もやもやの始まり
「おはようございます。先輩」
「おはよう伊集院」
(・・う、そりゃいるよね・・)
「主任、おはようございます・・」
「・・ああ、おはよう」
いつものように、極めて冷静に、朝の挨拶を済ませた。
(・・自然自然。大丈夫大丈夫)
「おはよう。浅野」
「おはようございます、部長」
「この前の青空さんの件で、朝一で詰めたい事があるから後で打ち合わせするよ」
「分かりました」
バッグから携帯電話と手帳を取り出しながらパソコンの電源を入れる。
(・・・・・・・・?)
・・・何だか後ろから視線を感じた気がしたが恐らく気のせいだろう。
「浅野、都合よくなったら言ってねー」
「あ、はい。分かりましたー」
気がつくと主任の姿が見当たらなかった。
どうやら外出しているようだ。
少しホッとした。
・・・・・・・。
しかし。
あの主任の事だ。
きっと正面から今回の事を馬鹿正直に言ってくるに違いない。
勿論、何もなかった事には出来ないが、ただの事故だと改めて説明しなければ・・・。
・・・・・・・。
分かっては、いる。
が、何故か胸の辺りがもやもやしてくるのだ。
(胸焼けかな?・・・・あとで薬飲むか・・・)
それから数日間、主任と接触する機会はほぼ皆無だった。
当たり前だが今回のミスのような事がなければ、あんなに多くの時間を過ごす事などないに等しい。
しかも連休前、という事、あまり期日が迫っている案件もなく、さほど多忙でもなかった。
ただ、何度か主任が何か言いたげな様子であった、気がしないでもない・・。
◆◆◆
「・・・は?合コン?」
「はい。今度よければセッティングしますんで」
「伊集院」
「はい?」
「アンタってそういう奴だったっけ?」
ある日のランチタイム。
久々にゆっくり昼食が摂れそうだったので外でも行くか、と準備をしていると伊集院に声を掛けられた。
今は二人で久々にランチとなったわけだが・・。
「あ、まぁ。俺の先輩で良い人が結構いるんで、もしよければなんですけど・・・。駄目ですか?」
まさか後輩と、しかも男と、昼を食べながら、合コン話をするとは予想してなかった!
「・・駄目っていうか・・。あー・・、今はちょっと仕事がゴタゴタしてたからそういう気分ではない、というか・・」
「それじゃ今度、いつもやってる若手飲み会に来てくださいよ!それならいいですよね?」
「・・あれは入社3年目までの人のみでしょ?私はもう部外者だし」
うちの会社には入社3年目までの全社員を対象に定期的に職場懇談と称し飲み会が開かれている。
部署の違う者同士、若手ならではの悩みや相談を共有し合う、というのが名目だ。
まぁ、実際は軽い合コンだ、という説もある。
ここで仲良くなって付き合い出す奴等がいるのも事実だ。
「大丈夫ですよ。毎回、2・3人関係ない人紛れ込んでますから」
「・・・・・確かに。私の時にも毎回、3つ上の経理の先輩が来てたもん」
「じゃ決まりですね。木曜なんで宜しくお願いします」
「連休前か・・。ところでさ」
「・・・はい?」
伊集院はおかずを口に運ぶ途中でこちらを見る。
「アンタさ、何で急にこんなこと言い出したの?」
「・・・え?」
明らかに伊集院は動揺している。
(コイツは本当に分かり易い奴だよな・・)
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あー。もう、分かりました。俺が言ったって事は聞かなかったことにしてくださいよ?」
「分かった」
「木下先輩ですよ」
「・・・・木下?」
ふいに出た名前に、今のいままで木下に悩まされていた事をすっかり忘れてしまっていた。
「木下先輩が浅野先輩にもし良さそうな人がいたら合コンセッティングしてやってくれって言ってきたんです。で。多分断るだろうから、その時は若手飲み会に参加させろって・・」
・・・・何て奴だ。
全くその通りだ。
・・・くそっ。
「・・・まったくアイツは・・。伊集院にそんなこと頼むなんて・・」
「俺は別に全然構いません。浅野先輩を思っての事ですから」
「ってこら。私が構うんだよ」
「・・・すみません・・」
「ふ。まぁ、いいけど・・」
サブタイトル通り、当分、主人公のもやもやが続きます。
お付き合い頂ければ幸いです・・・。