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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
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研究の日

その後、ブロブソーブのニセモノがどうなったのか気になったので、それとなく聞き出すために詰め所に出向いたりしていたのだが、ブロブソーブが死亡したと聞かされた。

詳細は調査事項で秘密だと言われた。

・・・その割には色々と話してくれたが。

アシュタリウス聖教会の騎士が乗り込んできて、胸を一突き・・・あっけない幕切れだったらしい。

巡視側は当然、抗議したのだが、どこ吹く風といった体であしらわれ、巡視と聖教会の間は険悪な状態に陥ってる。

と、愚痴をたっぷり塗りたくった状態で聞かされた。

唐突に聖騎士様が出てきたので、聞いてみたところ、ニセモノが呼べと求めていたと言う。

これは胡散臭い。

巡視側も胡散臭いと思い、調べているのだが、なんせ相手は聖教会の聖騎士様だ。

素直に調べさせて貰えず、その後の進展はかんばしくない。


ニセモノの物と思われる牙を発見したが、確認を取ろうにも相手は既に死んでおり、結局、犯人はブロブソーブとして処理された。

つまり、今回の一連の事件はブロブソーブによる犯行と言うことになり、フェルミたち一族の濡れ衣は着せられたままなのが残念なところだ。

っていうか、この話、フェルミには出来ないなと思い、オブラートに包んで・・・それこそ、十重二十重に包んで話した。

一時、えらく憤慨していたが、冷静に考えれば、彼女らがそれまでにやってきたことと大差が無いため、落ち着いた。

・・・それはそれで人間の側としては釈然としないが。


濃葉の長期休暇(夏休み)の冒頭でそんな事件もあったりしたが、あとは平和そのものだった。

何故か事件後、フェルミが我が家に逗留することになっていたのは納得がいかない。

まぁ、家族も歓迎していたし、ヨシとするが・・・


暑い季節なので、皆・・・チノやラルとも合流して、泊まりがけで河へ遊びに行ったりもした。

河と言っても大河というに相応しいスケールをしており、海水浴代わりに河川浴とでも言おうか・・・観光地として賑わっていた。

そんな水着イベントもこなしつつ・・・もっとも、こっちの水着はまだまだ"かぼちゃパンツ"程度の野暮ったいモノばかりなのだが。


濃葉の休みも終わり、紅葉の季節を迎えようとしていた。

学院での平穏な生活に戻り、授業を受け、アシュタオリル先生の所で雑談という名の研究をする日々を過ごしている。


卒業のためには、まだまだ新しい何かを発見しないとまずいのだが、現状発見出来ていない。

まぁ、そんな簡単に見付かるようなら誰も苦労はしない。

そんな新しい何かを発見するべく・・・


「アシュタオリル先生、

 心力を伝達するような物ってのは何かありますか?」

「ふむ。何か思いついたのかな?」

「ちょっと試してみたい事が出来まして・・・」

「なるほど、それは楽しみじゃ。

 さて、心力を伝達する物じゃったな」

「ええ」

「あるにはある。

 アシェアという植物なんじゃが・・・

 使い勝手というか、使い道は微妙じゃな」

「微妙なんですか?」


詳しい話を聞いてみると、確かに微妙と言われるのも解る。

最大の欠点・・・新鮮であること。

見た目、柳にそっくりな植物で、しなだれている枝の部分を使用するのだが、これが新鮮である必要がある。

まぁ、その後の研究で、濡れていれば問題が無いことが解っているのだが、それでも1回、完全に乾いた物は何故か使い物にならない。

そのため、加工はともかく、保管に向かない。

水と一緒にして、樽に突っ込んでおくと、最終的には腐ってしまう。

一番、手間が掛からず楽な保管方法は、友禅流しのような川流しになる。

樽に比べれば・・・と言うだけで、結局、ナマモノがゆえに使用期限がある。

どうひっくり返しても使い勝手の悪い素材ということになってしまう。


で、その使い勝手の悪い素材に劇的な使い道があれば、その価値も変わったのだろうが、こちらも微妙だ。


心力の伝達と言うが、どういうモノかと言うと・・・

壁で仕切った二部屋の壁に穴を開け、アシェアの枝を通す。

両側を人が握り、Aの部屋で三角とか四角といった図柄を見せ、Bの部屋に念じて伝達するというモノ。

テレパシーの実験かよ・・・と突っ込みたくなったが、これが50回中、48回的中という結果を示し、効果を実証した。

それは心力では無くて、思考なのでは?

