人さらいの日
ここ数話、いじめ、虐待(を臭わせる)表現が出てきます。苦手な方は飛ばして下さい。
昨日はまんまと(?)逃げられた。
予想外の展開に為すすべ無く逃がしてしまった。
うむ。不覚。
イミビトが何だか解らなかったので、母様に聞いてみた。
「忌み人と言って、迫害・・・そうね、いじめられている人よ。
彼らは何も悪くないのだけれど、いじめられ続けることで、悪いことをしてしまう人も多いわ」
との事だ。
迫害されている理由までは、教えてくれなかったが、恐らく色々あるのだろう。
さて、今日はだ・・・
昨日のあの子を探すため、下町にやってまいりました!じゃん。
はい。簡単に見つかる訳ありません。
ですよね~。
忌み人さん、どこに居ますか~?等と喧嘩を売って歩く訳にも行きませんし。
地味に困りましたね。
「こんにちは」
「ん?」
後ろから声を掛けられたようなので、振り返ると、昨日のいじめのお仲間が居た。
「無事に逃げられましたか?」
雰囲気から、昨日の続きを今ココで!という感じでは無いのだが、気安く話しかけられるような友好的な関係でも無かったと思うのだが・・・と、思い出した。
1人、離れて見ていた子だな。
「そうですね。
喧嘩も長引かずに済みましたし」
「キミは面白い子ですねぇ」
「・・・ガキ大将のお仲間じゃないんですか?」
「ガキ大将?・・・ああ、ジャンの事ですか。
いや。お仲間ですよ?
まぁ、手下って訳でもありませんがね」
なんとも、ませた感じのする子だな。
「で、そんなお仲間さんが、何用ですか?
昨日の続き・・・という訳でも無さそうですが?」
「ちょっと確認をね・・・キミはヒールが使えるんですか?」
「へぇ。バレてましたか。
そうですね。ヒールです。
どうします?卑怯者とでもなじりますか?」
「いやいや。
喧嘩ってのは自分の力でやるモンだと思いますよ。
そのヒールだってキミの力ですからね。
ただ、子供にしては凄いなと思いましてね」
「・・・変な人ですね」
「いやいや。
ヒールが出来るような凄い子とは友達になっておいた方がいいかな?と思いましてね」
「いじめの仲間になれ・・・と?」
「あぁ・・・それは・・・う~ん。いじめたくていじめてる訳じゃないんですがね」
「理由はどうでもいいですよ。
僕はあの子の味方です」
「・・・嫌われてますかね?」
「好かれる理由があるとでも?」
「・・・無いですかね。
仲間になると、いじめられませんよ?なんてのも嫌われそうですし」
「ふぅ、そうだね。
好きこのんでいじめられたいとは思わないけど、いじめの仲間にはなりたくないしね」
「取り敢えず、いじめの話はやめましょうよ?」
「ホント・・・変な人ですね。
・・・もう行ってもいいですか?」
「ええ。呼び止めてすいません。
お急ぎですか?」
「ふむ?
・・・つかぬ事を聞きますが、昨日の子がどこにいるか知りませんか?」
「はぁ?キミも不思議な子ですね。忌み人を探しますか」
「ええ。ちょっと探しています」
「ミレイは、この先のハズレの孤児院に居ますよ」
「ミレイっていうのか・・・」
「名前、聞かなかったんですか?」
「・・・逃げられたんですよ」
「ぷ・・・ふはははっはは」
笑われた。思いっきり笑われた。
くそう。
そんなに楽しいか。
くそう。
自分でも間抜けだとは思ってたさ。
再認識させないでくれ。
「・・・わ、笑うなよ」
「いやいや。すみません。ぷは。
いやいや。名前も知らないのに探してるんですか」
「ああ・・・ちょっとね」
「ついて行っても?」
「はぁ?・・・う~ん?」
「邪魔はしませんよ?」
「誤解されて逃げられても困るからやめとく」
「・・・そうですか。そうですね。
残念ですが、邪魔はしないと言いましたし」
「こっそり付いてくるのも無しだぞ」
「ええ、解ってますよ。
そうそう。お名前を聞いても?」
「普通、自分から名乗るモンですよ?
