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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
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研修旅行の日のラクスロイ(教会関係者)

明け方に入ってきた報告が、あまりにも突拍子も無かったため、フォミットに命じ、部下を相当数割り当て確認に走らせている。

本来であれば国の仕事ではあるが、事態が事態だけに、我々の騎士団も協力し、事に当たるべきだと判断した。

とは言え、勝手に騎士団を動かすわけにもいくまい。

あの小汚い油袋に話を通しておく必要があるだろう。

気は進まないのだが、油袋のいる部屋へ足早に向かう。


「ラクスロイ様、ただいま戻りました」


道すがら、フォミットが後ろから話しかけてくる。


「戻ったか。それで、状況は?」

「はっ。どこの兵士か解りました。

 アルシェ・バイラ王国の者です」

「アルシェ・バイラだと?」

「はい。鎧は偽装してありましたが、

 尋問したところ、口を割りました」

「そうか。それで、アルシェ・バイラがクロと手を組んだのか?」

「いえ。そこは、どうもはっきりしません」

「ふむ・・・別枠と考えるべきか」


油袋の執務室前に来たとき、第四騎士団クローメコーアのクアンダ団長と合流した。

どうやら目的は一緒のようだったが、話し合っている猶予があるとも思えなかったので、執務室に入る。


「ラウニー大司教、早朝より失礼いたします」


執務室内には油袋の他に、第一騎士団ミスリーウインのビアーク団長、第二騎士団コバールニーグのヒュージトゥロ団長がいた。


「ヴァトリー卿、何用かな?」

「緊急事態に付き、騎士団に命令を下す許可を頂きたく」

「ああ、よい。皆まで言わなくても解っておる。

 汚らわしいクロめが暴れておるというのであろう?

 解っておる、解っておる。

 いつものように処理せよ」


さては、コバールニーグあたりから報告があったか?

まぁ、長々と説明をする手間が省けたと言うモノだ。


「ははぁ。それでは、ミスリーウインとコバールニーグ、クローメコーアや、他の騎士団にも協力していただき、

 事態の収束に当たりたいと思います」

「ん?

 待て待て・・・コバールニーグだけで十分であろう?」

「いえ、クロの他にもアルシェ・バイラの兵もおりますれば」

「待て。どういうことか?」

「は?」


報告を聞いていたから許可を出したのでは無いのか?


「ブロブソーブが出たという話では無いのかッ?」

「アルシェ・バイラによる奇襲と、ノラ、およびクロによる襲撃が発生しており、

 今も信者を含む多くの民が、教会に助けを求めてきております」

「なんじゃと・・・

 待て・・・どうなっておる。

 ・・・そうじゃ!

 教会の神聖な地を穢されるわけにはいかん。

 状況の把握に努める必要があるとは思わんか?

 そうじゃそうじゃ。

 一旦、門を閉ざし、ミスリーウインを中心として、この教会を護るのじゃ」

「門を閉ざし!?

 待ってください。

 我らを頼って逃げてきた民を追い返すのですか?」

「まずは、この教会の神聖さを護ることの方が重要じゃ!

 ビアークにヒュージトゥロは、ついてまいれ。

 今後の対応について、奥で話がある」

「ハッ」

「お、お待ちください」


こちらの呼び止める声も聞かず、団長2人を連れて奥へと消える。


「くそッ!あの油袋めッ!」

「ラクスロイ様、クアンダ殿がいらっしゃいます」

「ん。そ、そうか」


思わず悪態をついてしまったが、他人の目があったことを指摘される。

しかし、今の流れも見ていたのだ。

悪態をつきたくなる気分も解って貰えるだろう。


「そ、それで、ラクスロイ様。

 いかが致しましょう?」


クアンダ団長が、恐る恐る聞いてくる。


「民を追い出せと?

