二十章
気絶した私を運んだ父は私が目覚めるまでベッドから離れなかったそうだ。
「ルエラは何と言っている?」
父は私が目覚めて、執事が来たのを確認して、稽古の事ルエラの事を言い出した。
「はい、それが殿下が本気を出してよいとおっしゃったので、本気を出したと本人は申しております」
その言葉に父は眉をぴくりと動かし、私を見ながら執事に聞いた。
「それは本当なのか?」
私に質問したとも取れる言い方だ。私が小さく頷くと同時に執事からも肯定の返事がかかってくる。父は小さく息を穿いた。幻滅したんだろ、そう思った私は俯いてしまった。
「…いいかフィルデリス。確かにお前の剣の腕は上がってきている。だがな、お前は経験不足だ。ルエラはお前と同じ年齢だが、あいつはたくさんの戦場に立ち、たくさんの人を…葬っているんだ。その分あいつ自身、たくさんの傷を負った」
父は言い聞かせるように優しく尚且つ強く、言葉を一度切りながら、私を真っ直ぐ見ていた。私と目線が合うとまた話始めた。
「あいつは基本など身についてはいない。だが、戦い慣れている。例え皇子であろうと、躊躇いなく殺す。ルエラはそういう奴だ。いいな、あまり関わるなよ。それと、自分の力量を推し量るのもいいがもっと腕を上げてからにしろ」
そう父は言い、背を見せた。執事となにか話していたが、こちらまで聞こえなかったから、私は諦めまたベッドに横たわった。
「フィル殿下。夕食までおやすみ下さい。夕食の時間になりましたら、お呼びに来ますので」
「あぁ、わかった」
私はぶっきらぼうに答え、目を閉じ、深い眠りに入ってしまった。
その夜私はふと目覚めた。部屋は漆黒、窓の外を見ると夜更けのようだ。
「夕飯になったら呼びに来るんじゃなかったのか?」
私はベッドから出て、眠い目を擦りながら部屋を出た。だが、部屋を一歩踏み出しただけで、なにかいる、とはっきりと解った。目で見たわけじゃなく、第六感とか、本能とかで感じとった。
嫌な予感がする。
心臓がバクバクいって、頭も働かない。手足も動かすこともままならない。ふいに父の声が聞こえた、気がした。私は動かない足を叱咤して一生懸命走った。先にある角を曲がった。そして悪夢が始まった……。
曲がった先には誰かが倒れていた。暗くて判らない…だから私は近づいて、息を飲んだ。
「…っ‥!なん、で。執事のあなたがこんなとろこで、血を流して…」
見ればもう死んでいると解っていた。けど、話し掛けずにはいられなかった。私は震える手足を動かして、父の下へ急いだ。走っている最中にも沢山の兵士など使用人の者たちが死んでいる。途中にある部屋を覗いて見ても、中に居る人は一人のこらず死んでいた。
やっとの想いで父の私室にたどり着いた。そこには父と父を庇い剣を握り、必死な背中を見せる、ルエラが居る。二人は窓を見ている。そこに誰か、複数居るが、こちらからは逆光で遠いから、正体は分からない。けど一つ解っている。
「お前達が、ここに居る人達全員殺したんだな!」
私はシルエット状になっている奴ら−殺人者を睨み声を上げた。父は驚いた顔をしながらこちらを見た。それでも父は懸命に声を荒げるのを堪え、また前を見つめる。それは有り難い、と思った。今の顔は憎しみで一杯の顔だからだ。
【フィール皇帝陛下。もはや貴方に用はありません。ここで命を絶ちましょう。このわたしの手で】
シルエットの中の一人が男は声を発した。よく通る声だ。多分こいつがリーダーだと思う。
「…俺はまだ死ぬ訳にはいかないんで、その申し出は却下させてもらうよ。さて、…………」
父はルエラに耳打ちした。ルエラしか聞こえない程の小さな声だったから、私には聞こえなかった。
「‥!いいのですか、陛下」
「あぁ、構わない。俺の命一つで済むのならば、たいした事ないさ」
父とルエラは意味不明な会話をしていた。内容的にはあまりいい話ではないだろう。その証拠に父は自分の命と口にし、ルエラの顔はとても複雑な表情をしている。
「さてと、準備はいいなルエラ。お前の事信用するぞ」
そう言うと、父は敵に走っていく。ルエラはこっちに向かって私の腕を掴んで、疾走する。
「な!?ルエラ、お前なんで!」
「今は黙ってわたしの言う通りにしてください。陛下の願い‥貴方を無事、王都の外へ逃がし…国をまたまとめるようにすること」
ルエラの声は苦しそうだった。そして私はその苦しみが解っていたけど、父を見殺しにしたくなかった。だから私はルエラの手を振りほどこうとしたが、ルエラの手は力強く私の腕を掴んでおり、振りほどくのは困難だった。
「っ!ルエラ、わかったもう、戻って仇を取ろうとは思わない。だから!離してくれ!腕が痛い!」
私はルエラの腕を離すように抗議した。一瞬ルエラは戸惑ったが、優しく手を離してくれた。
「いいですね、貴方はあの方の息子。いえ、もう貴方は一人の男です。殿下として国の事を考え、責任を持って行動してください」
「…あぁ、解った。けど、これだけは言わせてもらう。俺はお前の考えが全て正しいと、思わない」
私はルエラの背中に強く話し掛けた。全て正しい事など、この世にはないと教えられてきた私にとって、それは当たり前で私自身そう思っている。
「はい。それで良いのです、フィル殿下。いや、フィルデリス皇帝陛下とお呼びした方が良いでしょうか」
「…いや。俺はまだ、殿下でいい。皇帝になるのはもっと先になる」
私たちは城内にある地下通路を走り抜けた。少し光りが差し込んでいる。もうすぐ外に出る。
「絶対俺は、強くなって、ここに戻ってくる。そして、国を…。絶対に!」
私はルエラに、私自身に誓いを立てた。
二ヵ月…長かった…申し訳ありません! 過去の話が長くなります。ルエラの変貌…うまく書けないかもしれませんが、頑張ります!次回も見てほしいです。よろしくお願いいたします……。




