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このままで・・

あまり気の乗らなかった飲み会だったが、思いの外楽しく進んだ。

若手以外の参加は私ぐらいかと思いきや、私と同期、もしくは2つ上の先輩までもが参加していた。

2・3言葉を交わしたが、後は思い思いに酒を楽しんでいた。


「浅野さん」


名前を呼ばれた気がして見上げると、そこには総務の確か今年の、新人ちゃんかな?が立っていた。


「隣、宜しいですか?」


意外な申し出に少し驚いたが快く応じた。


「・・えーと・・・、ごめん。名前知らなくて・・」


「あ、当然ですよ。私、立花っています」


「立花さん。・・・よしもう覚えたから」


「・・突然すみません。お聞きしたい事があったんですけど、聞いてもいいですか?」


「うん。私で分かる事であれば」


先輩を前にしての事だろう、随分と緊張してるようだったので、出来るだけ明るく振舞った。


「あの・・・。勝村主任ってどんな方、なんでしょうか・・」


「・・・・・え?」


「あ、いえ。最近、仕事でよく話をする機会が増えたんですが・・・。当たり前ですが仕事の事しか話さないのですが、どんな方なのかなーと気になりまして・・」


一瞬気が遠くなった。

まさか、主任って女子に人気、あったりするの・・・?


「あー、主任?そうだなぁ。とにかく優秀。部下への指示も的確だし。それでいて責任感もあるし。偉ぶってないし。私も尊敬してるよ。一緒に仕事してて周りが優秀優秀って言ってる意味を理解出来る人だよ」


「あ・・。そう、なんですね。えと・・・。仕事以外ではどういう人なんでしょうか?」


少しとまどい気味な彼女の様子を見てはっきりと感じた。

そうか・・。

この子は興味本位で聞いてるわけではないのだ、と・・・。


「・・・そうだなー。あんまりよくは知らないけど、仕事以外でもああなんじゃないかと思うよ。時々、本気で意味不明な事を言うところがあるけど、それ以外はあのまんまだと思う」


「そうなんですか・・・」


更に歯がゆそうな態度を見せたかと思うと意を決したような顔を見せた。


「勝村さんは・・・、その・・付き合ってる方がいるんでしょうか・・・」

(・・うっ、やっぱり聞いてきた・・・・)


「・・・うーん。分からないなー。こればっかりは・・・。男性社員とかなら知ってるのかなー」


「そうですよね・・。すみませんでした。色々お聞きしてしまって・・」


「こちらこそ、役に立てなくてごめんね・・」


「とんでもないです。ありがとうございました」


立花さーん、と向こうの方から彼女を呼ぶ声がする。


「では」


にっこりと笑顔を返した。

が、何故か腹の中は何だかスッキリしない。

何でいない、ってはっきり答えなかったのか。

本人に了承なしに言っていいものではないしね、などと自分を納得させた。

そうそう・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・ってか、それ以外の理由なんてないでしょ?

何だか自分にイライラしてしまった。



「先輩」

肩に手を乗せられた。


「うわっ」


「すんません。驚かせちゃったみたいで・・」


「伊集院か・・。どうしたの?」


「もう時間ですのでお開きです。二次会はありませんので飲みたければ個々でって事になりました」


「うん。分かった。伊集院は帰る?」


「はい。先輩はどうします?」


「私も帰るわ。あ、駅だよね?一緒に行く?」


「いいっすよ。じゃ行きましょう」


駅までの道中、いつものように仕事の話、世間話で盛り上がった。


「あのさ」


「はい?」


「今日聞かれたんだけど、主任ってさー。もしかして女子社員に人気あったりするの?」


「・・・先輩ってまさか、他の人から全然何も聞いたり知ったりしてないんですか?」


「何が?」


「主任は結構もてますよ?本人自覚ないみたいですけど」


「へーー、そう、そうなんだ・・・」


「先輩、他の女性社員と話したりしないんですか?」


「うーん・・・。木下とつるんでたりした上に、私の同期って女子が少ないんだよねー・・」


「先輩・・」


伊集院は明らかに困惑の顔を浮かべている。


「でも知らなかった。そんなに人気あったなんて」


「優秀な上に優しくて独身ですからねー。そりゃ人気も出ますよ」

(・・・ぐぬぬ。伊集院の方がよっぽど恋愛方面に詳しそうじゃないか・・・)


「へぇ。女の子ってそういうものなのかなー?は、ははっ・・」


「先輩。その発言は男の前で言わない方がいいですよ・・。俺の前だけにしてくださいね」


その瞬間、回し蹴りされ一発KOされたファイターの気分になった。

マットに叩きつけられ意識が薄れゆく中、敗北感を味わわされている。


「・・・・まさか伊集院にそんなこと言われる日がくるなんて人として終わったよ、私・・」


「すみません!別に俺、そういうつもりで言ったわけじゃ・・・」


「ははは。冗談だってば」


「また先輩の冗談・・。もうー勘弁してくださいよー」


悪い悪い、と笑いを交えながら駅へと歩を進めた。





帰途へと続く電車内で伊集院の言葉がやけに引っ掛かってしまった。

(私は・・・、おかしい・・、のか・・・?)


主任が人気がある、という私としては非常に驚愕な事実を知った後の私自身の反応。

世間一般の女の子は大抵、主任みたいなタイプが好き、なのか、と。

そう思わない私はおかしいのか。

と言うか、そういう女の子たちを前にして共感も、ましてや嫌悪も何も感じない私はおかしいのか。


そう言えば以前、木下に言われた事がある。

どういうタイプの男が好きなのか、と。

その時は特にない、と曖昧にして誤魔化したが、実は私自身よく分からないのだ。

どういう人が好きか、が分からないのでなく、人を好きになる、という事そのものが分からないのだ。


もちろん何人か付き合った人はいる。

大抵は最後に相手から「俺の事が好きなの?」と聞かれ、答えられず終わるのがデフォだ。

そんな事を続けていたら、とうとうこの件について考える事自体が面倒になってしまった。

このままが一番いい。

これ以上何も起きなければ、面倒事も、誰かの感情を逆なでる事もない。

そう。

このままが一番いいのだ・・・。







連休中は何もしなかった。

大掃除して気になってる仕事を少し片付けて、手の込んだ料理なんかしたり、DVDを借りたり。

気になってた近所の公園や学校に入ってみて本を読んでみたり。

こんな風に過ごすのは初めてかもしれない。

ずっと仕事や、外出していても木下とどっか出かけたりしていたから。

連休が明けて職場へ足を向けるのは苦痛でも何でもない。

単なる普段の日常が戻った、それだけだった。

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