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罪悪感

「先輩!取引成功を祝して飲みに行きましょうよ!ね!」


「そうだね。パーっと行きますか」



伊集院と進めてきた取引が成功を収めた。

自分のミスやら主任の事やら色々あった。

時期に梅雨も明け、暑い夏がやってくる。

その前に少しでも明るいニュースが欲しかっただけに、今回の成功はすこぶる感動ものだ。


「というわけで残業はなしですよ」


「大丈夫よ。伊集院も気をつけなよ」


「はい」


「あ、そだ。誰呼ぶ?」


「まぁ、正式なものじゃないわけですから、主任とあと、小松さんでよくないですか?」

(・・・・なぬっ?!しゅ・・主任?)


「・・・駄目っすか?」


「馬鹿ね。そんなわけないでしょ?」


「じゃ決まりですね。声掛けてきます。そんで決まったら勝手に店予約しますけど、いいですか?」


「悪いね、お願い」


小走りで急ぐ伊集院を見て思わずため息が漏れた。

(いちいち動揺するなっての・・・)


考えてみたら、主任と飲むのは例のあの時以来だ・・・。

そう思うと何だか少し硬直する。

(いかん、いかん。冷静に冷静に・・・・)


思わず両手を握り締めた。






店への移動中、出来るだけ主任に近寄らぬよう後ろを歩いた。

私は先輩社員である小松さんと世間話を、時々、話しかけてくる主任へは適当に相槌を打っていた。



「あ、先輩は主任の隣でいいっすよね。いつもそうだし」

(!)


「あ、皆さん、大変すみません。ちょっとお手洗いに行って来ても宜しいでしょうか?」


「ったく、しょうがねぇな」


「すみません。ちょっと失礼します」


アハハ、と大きな声で笑う小松さんを後ろ背にトイレへと駆け込む。



・・・・。

大人気ない・・・。

何故どうして、いつも通りに出来ぬのだ・・。


「・・・・・・・くそっ」


軽く毒を吐く。

このまま、こうしていてもキリがない。



「先輩、ビール頼みましたけど構いませんよね?」


「あ、うん。悪いね」


主任の隣には伊集院が腰掛けていて少しホっとする。

空いていた小松さんの隣へと腰掛けた。


「いやあ、まさか伊集院が浅野と一緒とはいえ取引成立とはなー」


「小松さん!その言い方じゃまるで、俺がおかしいみたいじゃないですか!」


伊集院が駄々っ子のような形相で小松さんに突っかかる。


「何言ってんだよ。褒めてるんだよ、これ。伊集院も成長したよなー。うんうん」


終始賑やかに進み、私の心配は無用かと安心した。


ただ・・。

何となく主任が・・・。

元気がない、気がする・・・。

いつもよりは・・・。


「しゅにーん、どうしたんすか。酒があんまり進んでない気がするんですけど・・」


「そうか?飲んでるけど」


グラスを口に運びながら主任の顔をチラっと見た。

普段通りの主任の顔と口調ではあった。


「・・・・・・・」


何だか少し後ろめたかった。





「伊集院、この後どうする?帰る?」


「あ、俺、主任たちと別の店に行きますねー」


「・・・いいけど、アンタ帰れなくなるまで飲み過ぎないようにね」


ふあーい・・、と何だか心配を誘う危ない返事が返ってくる。

(まぁ主任たちと一緒なら大丈夫か・・)

伊集院はそのまま小松さんにもたれかかっている。


「それじゃ私はここで帰ります。お疲れ様でした」


伊集院の腕を掴んだ主任を見て少しホっとしながら声を掛けた。


「あ、浅野。俺も帰るから!」

(・・・・・・・えっ?!)


主任は掴んでいた伊集院の腕を離すと、こちらへ体の向きを変えた。

えっと・・・。

さっきのあれで二人で、二人だけで帰るのは結構しんどい、と言うか・・。

何ていうか。

向き合えない、というか・・。

そう一人でとまどっていると、いきなり主任が後ろのめりに体勢を崩し始めた。

(?!)


「しゅにーん、何帰ろうとしてんですか?まだ行きますよー」

どうやら今度は伊集院が主任の腕を掴んでいたようだ。


「あ、伊集院、俺はもう帰るよ」


「は?・・・何言っちゃってるんですかぁ?ほら行きますよ!あ、せんぱーい!おつかれっしたあー」


「あ、うん。気をつけてね」


思いがけない展開に呆気にとられた。


「そんじゃなー、浅野!」


「はい、お気をつけて・・」


伊集院に続き、小松さんにも挨拶を返す。

伊集院に掴まれていた主任は、気がつくと小松さんにも腕を掴まれていた。

主任は一瞬こちらを振り返ったが、すぐさま二人に引っ張られて行った。

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