 そんなことが出来るハズも無い。

 我々を頼って逃げてきた人々だぞ。

 それこそ、信頼を失ってしまう」

「そ、そうですよね」

「まぁ、いい。私の責任で、出て貰うぞ」

「は、はい!」


クアンダ団長と一緒に兵舎の作戦会議室に入る。

既に各騎士団の団長、主立った騎士たちが集まっており、部屋に入ってきた我々に視線が集まる。


「諸君らも既に聞き及んでいるかと思うが、

 今、王都に賊が侵入し、好き勝手に暴れている。

 王国の騎士団が事に当たっているが、

 ノラやクロも加わっており、

 人手が足りていないのが現状だ。

 そこで、我らアシュタリオス聖教会は、

 これを排除し、信者をはじめとした民衆を救うこととした。

 各騎士団は、各団長の指示に従い、

 これを実行していただきたい」

「聖なる光の御柱の下に!」


各騎士の唱和が、大音響となって壁を揺らす。


「なお、ビアーク団長、ヒュージトゥロ団長は所用のため、

 それぞれ、副団長が指揮を執り、事に当たっていただきたい」


それぞれの隊が返事をする。


「ちょっといいですかい?」


が、部屋の後ろの方から声が上がる。


「何か?」

「ブロブソーブの退治じゃないんですかい?」

「ああ、違う。

 今回の目撃情報は、バンシールとその配下だ」

「バンシール!?

 じゃ、じゃぁ、団長の所用ってのはなんですかい?」

「詳しくは解らんが、大司教様と会議中だ」

「チッ、奴ら」


後ろの方は何を言っているか聞こえなかった。

何人かで会話をしていたかと思うと、会議室を出て行く。


「お前たち、どこへ行く」

「ちょっと団長に確認でさぁ」


4、5人がぞろぞろと出て行く。

残された方としては、何が何だから解らないが、今は気にしている場合では無い。


「よ、よし、各騎士団は、準備でき次第、出発してくれ」

「ハッ!」


各々が部屋を出て行き事に当たる。

それとは別に、一般職員に、逃げてきた人々に対する指示を出し、一通りの処理を終える。


さて、一段落したところで、油袋に会いに行かねばなるまい。

指示を無視して勝手をしたのだ。

一言、申し開きをしておく必要があるだろう。

それに、奴の態度が急変したことが気に掛かる。

ブロブソーブ退治ということで、騎士団が出ることが多かったことは確かだ。

確かだが、今回もブロブソーブの件だと誤解したのは何故なのか?


執務室の奥、奴の私室へと繋がる廊下を移動している最中、閉まりきっていない扉から何やら言い争う声が漏れ聞こえてくる。

詳しくは聞き取れないのだが、ガシャンと金属の叩き落とされる音が響いてきたかと思うと、ギャアアアと叫び声が聞こえてきた。

扉からキャアキャアと逃げ出してくる侍女たち。

その服には飛び散った血痕が付いており、さすがにただ事では無いと知れるので、大急ぎで駆けつける。

扉を開けようとしたところ、フォミットが前に立ち、抜剣、そのまま扉を開ける。


目の前には陰惨な情景が広がっていた。


金貨の山を血に染めている油袋。

壁際で胴の両側から肩口に向かって剣を突き入れられ、絶命している団長たち。

剣を突き入れた側は、1人は首をはねられ、そこから血を溢れさせ、1人は胴の芯を貫かれ、1人は頭を半分にし、1人は首を折られていた。

部屋の奥で気絶している侍女が1人、うつろな目で言葉にならない言葉をつぶやきつつ、失禁している侍女が1人、扉のすぐそこに、耳を斬られヒッヒッヒッとつぶやいている兵士が1人。

この部屋の生存者は、その3人だけだった。


「フォミット!

 こいつらを取り押さえろ!

 そして、逃げていった侍女も捕らえて軟禁しておけ!」

「ハッ」


血の臭いが充満する部屋を立ち去り、今後の方策を考える。


油袋を失脚させるにしても、こんな形は想定していなかった。

7名が死亡、しかも大司教を殺害ともなれば、隠し通すことは難しい。

目撃者を全て始末すればいいのかも知れないが、嘘の積み重ねはどこかで破綻する。

国の介入を避けることは難しいだろう。

生存者に口止めをしたところで、どこかから漏れてしまう。

それならば、真実を含ませた嘘で先んじた方がいいのではないか?

