研修旅行の日、襲撃の時間のミレイ(家事手伝い見習い)
「ウィル!ウィル、ウィル!?」
羽交い締めにされ、身動きの取れない身体をねじって、ウィルへと手を伸ばす。
押さえられた身体は言うことを聞かず、ウィルまで届かない。
「くそッ、大人しくしろ」
男が何か言っているが、そんな場合じゃ無い。
ウィルが後ろから殴られ、膝から崩れ落ちていく。
頭から血を流し、肩口が血で濡れている。
「ウィルー!」
ボクの手は届かない。
ウィルがボクの声に応えてくれない。
「ウィルーッ!」
それでもボクは、あらん限りの声を振り絞って、ウィルの名前を呼ぶ。
ウィルは力なく、ゆっくり、ゆっくりと倒れていく。
今も血が止まっていない。
早くウィルを治療しないと。
ボクを押さえつけている腕が邪魔だった。
「フンッ!」
「ぐゥッ」
お腹を殴られ、息が止まるかと思った。
「ハッ!これで大人しくなっただろう」
そこまでは覚えている。
そこまでしか覚えていない。
「・・・せで、報奨金は出るかな」
「そりゃぁ、こんだけの事を起こしたんだ。
出るに決まってんだろ」
そんな声が聞こえてきた。
知らない男たちの声。
頭がぐるぐるする。
ボクがごちゃ混ぜになったような感じ。
・・・気持ち悪い。
「こいつ、売っ払う前に、つまんでもいいかぁ?」
「なに、お前、こんなの喰うの?」
「やめとけ、やめとけ。
クロなんかつまんだら、
何されるか解んねーぞ?」
「グッグッグ、今まで、色々つまんだけどよ、
クロってのはつまんだことがねーなって」
「ふっは、物好きだな。
穴がありゃ、なんでもいいのかよ」
そうだ!
ウィルを助けに行かないと!
「お、気がついたか?」
周囲を見回す。
どこかの小屋・・・の部屋の中・・・
粗末な寝台の上で、腕を頭の上で、大きく広げるようにして縛られていて・・・動けない・・・
「おいおい、暴れるなよ」
ひげ面の男が顔を近づけてくる。
奥で酒を飲んでいる男が3人。
「むさ苦しい顔がおいやだとさ」
「ひゃははははは、ちげーねぇ」
早くウィルの所に行かないと。
「てとらかりこりしーりむまい、こふぃん!」
「ぉ、何だ?」
「あぁん、どうした?」
出ない!?
「もるでのすにとへんげるたい、やーる!」
これも出ない!?
何で!?
どうして!?
心力は、ウィルに補充してもらったのに!
「さっきから何を言ってやがる」
「やーる!やーる!やーる!!」
出ない。
いつもなら出るのに・・・出ない。
焦りからか、涙がこぼれそうになる。
「ボクを離してぇ」
「ハッ、クロを野放しにするわけねーだろ」
「ボクはクロじゃない。クロじゃないもの」
「ははぁん、お前、忌み人か。
ハッ、どうせお前らが手引きしたんだろうが」
「してない。ボクたちは、そんなことしてない。
そんなことより、ボクを離して。
ウィルの治療をしないと!」
「ハッ、ウィルってのは、さっきの小僧か?
どうせ、もうくたばってるさ」
心臓をギュッと鷲掴みをされたような・・・そんな悪寒、気持ち悪さ、全身が強張る感じ・・・
くたばって・・・そんなこと無い。
ウィルがそんな・・・
「ふっへっへ、気にすんなよ。
今から、奴を忘れちまうくらい、気持ちいぃ~ことしてやっから」
男がボクの上にまたがる。
ギシギシと寝台が音を立てる。
そして、男の顔がボクの顔に近づいてくる。
その口から漏れる生臭く、生温い息が気持ち悪く、顔をそむける。
「ほら、泣くなよ」
男が舌を伸ばして、ボクの頬をなめ上げる。
生暖かくぶよぶよとした舌が、ぞぞぞと蠢く度に、背中に悪寒が走った。
「これから、もっと泣くんだからよ」
「ひゃははははは、丸っきり悪者じゃねーか」
「あのツラを見りゃ、解んだろうが」
あまりの気持ち悪さに暴れるも、腕は縛られていて、足の上に男の身体があって、効果が無かった。
ボクの魔法は発動せず、どうすることも出来なかった。
「ほぅら、暴れんなよ」
男の手が、ボクのあごを挟み込むようにして押さえつけ、正面を向かされる。
「いや・・・離して・・・・」
「いいねぇ。そうでなくちゃ」
男の顔が更に近づく。
その臭い息を少しでも吸い込みたくない・・・そんな思いから息を止めていた。
「んむッ!?」
男の口が、ボクの口に触れる。
あまりの事に、身体が硬直するかと思うくらい跳ねる。
