プロローグ
人を好きになるキッカケって何だろう。
一目惚れ?
琴線に触れる何か?
それとも・・・。
後で気がつくもの?
私は・・・、どうなのだろう・・・・。
人を好きになるって何だろう。
どういう事なんだろう。
私にはどういう事なのか分かっていなかった。
◆◆◆
「誠に申し訳、御座いませんでした・・」
横一列に並んだ三人が深々と頭を垂れる。
そのうちの一番端にいるのは私だ。
あるまじき仕事上のミスを犯し、所属の部長、主任、私と三人とで取引先へと謝罪へやって来た。
「あー、いえ。こちらとしては謝罪して頂ければそれで済む話なんですよ。別にどうこうするってわけじゃないですし・・」
「・・今回の件では大変ご迷惑をお掛け致しまして、改めてお詫び申し上げます」
再度三人で頭を下げる。
「いやいや、もう頭上げてください。私達も今後も是非お付き合いを続けさせて頂きたいと思ってるわけですから・・」
「・・そのように仰って頂いて・・。本当に痛み入ります・・」
「・・さあ、よければこちらに座ってお茶でも飲んでください」
「・・・そのようにお気遣い頂きまして恐縮で御座います・・」
私達三人は改めて謝罪を述べた後、今後について話し合いを進めていった。
「じゃ浅野・勝村、悪いけど、私は次の打ち合わせがあるから先にタクシーで帰るわね」
「部長。本日はご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありませんでした・・」
「・・いい、浅野。今回の件はこちらも先方もミスした。でもそもそもそれに気づけなかった私達もミス。今回の経緯を教訓に以後気をつける。いいわね?」
「はい。以後気をつけます」
「それじゃあ、お疲れ」
「はい。ありがとうございました」
主任がタクシーをつかまえると、部長は慌てながら乗り込んでいった。
「・・・・・」
部長を見送る主任の後姿を見やった。
「主任」
「何だ?」
「本日は申し訳ありませんでした」
「・・うん。よし帰るか」
「は、はい・・」
この勝村主任は極めて優秀な人だ。
今回のミスでも、ただ説教するでもなく、何か言うわけでもなく、ひたすらバックアップ・フォローにと根気よく私に合わせてくれた。
一見そっけなくもあるが、都度的確なアドバイスや指示をくれる人だ。
部長もそうだが、主任も尊敬する人である事は間違いない。
社へと戻る電車の中でも必要以外は会話はほとんどなかった。
席が空いてるからと、座るよう促されても、自分への戒めと思い丁重に断った。
目の前を流れる鉛色と水色の光景をぼんやり見つめながら今回のミスを反芻し始めた。