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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
84/90

研修旅行の日、物見遊山の時間のネクリオス(友人)

「ねぇねぇ、ネク~。

 今度は壁の上に行きましょうよ~」

「ん~、そうだなぁ」


ニクルに腕を引っ張られながら、自分でも気のない返事をしたと苦笑する。

さすがにそれはニクルに失礼だったか。

別段、気乗りがしないというわけではない。

ニクルといると、その明るさには癒される物がある。


「そうよ~、ネク~」

「ルムハス・・・気持ち悪いからやめろ」


ルムハスがからかうように言ってきた。

こちらとしても苦笑せざるを得ない。

そんなルムハスとヨルマナの後ろに、ちょこんとニクルの友達、ホルルが控える。


「う、上からの景色は、中々見ることの出来ない絶景だと聞いてます」

「じゃぁ、行ってみるか」


ホルルの方を振り向きつつ、答える。


「おっと」


そんな余所見をした状態だったため、誰かにぶつかってしまったようだ。


「ほら、ネクリオス。

 余所見をしていると危ないぞ」

「これは失礼」


急いで振り返って、会釈しつつ謝る。

相手は頭から外套を被り、ぱっと見では男か女かもわからないような人だった。

性別はその体躯から推定するしか無い。

よくよく見ると、鎧を纏った状態なのが丸わかりだった。


「寒いからか、ああいう格好が当たり前なんだな」

「ん、どういうことだい?」


ヨルマナが聞き返してくる。

彼は気にならなかったって事だろうか。


「いや、ほら・・・今の人みたいな、外套を頭から被ってる人さ」

「確かに、所々で見かけますね。

 それが何か?」

「ぁ、いや・・・ちょっと気になっただけさ」


ミレイさんが黒髪を隠すために、似たような格好をしていたなと思っていただけだ。

住み慣れたシャンタでは帽子で隠す程度になってはいたが、こういった見知らぬ土地では、あんな感じで本格的に隠していた。

ああいった格好のがうろついているのなら、悪目立ちすることもなくて、良かったな・・・と思った訳だが、他の女性と一緒にいる時にする話題では無いので、胸中に置く。

いくらミレイさんにご執心ということが周囲に知れ渡っていたとしても、女性と連れ立っているときの礼儀って奴だ。

ご執心だと知れ渡っている割に、付き合ってくれるニクルは貴重な存在なんじゃないか?

とか失礼なことも考えていた。


要塞壁の上から眺める景色は、確かに壮観だった。

この先はノラやクロの徘徊する世界。

または西の大国。

まだ見ぬ世界が広がっている。

思わず、ブルッと震えたが、寒さの所為なのか、その世界へ想いを馳せたからなのかは解らなかった。


かなりの高さがあるため、所々にある部屋で外の景色を見つつ、ゆっくりと下りようかというときだった。

複数人の階段を駆け上がる音が聞こえ、何ごとかと振り返った。

ちらりと見えた背格好は、外套を頭から被った男が駆け上がる姿だった。


「何をそんなに急いでいるんだか」

「確かに妙では」


ヨルマナの言葉が、何かが転げ落ちてくる音にさえぎられる。

金属と柔らかい何か・・・重量物が転がり落ちる・・・端的に言えば、人が転げ落ちる音と聞こえた。

部屋の前、階段の踊り場に駆け出る。

血だらけになった兵士、ニクルの悲鳴、階上から聞こえる剣戟けんげきの音。


「ヨルマナ。済まないが、兵士を看てやってくれ」

「だいぶ厳しい感じがするけどね」


そう言いながら、ヨルマナが兵士の側にしゃがみ込み、様子を確認する。


何か尋常じゃ無いことが起きている。


思わず腰に手が伸びるが、帯剣していない事に気がつく。

舌打ちをするが、仕方が無い。

まさか街中でこんなことになるとは思っていなかったのだ。


「ネクリオス、これを使うか」


後ろからルムハスが槍を差し出してくる。

それを受け取りつつ・・・


「槍か・・・得意じゃないんだが、贅沢は言ってられないか。

 どこから持ってきたんだ?」

「いや、壁に飾ってあった奴だ。

 どこまでしっかりした作りかは解らんぞ」

「無いよりマシか」


調子を確かめるように左手を添え、右手でねじり込むようにして突き出す。

槍がしなりながら、そして、しなりから戻りながら中心を突く。

少し柔らかい感じがするが、装飾用だからか?


「それで、どうする?」

「そうだな・・・

 ヨルマナ、ケガ人の具合は?」


ヨルマナの方を見ると、力なく首を振っていた。


「手遅れだね」

「そうか・・・」

「それで、どうする?」

「逃げるべきだとも思うが、

 まずは何が起きているのか確認しよう」


ルムハスが、やれやれといったため息をつく。


「ニクルとホルルはここに隠れているんだ」

「え?

 ネクリオス、行っちゃうの?