まずは、真実がどうなっているのかを知る必要がある。

上から塗りたくる色を決めるには、やはり下地となる真実が必要となるからだ。

フォミットに聴取を任せ、この急流を流れ落ちるかのような事態への対処を行った。


3ルーオ|(3時間半)も過ぎたころ、街中の情勢は落ち着いてきたようだ。

大多数のノラやクロは討ち取られ、アルシェ・バイラの兵も、一部の捕虜を残し全滅したようだ。

一部の巨人族が残っているようだが、王都の騎士団と我々とが合同で大型兵装を用い、押している最中だと報告があった。

ただ、街中の被害はかなり酷い。

巨人族との戦闘や、クロの使用した魔法などにより、家屋の倒壊焼失等々、これからの生活に支障が出る可能性が高い。

死傷者も相当数出ているようだ。

そこら辺の処置は国の領分なので、我々教会としては、被害に遭ってしまった人民に対し、救いの手を差し伸べるのがこれからの勤めとなるだろう。


油袋の件だが・・・フォミットに聴取を任せていたのだが、こちらは頭を抱えたくなるような内容を報告してくれた。

あの油袋は、寄付金を集めるために、ブロブソーブによる襲撃を演出していたという。


ブロブソーブのニセモノを仕立て上げ、事件を起こす。

殺人も何件か起こしているようだ。

人々は恐怖し、助けを求める。

そのニセモノを教会の騎士団が退治をする。

信頼が信者を産み、信者が金を産む。

ここ数年の寄付金の増大には、そんな裏があった。

独自に調べさせてはいたが、残念ながら、そこまで行き着いてはいなかった。


そこへ、予定外の因子が入り込んだ。

アルシェ・バイラの兵とノラ、クロによる首都の襲撃だ。

私が、油袋の命令を無視し、彼らに戦場へ赴くように指示したことが切っ掛けになった。

自分たちに分け前を寄越すこと無く、前線に送り込むことで口封じも兼ねて殺す気に違いないと誤解した連中に殺されたという訳だ。

民を救うことを選択した私の命令を誤解し、結果として、あの凄惨な事態と相成った。


この醜聞、始末が悪い。


関係者全ての口封じをするとなると、どこまで根を張っているのかが解らない。

侍女連中も、相当量の鼻薬を嗅がされており、かなり良い思いをしていたようだ。

それに、他の街でも似たような事を行っているらしく、かなりの範囲に根が張り巡らされている可能性がある。

元老の連中も、相当良い思いをしていたと思って間違いないだろう。

と、なると、誰を信用していいモノか。


まぁ、根の範囲に関しては、奴の帳簿が出てきているので、それを精査すれば解るだろう。

関係者の洗い出しは、フォミットに任せるとして、この醜聞の結末が必要だ。

嘘で塗り固め、隠蔽することも考えたのだが、油袋を完全に悪者に仕立て上げ、組織に流れ込んでいる汚い血を洗い流すべきだろう。

国の介入を許すことになるだろうし、信者は激減するだろう。

現状の維持は、まず無理だろう。

それらを加味しても、一旦、濁りを洗い落とすべきだと判断した。


舵取りを失敗すると、教会という組織自体が取りつぶされる危険がある。

クソッ。

あの油袋め。

やはり、早めに排除しておくべきだったか。

いや、そもそも、そんなに信心深いわけでもない。

こんな腐った組織、それこそ瓦解させた方がいいんじゃないのか?


そんな無責任なことが出来るような性分だったら、どれだけ楽だっただろうか。


どこまでの情報を開示するのか、証拠の捏造、無理の無い展開と結末が必要だな。

今後の教会の代表、騎士団の処置、そもそも根を掘り返す作業もしなければならん。

やること、考えることが山積みだ。

クソッ。

なんて日だ。

しばらく、悪態が止まることは無さそうだった。


次回「研修旅行の日、襲撃の時間」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

族が侵入→賊が侵入(指摘感謝)


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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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