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小さな嘘

「浅野。今、手あいてるか?」


連休前から手をつけていた資料作成を引き続き続けていた時だった。

ここのところ久しく会話がなかった主任にとうとう声を掛けられた。


「・・・急ぎ、ですか?」


「あ、いや、さほどでもないんだけど。空いてればって思ったんだが、無理か?」


極めて冷静に、いつも通り、対応してるつもりではいた。

が、主任は遠慮気味な意味ありげな態度を見せてくる。

胸の奥が疼く。

このままではいけない事は分かっている。

だが、これ以上進んでもいいとも思えてこなかった。


「・・すみません。今少し手が離せなくて。後でも構いませんか?」


「・・・・そうか。分かった」


しゅにーん、ちょっといいですかー。

タイミングよく主任を呼び止める声がした。


「悪かったな。じゃ、また都合いい時で」


「はい」


少し手が震えた。

そして嘘をついた。

こんな仕事、急ぎでも何でもない。

今、主任と真正面から向き合う程の余裕は自分にはない。

もう少し冷静になれるまで時間が必要なのかもしれない・・・。

・・・・・・・・・。

ちょっと待て。

何で今の私は冷静じゃないんだ?

思わず首を傾げた。






それから一ヶ月。

一対一での打ち合わせこそなかったが、引き続き主任と接触する機会は皆無だった。

いつのまにか私自身も、あんな事は最初からなかったんではないかと思うほど極めて冷静になりつつあり、ほとんど考える事もなくなっていった。




◆◆◆



打ち合わせから戻り、部へ戻った。

じき梅雨だからだろうか、湿気の多い日だった。

だからなのか少しイラついていた。


部屋へ入ると即効で目に入ったのは以前、飲み会で私に話しかけてきた総務の新人ちゃんだった。

(確か、立花さん・・だったっけ?)

その立花さんが主任と何やら話し込んでいるようだった。

(ああ、前に言ってた、仕事で話してる云々ってこれか。ってか何で今まで気がつかなかったんだろう)

自嘲気味に思わず鼻で笑ってしまった。


えー?!そうなんですか?フフフ・・・

そうなんだよ。今度試してみなよ


チラリと二人を見やると思いの外、楽しそうに和んでいた。


「先輩」


「伊集院。どした?」


「これ頼まれてた資料です。どうぞ」


「おお。ありがとう」


「あの二人、いい感じだと思いません?」


「え?」


伊集院が顎で指し示す方向にいるのは主任と立花さんだった。


「・・へー・・、そう・・なの?」


「あ・・すんません。変なこと聞いて・・・。こういうの先輩に聞くもんじゃないっすね」


「いじゅういんくーん。それ、どういう意味で言ってるのだね?」


「あ・・え、いや。えっと、すんませ・・」


「冗談だよ。いちいちビクつかないでってば」


苦笑いで誤魔化した。


「はは。それにしても何?あの二人、付き合ってたりするの?」


思わず小声で伊集院に話しかけてしまった。


「・・・付き合ってるわけではないと思うんですよ。でもまんざらでもないって言うか・・。もしそうなら俺協力しちゃおうかなとか思ってまして・・」


「あいっかわらず、アンタってそういう方面にやたら詳しいよね・・」


「ってか先輩がそういう方面にマイペース過ぎなんですよ」


伊集院は私の手前、言葉を選んだが、分かってる。

私はこういうのが苦手で鈍感だという事を。

でも。

いいのかもしれない。

この期に乗じて伊集院が主任の件で手を回してくれれば私も色々気を揉む必要がなくなるかもしれない。


「伊集院がそういうならいいんじゃないの?協力してあげれば?」


「お。じゃ時期がきたら、その時は先輩も協力してくださいよ?」


「分かった」


じゃ、と伊集院は自席へ戻っていく。

またチラっと主任と立花さんを見やった。

まだ二人の話は続いていた。

しかも二人とも笑顔だ。

(・・・なんかイライラする。今日湿気あるし、そのせいだよね・・)

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