1.悪夢のような
突然空中にほうり出された。
一瞬だけ体験する空、すぐに乱暴な着地。断固として開けまいとしていたはずの目も、自分でも驚くほど自然に開いた。
目の前にはできれば一生見たくなかった景色。あちこち壊されて積まれている、この時代では特に珍しくない、ゴミ山。
使えるものも使えそうにないものも「ゴミ」という評価がなされた者達が訪れる場所。
目をつむることで逃れていた現実も、ここまで来たら仕方ない。実感はわかないが、そろそろ認めないといけないようだ。
言うまでもない、簡単な事実。
――、自分は捨てられたんだ。
何もすることがないから、やるせなく空を見上げた。見上げながら、空ってこんなに灰色だったっけ、と考え始めた。
たしか雲の白が混ざった青色だった。あの子といっしょにピクニックをした日も、滑り台で遊んだ日も、いつだって変わらず爽やかな青色をしていた。雨の日だってこんなに薄汚れた色はしていなかった。
青い澄み渡った空を思いうかべて現実逃避をする。懐かしかったあの頃に帰るだけ。楽しい楽しいあの頃に――、
「戻れる訳ないだろう」
と、すぐ近くから声がした。振り向くと片腕のとれたロボットがガラクタの山の上に立っていた。胸にメーターがついていて、主に長方形で構成され手足がアームの典型的なロボットだが、目は黒くて丸くて、かわいさを演出していた。
よく見ると片腕以外に目立った外傷はなく、捨てられた時は新品同然だったことがうかがえる。
「今…、なんて」
心を読んだようなことをいきなり言われて、誰かと問う前に反射的に聞き返していた。
「楽しいあの頃なんて戻れる訳ねぇんだよ」ロボットは言う。「ここに来たおもちゃが考えていることといえば、大体そんなものさ」
その言葉が気になって辺りを見渡してみると、ぽつぽつとゴミ山にいるおもちゃが見えた。なるほど、と考える。
ぱっ、っとロボットの方に向き直ると、相手は珍しいものでも見るような目でこっちを見ていた。
「…怒らないんだな、お前は」
普通のおもちゃは怒るのだろう。その事実を認めないために。自我を保つために。
それならこのロボットは怒られることを覚悟して言ったのだろうか。じゃあ何で言ったんだ、と疑問に思いながらうなずく。
ロボットは他の奴とは違う奴、として興味を持ったようで、「なんて名前だ」と聞いてきた。
「えぇと…、ロッタ」
久しぶりに自分の名前を思い出す。最近はあまり呼ばれていない名前。でも名前をつけるときに、あの子が悩みに悩んでつけてくれた、お気に入りの名前。
「ふぅん、ロッタか」
ロボットはつぶやくとくるりと後ろを向いた。ロッタがなぁに?、と聞くと短い答えが返ってくる。
「ついてこい、ロッタ。案内してやる」
それからすたすたと歩きだしたロボットに、ロッタは無言でついていった。出会って間もない、よくわからないおもちゃのあとに続いたのはほんの気まぐれで。
もしかしたらなにか新しいものが見つかるかもしれない、と思った。