 私たちを置いて」

「大丈夫だ。

 ちょっと様子を見て、すぐに戻ってくる」

「ほんとに?

 無茶はダメだよ?」

「ああ、もちろんだとも」


俺が前、ルムハスが後ろ、ヨルマナを中心にしてゆっくりと階段を上がる。

いつでも突き出せるように槍を低く構え、様子を伺いながら次の踊り場まで上がってきた。

死体が3つ。

外套を着た襲撃側と思われる死体が1、兵士の死体が2。

階段の下に転がり落ちてきた兵士も合わせれば、兵士の側が3人、死んでいることになる。

襲撃側の方が有利に事を運んでいると言うことだ。

左手の小部屋から剣戟の音が聞こえてくる。

入口外の左右に分かれ、部屋内を伺う。

ちょうど、最後の一撃を受け、兵士が倒れるところだった。

外套姿の男が3人・・・

部屋の外・・・壁の街側へ出て行くところだった。

こんな襲撃をしてまで、壁の街側に何の用があるというのか・・・


ルムハス、ヨルマナに、どうするか目と手で合図する。

今なら、襲撃側は後ろに気を配っていない。

不意打ちを仕掛ける好機とも言える。

先の2人が外に出た。

残っている1人に対し、俺が膝の裏、ルムハスは肩口を狙い不意打ちを仕掛けることにする。

卑怯だとは思うが、犯罪者にかける情けは無い。


物静かに近づき、間合いに入ったところで一斉に突き出す。

突き出す際、踏みしめた足が、ジャリと音を立てる。

その音に違和感を感じたのか、男が振り返る。

まずい。

戦力としての無効化を目的として、関節狙いだ。

的に動かれると、簡単に外れてしまう。

結果的に、俺の槍は外れ、ルムハスの槍は肩に当たったものの、金属のこすれ合う音を立てながら、突き刺さること無く表面を滑った。


「貴様ら」


男が振り返り、体勢を立て直して恨みがましい声を上げる。

外にいる奴らが何か声を上げたようだが、こちらまでははっきり聞こえなかった。


「気にするな。お前らは計画を進めろ」


外にいる奴らに対しての返事・・・計画・・・

相手の装備は剣・・・盾は無し。

槍の間合いを活かし、先手必勝!


的の大きい胴体へ向かって、槍を突き出す。

半歩遅れて、ルムハスが剣を持つ腕に向かって突き出す。

恐らく、金属鎧を装備しているのだろうが、そんなことはいい。

不意打ちが失敗したからには、安全に逃げる策を模索するべきだ。

胴への一撃は、剣で打ち払われたが、ルムハスの一撃が肩をはじく。

鎧の隙間を突くことは適わず、表面を滑る。


「小僧ども、邪魔立てするか!」


男が悪態をつく。

その一瞬後に爆発音と共に、足下というか、壁全体が揺れた。


「なんだ!?」

「やったか!」


続けて2発、3発と爆発音が響く。

響く毎に足下が揺れる。


「何をしたんだ!」

「これから死に行く貴様らには、関係の無い話だ」


今までと違う爆発音が響いたかと思うと、壁全体・・・むしろ天井が揺れた。

思わず、そちらに視線が逸れる。

男が一気に間合いを詰める。

しまったと思ったときには、もう懐に入り込まれていた。

槍でなんとか防げたが、それと同時に槍が真っ二つになる。


「くそッ」


半分になった槍を敵に投げつける。

男は余裕を持って剣ではじき落とす。

その一瞬が欲しかった。

ルムハスが、その隙を突いて、なぎ払うような攻撃を繰り出す。

それも剣で防がれる。

今はその時間が貴重だ。


「ヨルマナ、逃げるぞ!」

「解った」


ルムハスも、その槍を男に投げつけ、逃走に転ずる。


「待て、くそっ!