その気持ち悪さにヒゲの痛さなんか、気にしている余裕は無かった。
男が舌を出し、ボクの唇をなめ回す。
そのぶよぶよとした感触が蠢く度に背中を蠢くような気持ちの悪い・・・悪寒が走った。
ただただ、気持ち悪い。
ギュッと目をつぶるが、何の解決にもなってはいない。
少しでも、この気持ち悪い所から逃げ出したかった。
「んうッ」
男の舌が、ボクの唇に隙間を作って口の中に入ってこようとしている。
舌がボクの歯を舐め回す。
ギュッと噛みしめて、少しでも入ってこないよう頑張っていた・・・のに・・・
男が手に力を込め、歯に隙間を作る。
少し隙間が出来たと思ったら、あっと言う間に舌が口の中に入ってきた。
その気持ち悪さに、呻き声が漏れる。
少しでも押し返そうと舌を伸ばしたら、にゅるりとボクの舌に絡みついてきた。
今までに感じたことのない悪寒が走る。
ボクの隅々まで舐め回され、ボクが汚されていくのが解る。
散々、ボクの中を汚した後、舌なめずりをしながら男が離れていった。
「うぅ・・・」
「おいおい、まだまだこれからが楽しいんじゃないか」
そう言いながら、男は懐から小剣を取り出し、ボクの服の前を切り裂いた。
冷たい空気にさらされ、ブルッと震える。
「チッ、思った以上に小せぇな。
まぁいいか。
こんだけ小さきゃ、穴の方は、さぞ締まるだろうさ」
「でひゃひゃ、いちいち下品だな」
脂ぎった手が、ボクの肌に触れる。
そのまま、身体をまさぐるように移動していく。
かたつむりの様な跡を残しながら、気持ち悪さが染み込んでくるような感じがした。
「いやぁ・・・やめて・・・」
「ひひ、いい声で」
バンッと耳にビリビリと響く音がしたかと思うと、扉の側にいた男からグエッという声が聞こえてきた。
「何だ!?」
「てめぇ、誰だ!」
扉の方から誰かが入ってきたのは解るが、男が邪魔で見ることが出来ない。
「そこをどけ」
ボクの上をまたいでいた男が、首根っこを掴まれ、放り投げられる。
フェルミだ。
フェルミの声だ。
絶望で色を失った世界に、光が差し込んできたような気がした。
希望の光だ。
フェルミ!ボクのことはいいから、ウィルを助けて。
「フェル」
「ミレイ!無事ですか!」
ウィルだ!
ボクがフェルミにお願いをする前に、ウィルが来てくれた!
ウィルが自分の外套をボクに掛けながら、側に来てくれた。
ウィルだ、ウィルだ!
「今ほどきます」
「ウィル、ウィル!」
自分でも、ちゃんと言葉にならなかった。
ウィルが手をほどいてくれた。
視界が霞む。
ボクの目は、涙でほとんど見えなくなってた。
「ウィル、ウィル・・・」
もう、とにかくウィルに抱きついた。
掛けてくれた外套が落ちるのも気にならなかった。
ウィルだ。
ウィルが来てくれた。
「・・・くん・・・ウィルの臭いだ・・・」
ウィルがそっと抱き返してくれる。
「ウィルの臭いだ・・・」
「走ったから、汗臭いでしょうに」
ううん。ウィルの臭いだ。
そうだ!
ウィルの傷・・・
しばらく、ウィルの臭いに安心していたのだけれど、ウィルはケガをしていたことを思い出す。
ウィルの頭にそっと手を伸ばす。
ウィルの手が、ボクの手の上に載せられる。
「頭の傷・・・大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。
フェルミが僕を見つけてくれましたから。
急いで癒して、ミレイを探して貰ったんです」
「うん・・・」
当のフェルミは、奥で男共を投げ飛ばしていた。
「ミレイは大丈夫でしたか?
何か酷いことをされませんでしたか?」
その言葉を聞いて、身体がピクンと震える。
そう・・・ボクはもう、汚れてしまったんだ。
そんな汚れたボクが、ウィルの側にいていい訳が無い。
ウィルとの身体の間に、腕を差し込み、そっと押し返す。
「ミレイ?」
ウィルの顔を見ることが出来ず、うつむいたまま、つぶやくように喋る。
「ボク・・・もう、汚れちゃった、から」
「え!?」
ウィルが慌ててリサーチを唱える。
でも・・・リサーチじゃ解らない。
汚されたのであって、ケガじゃ無いのだから・・・
さっきまでの涙とは違う涙が止まらなかった。
ウィルに捨てられる・・・そう考えたら、とてもとても悲しい気持ちが止まらなかった。
「えっと・・・ミレイ?