まぁ、お約束だからいいけどさ。
ウィル。ウィル・ランカスター。5歳だ」
「5歳!?すごいですね。
アルフ・ニナカ。7歳です」
「アルフ・・・でいいかな?変な奴だな」
「ウィルほどでは、ありませんよ」
「まぁ、いいや。助かったよ」
「礼にはおよびませんよ」
妙にませたというか、クールを決め込んでるのか、本当にクールなのか・・・いまいち判断が付かないが、思ったより面白い奴だ。
まぁ、それはそれ。
教えられた方へ行ってみると、予想に反して、立派な建物が見えた。
これが本当に孤児院なのか?
表札は出ていないようだが・・・孤児院が儲かる事業とはこれっぽっちも思えない。
なんでこんなに立派な建物なのか?
ぐるっと建物を一回り。
表の立派な建物に隠れるかのように、裏にひっそりとボロ屋敷が見えた。
こっちが孤児院なんだな。
と言うのは解る。
じゃぁ、表のは何だ?
別の建物・・・にしては同じ敷地に建っている。
同じ敷地とは言っても・・・
ぼろ屋敷は倉です。と言われても不思議はないくらい
端っこに追いやられているし・・・
それにしてもボロだ。
・・・とにかく酷い。
そのボロ屋敷の裏(?)に昨日の子・・・ミレイと言ったか・・・が居た。
昨日は泥で汚れてしまったが、
今日は黒髪がうっすらと蒼く光って綺麗な子だ。
ボロボロの塀をくぐり抜けて、まずは挨拶だ。
「こんにちは」
「!?・・・こ、こんにちは」
「少し、お話してもいいかな?」
「・・・だめ」
・・・とりつく島もないってのは厳しいです。
母様・・・めげそうです。
「それは・・・忌み人だから?」
「・・・そう。・・・ボク、忌み人だもの」
「う~ん。僕は気にしないよ?」
「・・・気にした方が、いい」
え?
いやいや。
気にしないって言ったのに・・・気にした方がいいとは・・・面白い返しだ。
「まぁ、いいや。
僕の名前はウィル。ウィル・ランカスター。
君の名前は?」
「ぇ?・・・えっと・・・ミ、ミレイ」
「そっか。ミレイ・・・よろしくね」
と右手を差し出す。
「えっと・・・」
おずおずと右手を差し出してきたので、こちらからシェイクハンズ。
「うんうん。
じゃぁ、ミレイとは友達ってことでいいよね?」
「ぇ?・・・な、何?」
「何か急ぎの用事ある?」
「えっと・・・何もない・・・けど?」
「じゃぁ、行こう」
かなり強引だけれども、握手したついでにそのまま引っ張って移動を開始した。
「ゃ・・・ま、まって」
いきなり家に連れて行ってもいいんだけど、それもハードルが高そうなので、取り敢えず、枯れ森の奥に連れて行こう。
あそこなら、人も来ないし、最近では果実もあるし、おもてなしも出来そうだ。
どうも、あまり人目に付きたくないようなので、裏道、人気のない道、町の外縁を選んで移動する。
言葉では軽く戸惑いと否定を口にするが、身体を突っ張ってまでの反発はない。
ってことで、嫌がる言葉は全て無視した。
うん。我ながら外道っぽい。
これでは悪役では無いか。
よいではないか。
よいではないか。
・・・うん。
ま、いっか。
「わぁ・・・」
枯れ森の奥に到着。
「ここ・・・枯れ森?
・・・入り口は枯れ森・・・だったのに」
「そうだよ。枯れ森だよ」
「ぁぅ・・・ボ、ボクを連れ出して・・・どうするの?」
「ああ、まぁ、友達になりたいから・・・かなぁ?」
「・・・忌み人なのに?」
「忌み人ってのが解らないからね」
「・・・変なの」
「そうかな?
まぁ、いいや」
「・・・いいんだ」
「果物食べる?」
「・・・果物!?・・・えっと・・・」
「遠慮しなくていいよ。森の果物だし」
「・・・大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも」
「ぇ!?」
「忌み人と友達になりたいって病気になっちゃう」
「ぇ!?
