13.大切にしてあげて
朝起きたら、アンディはいなかった。
「あれっ…、アンディは?」
寝ぼけながらロボに聞くと、相手は特に何ということもなく平然と答えた。
「今朝早くに出ていったぞ。ロッタは寝てるから気づかなかったんだな」
え、うそ。ちゃんとお別れしたかったのに。
ぶつぶつ言いながらでも仕方ないな、と思う。今日の起床時間はいつもに増して遅い。
ロボはずいぶん前に起きていたようで、アンディとは少し話していたらしい。いや起こしてよ、とロッタはふてくされる。
「まあ、また会えるだろ。そんとき話せよ」
そういう問題じゃないのに、とつぶやいてから気分を入れ替えようとする。これから街に行くのに、むすっとしていても楽しめない。
「ま、いいや。また会ったときで」
これ以上ロボに何か言っても無駄な気がして、ロッタは諦めた。たしかにアンディはこのあたりで行動しているだろうし、案外ばったり会うかもしれない。
朝から忙しいなぁと思いながら軽く体を伸ばして、二人は路地裏を出る。昨日回った分でもまだ足りなくて、今日もしっかり歩くつもりだった。
人間には見つからないように、けれどアンディに出会う前より大胆に、街を歩いた。
午前中に歩き続けて午後も歩いて、いくらなんでも歩きすぎなくらい無茶をしていた。
ストッパーとなるアンディがいないため、永遠に歩いた。それでも全く疲れがみえないのだから、二人は病気なのかもしれなかった。
そのまま進んでいると、いままでは見かけなかったが街には必ずあるべきお店が見えてきた。それは当たり前にあるものだが、二人にとってはなんとも言えない気持ちになるお店。
特に何があるという訳ではないが、二人は物陰に隠れて、そのお店から出てくる人たちを見ていた。今日は休日なのか、商品を抱えた子供がたくさん出てくる。
抱えられたその商品、そのおもちゃたちの嬉しそうな顔が見える。
ここは大きなおもちゃ屋さんだった。
ロッタにとってはあの子に会えた思い出の場所。
ロボにとっては夢にまでみた憧れの場所。
しかしそんな大切な場所でも、決して好印象ではないということはお互い言わなくてもわかっていた。
ここはたくさんの幸せなおもちゃを生み出す場所だ。それと同時に悲しいおもちゃも作り出していく。
抱きかかえられた嬉しそうなおもちゃを見て、それから二人は顔を見合わせて、ニックのことを思い出したりした。
「…辛いな」
つぶやいたロボに、ロッタは小さくうなずいた。
すっかり下がってしまったテンションは、余計に悲しいことを思い出させた。興奮していて感じなかった、歩きすぎた足の痛みも気づいてしまった。
これ以上お店を見ていても仕方ないと思って、二人はその場所を離れた。ここにいた時間は短かったけれど、もう十分だった。
店を離れるとき、ショーケースに入ったおもちゃたちを見て、どうかかわいがってもらう時間が少しでも長引きますように、と願った。