 逃がすかよ」


男が追いかけてこようとする。

が、向こうは金属鎧を着ているのだ。

逃げ切れるはずだ。


先ほどから、何か重量物が引きずられるような・・・そんな擦過音が壁の方から聞こえてくる。

何でそんな音が聞こえるのかが理解出来なかった。

ゆっくり考えている余裕は無く、大声を出す。


「ニクル!ホルル!急いで入口から逃げるんだ!」


2人が階段を駆け下りる音が響いてくる。

それに続くように、まさに飛ぶようにして階段を降りる。

入口から外に出ると、左手側から、異様な圧迫感を感じた。

何ごとかと、そちらを見ると・・・先ほどの異音の正体を理解した。

異音の発生源は理解したが、何が起きているのか理解出来なかった。

いや、事実は事実として目に入ってきている。

入ってきているのだが、それを理解することが出来なかった。


「なんで大門が倒れてきているんだッ!」


じわじわと速度を上げて倒れ込むソレは、向かいにあった建物の屋根にぶつかると、一瞬、その時を止めた。

それは一瞬のことだった。

大門の重さに耐えることなど、出来るハズも無く、あっけなく潰れ、大門が大きな音を立てて地面に倒れ込む。

それと同時に、雪煙が巻き起こる。

遠くから見たならば、単に雪煙が舞い上がっただけだっただろう。

だが、間近にいた我々には、突風となって襲いかかってきた。

敵から逃げることしか考えていなかった我々は、そんな突風に対しての心構えなどある訳も無く、為すすべ無く吹き飛ばされた。


どうやら気を失っていたらしい。


それが一瞬のことなのかどうなのか解らないが・・・頭を振りつつ起き上がる。

頭が多少痛いが、特に外傷がある訳でも無く・・・いや、どうやら頭を少し切ったようだ。

頭に触れていた手に血が付いていた。


「みんな・・・無事か?」


周囲を確かめる。


「ニクル、ホルル、無事か?」


近くにニクルとホルルが倒れていたので、状態を確認する。

俺とは違って、特に目立った外傷は無い。

呼吸もしっかりしているようだ。


「2人とも、起きるんだ。

 ルムハース!ヨルマナー!どこだー?」

「ネクリオース!こっちだ!」


がれきの向こうからルムハスの声が聞こえてきた。

急いでがれきの向こう側へ回り込む。

ルムハスが、がれきの隙間に角材を突っ込もうとしているのが見えた。


「どうした?」

「ヨルマナががれきの下敷きになっているんだ!」

「なんだと!」


仰向けになって下半身ががれきの下に隠れている。

血溜まりがじわじわと広がっている。


「まずいッ!せーので押し上げるぞ!」

「おうッ」

「せーのッ!」

「はあぁぁあッ!」


2人で一気に力を込め、がれきを押し上げる。

俺が、木材でがれきを押さえつつ、ルムハスが一気にヨルマナを引っ張り出す。

うっという呻き声が聞こえたことから、死んではいない事が解ったが・・・その右足はぐしゃっと潰れており、血が止まる気配は見られなかった。

ヨルマナに治療を行いたいが・・・我々の班のヒーラーが気絶という事態・・・非常にまずい!

ちょっと呼びかけた程度では起きそうに無い。

取り敢えず、止血だけでもしなければ。

右腿の付け根付近を、衣服を切り裂いた布で縛り上げる。


「急いで治療しないとまずいな」

「治療・・・そうだ、ホルルにウィルを探して貰おう!」


ホルルに・・・そうか、ホルルの精霊魔法でウィルを探し出すのか。


「それだ!急いでニクルとホルルを起こそう」


多少、乱暴ではあったが、一刻を争う・・・ニクルとホルルに起きて貰った。

状況の掴めていないニクルとホルルに説明をする。

ヨルマナの状態を見てしまい、2人の顔色が悪くなったりもするが、今は気づかっている余裕は無い。


「ホルル、やってくれるな」

「うん・・・いいけど・・・

 なんでウィルくんなの?」

「ウィルの治療は信用出来る。

 奴ならヨルマナを治療できるはずだ。頼む」

「うん・・・」


ホルルが、その精霊に問いかけを始めたとき、騎馬・・・いや、騎馬隊の蹄の音が聞こえてきた。

街の中心からでは無く、背後・・・倒れた大門から。

振り返ると、白い外套を羽織った・・・しかも馬にまで白い布をかぶせた騎馬隊がいた。

何らかの渡し板を大門にかけたのだろう。

そうでなければ、4レティーム|(2メートル)近い厚さ・・・高さになる大門の上に登れるわけが無い。

そして、その4レティームの高さを物ともせず、飛び降りて街中に向かっていく。

30騎はいるだろうか・・・精鋭ってことか?


「まずは、そこいらの脇道に隠れよう」

「そうだな。

 騎馬隊は大通りを進むだろうから・・・」

「あの騎馬隊・・・アルシェ・バイラだと思うか?」

「方向からすればそうだけど・・・なんで!?」

「解らん・・・解らんが、やばいことだけは確かだ」


騎馬隊の駆けていった方・・・このまま行けば、ぐるりと回り込む形で街の中心に行くはずだ。

何がどうなっているのか理解が追いつかなかった。


「ネクリオスくん、ウィルくんの居場所解ったよ」

「そうか!案内出来るか?」

「う、うん・・・ちょっと遠いかもだけど」

「構わん。まずはヨルマナを治療して貰わないとな」

「解った。こっち」


どこからか出火したのか、赤い炎と黒い煙が姿を見せ始めていた。

灰色の空、黒い煙・・・日差しも希望も、すぐには見えてきそうには無かった。


次回「研修旅行の日、治療の時間」


Twitter @nekomihonpo


お正月くらいは、一週休んでもいいんじゃないかな?

でも忘れられるのが怖いので投稿。


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◆用語 ●幼少期人物一覧
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 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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