2.名前を教えて
歩き始めて数分、
なんの会話もなく、退屈になってきたロッタは、もくもくと進むロボットに声をかけた。
「ねぇ、なんていう名前なの…?」
するとロボットは突然立ち止まった。名前を教えてくれるのか、とロッタは待っていたが、ロボットは何故か一言も喋らなかった。
いらいらしてきたロッタが催促するように「ねぇ!」と怒鳴ると、ロボットは申し訳なさそうにつぶやいた。
「名前…、は、ない」
「…え?」
「だから名前はないんだっ」
驚いて口をぱくぱくさせるロッタに、ロボットは悲しそうに目を伏せて言う。
「なんでないの…?」
「つけてもらってないから」
顔は悲しそうなのに声は淡々としているものだから、ロッタまで悲しくなってきた。
すっかり忘れていたが、世界には愛されないおもちゃもいる。すべてのおもちゃが命名され、可愛がってもらっている訳ではない。
それにこのロボットは捨てられたときは綺麗だったことがうかがえるのではなかったか。
ゴミ山での生活に支障はなかったのかと不思議に思ったが、今聞くべきことではない気がした。
なんとかしたいという思いで、ロッタは思いついたことをそのまま言った。
「っ、じゃあ、私が名前つける!ちょっと待って…」
今度はロボットの方が驚いて、目を丸くした。相手の返答を聞く前にロッタは考え始め、その間ロボットは静かに待っていた。
ちょっと、というにはあまりにも長い時間待たせて出た結論は不満を言われてもおかしくないものだった。
「えっと、あの…、ロボ、で」
伏し目がちに言うロッタに、ロボットは露骨に呆れていた。この長い長い時間はなんだったんだ、と言いたげなのが表情から読み取れるほどだった。
その不満が言葉になってでてくる前に、ロッタは言い訳をするように早口で喋った。
「違うよ。決して考えるのが面倒くさくなったからとかそういうのじゃなくて、一番似合うと思ったから…、その…」
だんだん声が小さくなっていくロッタに、ロボットはさっきまでと同じような口調でさらっ、と言った。
「いいんじゃないのか?長い待ち時間については言いたいことはあるが、名前の方は、うん、気に入った」
返事を聞いて、ロッタはぱっ、と笑顔になった。嬉しそうにロボに言う。
「本当にっ!?人の名前つけたのは初めてだから、すごく嬉しい!」
ロボもそれなりに喜んでいるみたいだったから、もっと嬉しくなって。
それから数分間、二人で飛び跳ねて遊んだ。