・・・えっと・・・大丈夫?」
「・・・そんな目で見ないで」
失敗するといたたまれない。
実にいたたまれない。
いたたまれなさすぎるので、赤い果実をもぎ取る。
アダムの果実というらしいが・・・リンゴに似ている。
どう食ってもリンゴに似ている。
アダムとイブの禁断の果実かよ!
突っ込みを入れたくなったが、神話とか関係無いらしい。
アダム家で流通を取り扱ってるかららしい。
なんだ、その理由。
スイカをアダムさん家で扱ったら、それもアダムの果実か?
と思うのだが、どうも果物の流通の祖らしい。
らしい・・・ってのは、アダム家が既に没落しててうんぬんかんぬん。
要するに解らないらしい。
いい加減すぎる。
それはそれ。
ほんと、リンゴまんまなので、そのまま食べられる。
枯れ森でのおやつにはありがたい。
「ほら」
「・・・いいの?」
「うん。僕のじゃないしね」
「・・・えっと・・・頂きます」
ミレイが小さくお辞儀をして、両手で小動物みたいに食べる。
うん。かわいらしい仕草だ。
身だしなみも整えれば、かなりかわいいんじゃないか?
「・・・おいしい・・・」
ぽわっとした笑顔だ。
前髪が気になるな。
ちょっと手で軽く前髪を上げてみる。
「ゃ!?・・・な、何?」
「ぁ、ごめんね。
僕のことは気にせず、食べてていいよ。
それとも、もっと持ってくる?」
ふるふると否定。
「あまり・・・幸せになると・・・後がつらい」
何を言っているんだ。
ショックだった。
リンゴ1個で・・・しかも森の果実だ。
タダで手に入れた果実1個で・・・幸せと言えてしまう境遇。
ものすごくショックだった。
他にも色々ショックな事があるんだが、どうしても気になったので、彼女の手を取った。
「手、見せてね」
「ぇ・・・ゃ!」
否定はするけど、強烈な否定はない。
彼女の手を取って見る。
不自然なやけどの跡が多い。
「我、彼の者の不調を知ることを願いたてまつらん。リサーチ」
だめか。
特に不自然な点は見受けられない。
やけど跡だからか・・・治ってるしなぁ。
治ってるモンはダメだろうなぁ。
「我、彼の者を癒すことを願いたてまつらん。ヒール」
ダメかぁ。
「ぁぅ・・・あ、あの・・・」
「ごめんね。
僕のヒールじゃ、やけどの跡は消えそうにないや。
まだまだ子供だから、そのうち目立たなくなるとは思うけど・・・このやけどは・・・どうしたの?」
「・・・灰皿なの」
「は?灰皿?」
「・・・うん。・・・忌み人だから」
どういうことか理解したのと同時に、自分でも頭が沸騰するのが解った。
孤児院の大人が、ミレイを忌み人だからと虐待している!
あまりの薄汚さにめまいがした。
このままじゃダメだ。
ミレイが本当にダメになってしまう。
「ミレイ・・・ウチに行こう」
強い調子で言った。
「・・・や!」
更に強い調子で、手を振りほどかれた。
「え?・・・ど、どうして?」
「・・・親との仲・・・悪くなっちゃう」
言うが早いか、彼女は駆けだしてしまった。
「え?」
すぐに追いかければ、追いつけたのだろうが、
何というか・・・あっけにとられて、追いかけるどころではなかった。
親との仲が悪くなる?
どういうことだ?
えっと・・・
普通の親ならば、忌み人を嫌う?
忌み人を連れてきた子との関係がまずくなる?
ってことだろうか?
説明を求めようにも、逃げられてしまったし・・・
また明日にするか。
まずは・・・一応、母様に断りを入れておくか・・・
次回「人さらいの日のアルフ(いじめっ子)」
Twitter @nekomihonpo
感想、評価ありがとうございます。
ミレイの「・・・」が多いのは意図的です。
自分でもちょっとウザいかな?と思いますが、表現と思ってお目こぼしいただければ幸いです。
変更箇所
次回タイトルの追加