12.一日の終わり
空も赤くなって、日が沈みかけているころ。アンディはまだまだ元気なロッタとロボを、路地裏へと誘った。二人はまだ全然疲れていないかも知れないが、アンディの方がピンチになっていた。
ハイテンションの二人にあわせて行動したのだ、普段歩かないような距離を移動していた。足が折れてしまったらどうしよう、でも一本折れても三本残っているし大丈夫か。そんな怖いことをぼんやりとした頭で考えた。
アンディの体は休憩を必要としていたが、二人は別に平気だったらしい。「もう休むのー?」と笑われた。
「いや、あれだけ歩いてへたばらないお前らは絶対おかしい」
そうかなぁ、と首をかしげるロッタは絶対自分がどれだけ歩いたかわかっていない。万歩計をつけていたと
したら驚いていたはずだ。そんな高価なもの、捨てられたおもちゃが持っている訳ないけど。
このまま明日もおんなじようなことになったらそれこそ体が持たない、とアンディは正直に言うことにした。負けたような気分になるのであまり気は進まないが、足が折れてしまうよりはマシだ。
「悪いが今日と同じペースで歩くなら俺は体が持たない。そうなるなら別行動したいんだが」
はっきり言うと、ロッタとロボは顔を見合わせて、何か考えているようだった。それから申し訳なさそうにアンディへ向き直った。
「ごめんアンディ、先々行きすぎた…」
あまり疲れていない様子でロッタが言った。あれだけ歩いて何故、疲れていないのだろう。少しくらい疲れてもいい気がする。
どうやら本当に楽しんでいた二人は疲労など、意識の中にない様子だった。アンディが楽しんでいなかったといえば嘘になるが、レベルが違うようだ。
今は謝っているが、一度興奮するとまた二人は暴走してしまうだろう。アンディはなんとなくそれがわかっていて、だからため息をついた。
「とりあえず、もう限界だ…。行きたいところがあるなら教えるから、抜けていいか…?」
「うん、ごめんね」
ロッタがしゅんとして謝る。ロボは仕方ないな自分たちが悪いんだし、とでもいいそうな顔をしていた。
それでもやっぱり名残惜しいロッタは、おずおずと「絶対むり…?」と聞いたが、アンディは「残念だけど」と悲しそうに返した。
とりあえずこれからどうしようか、と相談し始めたロッタとロボはまだ歩き続けそうな雰囲気で、アンディは焦りながら間に入った。そんなにずっと歩き続けて体は痛くないのだろうか。特に頭のバランス的に、ロッタとか。
「二人にとも、今から朝まで行動禁止っ!いつの間にか倒れていても面倒見れないんだからなっ」
「えー…、まだ大丈夫だよ?」
「アンディは心配しすぎじゃないのか」
文句を言う二人にも、アンディはくじけなかった。ここは譲れないところなのだ。
この二人に説明は不要だと考え、反論させないよう、強く言った。
「行動禁止、だ!朝まではいっしょにいるから、とりあえず寝ろっ!」
「「…、はい」」
すると返事の声はぴったり揃い、大人しくなった。落ち込まなくても、街は逃げたりしないのだ。大人なアンディはまだまだ子供の二人の気持ちはわからなかった。
そういえば自分もこの街へ来たときは興奮状態だったっけ。二人を見ていたらアンディはそんなことを思い出した。いつからだろう、街が日常になってしまったのは。
ぼんやりしながら、三人は路地裏へと歩いて行った。路地裏はきれいでゴミ一つ落ちていなくて、街の人達はこんなところには来ないんだろうということが想像できる。おもちゃ三つが落ちていたら不自然だろうと思ってしまうくらいのきれいさだった。
というか人間って落ちているものに気を配ったりとかしないんだなぁ。
ロッタは最初に人の目を気にして歩いていたことを思い出して、あほらしくなった。人間は見ていないのに、余計な神経を使っていたみたいで。
もう少し色んなところを見ればいいのに。
そしたらおもちゃが動いているというありえないことも、発見できるのに。
そう思って少し悲しくなって、三人は路地裏で眠りについた。




