「驚いたか?」と話しかけられたときなんか、びっくりしてロボを盾にして隠れるほどだった。
「え、なんで?電子機器とかそういうのは生きてないんじゃあ…」
警戒するロッタに、バイクは苦笑した。
「突然変異みたいなものなんだよ。あんまり怖がらないでくれないか」
ほら、とロボに促されて、ロッタは混乱しながらも長老にあいさつをしに、前に出た。今更だけど失礼にならないように、なるべくいつもの自分を出すようにする。
「えっと…、ロッタですっ。はじめまして」
「ロッタか。私は長老とかちょーろーとか呼ばれてるが、好きにしてくれたらいい」
どうやらこのバイクも、長老とちょーろーの微妙な違いを自由に表現できるらしかった。ロッタにそこまでの技術は備わってないので、仕方ないから長老と呼ぶことにする。
バイクの非現実的さに、ぼおっとしているロッタをよそに、ロボと長老は何やら話していた。
「お前がここに来るなんて珍しいな」
「ロッタを連れてきたかったからな。…あ」
思い出した、と言うようにロボはつぶやいた。そしてとても重要なことをさらっと口にした。
「名前、ロボになったから。ロッタがつけた」
「ロッタがか?…ふふふ、いい名前じゃないか」
長老は一瞬とても驚いた声になってそれから嬉しそうに笑った。バイクだから表情がわからない分、声での表現が豊かだった。
ロボはといえば、単純に照れているようで、すこしうつむきがちに「よかったよ」と返していた。バレバレな反応に、かわいいなぁと思ってロッタは笑った。
それを見ていた長老は、今まですっかり言い忘れていたことを言おうと、ロッタに向き直った。
「私は確かに長老と呼ばれているが、別に偉いからという訳ではない。だから普通に接してくれて構わないよ」
「はい!」
「それとここでは問題を起こさない限りは好きに行動してくれればいい」
はぁい、とロッタは元気よく返事した。見知らぬものへの緊張は、大分薄れたようだった。
思いなおせば、ここに来なかったら――つまり捨てられていなかったら、ロボにも長老にも出会えなかったということだろう。
そう考えたら悪夢でも来てよかったな、とロッタは、自分の最初の気持ちが変化していることに気づいて、可笑しくなってくすり、と笑った。