10.何故そこを目指すのか
全くの無計画でまちを飛び出したことが判明し、多少の口論があったものの、話し合いの機会が持たれた。
喧嘩になりそうなところはボスが少し仲介して、二人の意見はまとまった。何故無計画で出たのかという言い争いよりは、随分早く決まっていた。
それは元々意見が似たものであったから。
「アンディ、私達人間の住んでいるところに行きたい」
「…?どういうことだ?」
「人間が生活してるところに行きたいの。街とか」
ロボも頷く。つまりは人間が見たいのであって。
「…、後悔はしないか」
「大丈夫!まかせて」
「捨てられてからの余裕みたいなやつだな」
アンディはしばらく考えて、最終的には勢いで決めてしまっていた。ボスはそれを楽しそうに見ていた。
軽く放心状態のアンディに、ボスはおかしそうに呼びかけた。
「どうする?俺が行こうか」
「、いや、いい!大丈夫だっ」
ほら行くぞ、と言ってアンディは早足で出口に向かった。謎な行動に、ロッタとロボは首を傾げることしかできないでいた。
「ボス、アンディどうしたの」
ボスは微かに笑いながら、出口を指さした。誤魔化すように二人の背中を押した。
「まぁ本人がなんとかするだろ。二人とも、辛くなったり逃げたくなったら戻ってこい」
「ロボは街に行くだけでいいの?」
アンディに追いつこうと早足で歩きながら、ロッタは聞いた。ロボは何故か少し寂しそうに「ああ」とつぶやいた。
「えー、心残りとかないの」
話しているとアンディも加わってきた。それだけのためにまちから出てきたのか、とふざけて怒るフリもしていた。
「あー、うん、俺は不良品のおもちゃだから。一度だけ人間の住んでるところを見てみたかっただけだ」
なんてことないみたいにさらっと流された言葉に、二人の歩みは止まった。しっかりと聞きとれていたけど、頭には入ってこなかった。
「え…、なんて」
「不良品、片腕取れてるだろ。このタイプは作り直さないといけなくて手間だって、捨てられた」
おもちゃは遊んでもらうために作られるのに。
時代の流れでこんな残酷なことが起こっているなんて。
言葉を失った二人に、ロボはしまった、とでも言いそうな顔をした。自分の中では整理できていて、もう受け入れている事柄らしい。
なんとなくロボが答えたことは、二人には考えられないようなことだった。
「ごめん、聞き流してくれ。そんなつもりじゃなかったから」
そんなつもりじゃないことは、言われなくてもわかっている。ロボは優しいから冗談で言ったりなんかしないはずだ。
何か言わなくちゃいけないと思いながら何も言えない二人は、黙々と歩き続けた。早くこの空気をなんとかしないということは三人とも考えていた。
結局状況はなんとかならないままに様々な建物が見えてきた。これを機に、とアンディが少し上ずった声をあげた。
「ほら見ろ、街だぞ!」
人や動物が歩いているのが見えて、わぁ、と思わずつぶやく。
着いてから数分間、さっきまでの雰囲気を忘れたロッタとロボは、ただ圧倒され見とれていたのだった。




