事の顛末
送別会の後のある日、担当していた取引先から上がった発注書をチェックしていた。
いつもならあり得ないが、ただ目を通し、そのまま主任へと上げてしまったのだ。
私が主任へ上げた。
それはつまり最終チェックをした、という事に他ならない。
事前に私と先方とで打ち合わせしていた数で間違いないだろう、という私の勝手な憶測で発注の最終承認がなされ、先方に品物が届くのを待つのみとなっていた。
「浅野。ちょっといいか?」
血相を変えた主任が私をミーティングルームへ来るよう促してきた。
「この前、お前が発注していた青空オフィスさんの件なんだが、青空さんからクレームが入った」
「・・え。それはどういう・・」
(何で?あそことは、いつも友好な関係なはずだ)
動揺を隠せずにはいられなかった。
(発注した品に何か問題があったのか?)
「お前との間で打ち合わせた品数の10倍が届いてるって言うんだ」
(・・・は?・・・嘘でしょ?)
状況が掴めず、思わずぼんやりしてしまう。
(・・・ありえない・・何で?発注書はチェックしたはずだ・・・)
「・・浅野!聞いてるか?」
「すみませ・・・・」
「動揺するのは分かるが、まずは状況確認が先だ。書類を持ってきてくれ」
「はい。すぐに・・」
書類の控えが入っているキャビネットを開ける為、慌てて鍵を手にした。
少し震える手で鍵を開け、発注書と取り決めに携わる書類一式を取り出す。
取り決めで決まった発注数は2万、先方から送られてきた発注書は20万になっている。
つまり先方がミスして送ってきた発注書を、私が気がつかずにそのまま承認させてしまった、というわけだ。
(・・・・何でこんなイージーミスを・・・。ありえない・・)
足がすくんでしまった。
(いけない!まずは主任に事実を伝え、今後の事を相談しなくては)
唇を噛みつつミーティングルームへと再度足を運ぶ。
「・・・つまり。お前が最終チェックを見逃した、って事なんだな」
「はい。本当に申し訳ありません!」
今ある事実を受け入れ、逃げない。
今、私に出来る精一杯の方法だ。
「俺に謝るなよ。まずは今後どうするかだ」
「・・・・・はい」
「当然だがまずは部長に報告。この件はまだ俺のところで止まってる。青空さんが直接俺に連絡してきて状況を把握してから対応を取りたいと返事をしてあるんだ」
「分かりました」
主任はあくまで穏やかに、冷静に、話を進めていった。
◆◆◆
部長への報告の後、今後についての対応が話し合われた。
先方の言い分としては残りの品物については、全て私達側で買い取ってくれ、というものだった。
いくら先方が発注書をミスしてきたといえど、確認し忘れの私達側が悪い、というものだった。
私達のミスについては丁重に謝罪、今回の発注分に関しては双方半分ずつ買取りにする、というのが我々の先方への提案だった。
当然だが先方も最初は抵抗の姿勢を見せた。
ところが・・。
主任と部長との見事な連携プレーの結果、先方もこちらの提案に見事合意したのだ。
しかも向こうが苦笑いを見せてしまう程に鮮やかに・・。
二人を尊敬するとともに、何故二人が優秀なのか改めて理解するに至ったのだ。
もちろん私も部長に説教された事は言うまでもない。
新人じゃあるまいし、ましてや新人ですらしないようなミスだ。今回は厳重注意で済ますが今後身を引き締めていくように。そして今後どのように会社に対し貢献できるのか検討するよう施された。
ただ一方的な説教ではない。
部長も女性であるが故の苦労も織り交ぜながらの思わず涙を流してしまいそうな説教だった。
そして今日、謝罪訪問と相成ったわけだ。