何があったのか、教えて貰えますか?」
またも、ピクンと身体が震える。
ウィルの顔を見るのが怖く、うつむいたまま涙声でぽつりぽつりと喋る。
「ボク・・・ボクの、全部・・・ウィルのモノなのに・・・
ボクの口づけ・・・汚されちゃった、から」
「そうですか・・・」
ウィルが、そう言いながら、そっと抱き寄せてくれた。
「ミレイ・・・
そうですね・・・
これから、キス・・・
ああ、いや、えっと・・・
口づけをします」
「ぇ?」
「僕が、これからミレイに口づけをします。嫌ですか?」
「え・・・でも、ボク」
「嫌ですか?」
「嫌じゃ、ない、けど・・・んむッ」
ボク、汚されちゃってるのにって言おうと思っていたら、ウィルに唇を塞がれた。
何が起こったのか、理解出来なかったけど、理解出来たら、一気に熱・・・何か熱い物が身体の中に充満した。
ウィルの唇がそっと離れる。
「ぁ・・・」
離れた唇から、入り込んだ熱気が逃げるような気がした。
「もう一度しますよ?」
「ぇ・・・う、うん・・・ん」
再び、優しく触れられる。
あの男とは全然違う。
頭がぼうっと・・・そう、溶けてしまいそうな・・・不思議な暖かさ。
再度、唇が離れ、熱気が逃げていく。
それでも、頭の芯は熱い。
「どうです?
嫌な想いは、上書きされましたか?」
「ぇ・・・えっと・・・
口の中も、汚された、から・・・」
ぼうっとした頭で、よく解らないまま答えていた。
「じゃぁ、口の中もですね。
ミレイ・・・口を開けて」
「ぇ・・・でも・・・んくぅ」
ウィルが三度、唇を塞いだかと思うと、しゃべりかけで開いていた口の中に舌を入れてきた。
舌が触れた部分から、ウィルの熱がボクの身体の中を吹き抜ける。
身体も溶けてしまったみたいになって、立っている足に力が入らなくなった。
崩れ落ちそうになるのを、ウィルの首に回した手で必死に耐える。
ウィルが背中に回していた腕を腰まで下ろしてきて、ボクの身体を支えてくれた。
たっぷりとボクの口の中に熱を伝え終え、ウィルが口を離す。
「どうしますか?」
「え?」
「おかわりはいりますか?」
「ぇ、ぅ、うん・・・」
「じゃぁ、ミレイ、舌を出して」
「うん・・・んぅ」
言われるがままに、口を開け、舌を突き出す。
ウィルが、ボクの舌に絡めるようにして舌を動かす。
ボクの舌を舐め上げる度に、背中に熱が走り、身体の力が抜けていく。
ウィルにトランスファーをされるのとは全然違う感覚。
身体の奥から暖かさ・・・ううん、熱さが溢れてくるのに、全身から力が抜けていく感覚。
ゆっくりとウィルの口が離れていく。
「どうですか?」
「うん・・・」
何が「うん」なんだろう・・・
自分で返事しておいて、よく解らなかった。
ウィルが、ゆっくりとボクを寝台に座らせる。
ギシっときしむ音がした。
「おい、ウィル。
まぐわうんなら手短に頼むぞ」
今まで、黙っていたフェルミが声を掛けてくる。
ウィルがびっくりした様に振り返る。
「まぐわいません!」
「そうなのか?
子孫を残す行為は自然なことだぞ」
「だとしても、こんな状況じゃ無理です!」
「細かいことを気にする奴だな」
ウィルの袖を引っ張る。
「どうしました?」
ウィルが少し心配そうに振り返る。
「まぐわう、しないの?」
「まぐわうの意味の解ってない娘と出来る訳ないでしょう」
「ぅ・・・」
いいもん。
あとでフェルミに聞くから。
「ふむ。それでは、こいつらはどうする?」
フェルミが床で呻いている男たちを軽く蹴飛ばしながら、ウィルに問いかける。
ウィルは、少し眉を寄せながら困った顔をする。
「困りましたね・・・
ミレイにこんなことをしたんです。
殴っても殴り足りない・・・ってのが正直な所です。
ここの兵士に突き出して、罰せられるのかも疑問です」
「そうか?」
「こんな状況ですしね。
ミレイが忌み人で無いと説明というか、
証明するのも面倒です。
殺せば満足するのか?
と言うのも違う気がしますし、
ヒーラーとして耐えられそうにありません」
「面倒な性分だな」
「そうですね。
フェルミの制裁で、だいぶケガをしているみたいですし、
そのまま放置・・・ってのが我慢のしどころですかね」
「まぁ、それでいいなら、私は構わんぞ」
「ミレイは何かありますか?」
ウィルが振り向きつつ、そんなことを聞く。
ボクに聞かれても困る。
ウィルがそれでいいなら・・・それでいい。
係わりたくない・・・触りたくない・・・ってのがボクの気持ち。
「ううん。ウィルのでいい」
「そうですか・・・じゃぁ・・・」
と言って、ウィルが男共を次々と蹴り上げる。
男共は、ケガや骨折した箇所を蹴られたことで呻き声・・・むしろ、悲鳴を上げる。
上げる度に、思わず身体がビクッと跳ねる。
ウィルがそんなことをするなんて思っていなかったので、すごくびっくりした。
ウィルが一仕事を終えたかのように、手をはたきながら周囲を見回す。
「帰りますか」
「そうだな」
「ぅ、うん」
嫌な事もされたけど・・・ぅ、ウィルに口づけして貰ったり・・・
そんな研修旅行だったのだけれど、なんとか皆で学院に帰ることが出来た。
やっと帰ってきたボクたちを待っていたのは、リリー奥様が亡くなったという知らせだった・・・
次回「決断の日」
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