と突っ込みを入れてみたが、これが心力じゃ無くてなんだというのかと逆に問い返された。


そこから、色々と実証実験が行われたのだが、前述の欠点もあり、徐々に微妙な地位を確立してしまった。

使い道に関してのアイディア出しも行われたのだが、あまり振るわなかったようだ。

枝を細切りにし、紐状に編み込むことで、距離を伸ばすことには成功した。

糸電話程度の用途では、手間ばかりかかってしまって割に合わない。

枝を編み込んで、盾状にし、心力を通わせたところで、別段、材質が変化するわけでも無く、枝は枝でしかない。


「布に、それを使って魔法陣を編み込んでみたら効果があったりしませんか?」

「魔法の強化に使えるんじゃ無いかという研究もあったが、

 結局の所、心力の出所が変わらないからのぅ」

「見て取れるほどの効果は無かったと・・・」

「そうなるのぉ」


なるほど・・・思った以上にがっかり素材なのか。


「それで、このアシェアの枝を使って何を企んでおるんじゃ?」

「いや、企むと言うほどの物では・・・」


紙鳥(紙飛行機)を使って魔法を発動する際、あらかじめ呪文を唱え、心力を込めてからでないと発動が出来ない。

そして、その心力は、時間と共に拡散するのかは不明だが、一定時間内に発動キーワードを唱えないと消えてしまう。

また、魔法陣が視界に入っている必要があるらしく、物陰に入ってしまうと発動に失敗する。

これを改良出来ないかと考えた次第。


「遠隔での魔法発動に使えないかなと思いまして」

「紙鳥じゃ不満かの?」

「物陰に入ってしまうと使えませんからね」

「ふむ・・・」


導火線みたいに使えないかと思った訳だ。

物陰から発動が出来れば、ダイナマイトでは無いが、そういった使い方も可能となる。

紙鳥(紙飛行機)では、目標物に対して命中させるということが、どうしても難しい。

しっかりと固定をしてから遠隔で発動・・・という用途もあるはずだ。


そんな訳で、さっそく実験ですよ。

学院内でアシェアの木が生息している場所へ出向き、その柳にそっくりな枝を拝借する。


「で、どうするんじゃ?」


先生やラルが、興味津々と覗いてくる。

まずは、枝の先に魔法陣を接触させる。

枝が1本では距離が近すぎる気がしたので、3本・・・無理矢理繋いで5メートルほどにしている。


「まずは、基礎実験ってところですかね」


ミレイを手招きし、魔法陣の反対側を握らせる。


「じゃぁ、ミレイ、氷の球を1つお願いします」

「・・・解った」


「・・・かる、もるで、やーる」


アシェアの枝を通して、心力が伝わり、枝先の魔法陣部分でアイスボールが出来上がる。


「ここまでは解っておった事じゃな」

「ええ、確認って意味合いが強いですし」


次は魔法陣が見えない位置にある場合だ。

枝先を岩の影に隠してしまう。


「じゃぁ、ミレイ、お願いします」

「・・・うん」


先生やラルが魔法陣を見守る。


「・・・かる、もるで、やーる」


ミレイが呪文を唱えたが、今度はウンともスンとも言わない。

魔法陣を交換し、ラルにもやってもらうが、同じ結果だ。

魔法の発動には、魔法陣が視界に入っている必要があるって事が再確認された訳だ。

まぁ、半分予想していたとは言え、残念だ。


「失敗じゃのぅ」

「そうですね」

「まぁ、見える位置での発動でも、

 距離を置くことが出来るのじゃ。

 十分使い道はあるじゃろうて」


例えば、まっすぐ飛んでいく術式部分が省ける。

それだけ、心力を消費せず、威力アップに回せる。

トンネル工事の発破では無いが、そういった部分への応用は利くだろう。


「不満そうじゃの」

「ええ、まぁ・・・

 魔法陣が見えてないとダメってのを再確認した程度ですから」

「じゃぁ、魔法陣が必要無い魔法ならどうなの?」


ラルがひょいと、そんなことを言う。

魔法陣の要らない魔法・・・


「神聖魔法か精霊魔法ってことですか」


まぁ、精霊魔法は、もともと会話で成立するような魔法だし、意味は薄いだろう。

神聖魔法となると・・・ここに使い手がいる訳だが・・・


「試すのが難しい所ですね」

「あら、ダメなの?」

「ヒールを試すにはケガ人が必要ですし、

 トランスファーは、止め所が解らないと危険な可能性がありますし」

「いい考えだと思ったんだけどなぁ」


まぁ、確かに、アイディアとしては面白い。

・・・使い道があるかは別だが。


「・・・ボクにトランスファー、する?」


ミレイに声を掛けられ、不意打ちの一言に、一瞬、頭の中が真っ白になる。

いやいや、今、トランスファーは止め所が難しいって話をしたばっかりなんですが。


「・・・ボクなら、大丈夫だよ?」


確かに、ミレイのキャパなら、空っぽに近い状態にしておけば、そう簡単に溢れることもないだろう。

どうする・・・試してみるか?


「やるにしても、もっと心力を使ってからですね」

「・・・そっか。解った」


そんな訳で、ミレイには無駄弾をたんまりと撃ってもらった。

なんだかんだで、ミレイも心力量が増えているので、これが中々に大変だった。

念のためとは言え、かなりの心力を消費して貰ってから実験に入る。

リサーチをして様子を見ると、かなりの量を消費しているようだ。

建物の角で、お互いが視界に入らないようにして枝の両端を握る。


「じゃぁ、ミレイ、

 準備はいいですか?」

「・・・うん。いつでもいい」

「それでは・・・

 我、彼の者に気力の源、立ち上がる力を分け与えん。トランスファー」


アシェアの枝に対して心力を注ぐ。

なんていうか・・・普段と違いすぎて、奇妙な感じだ。

ちゃんと注げているんだろうか?

手応えってモンがイマイチ伝わってこないので解らない。


「ミレイ、どう?」


集中しているこちらに代わり、ラルが質問する。


「・・・うん。入ってきてる・・・けど」

「けど?」

「・・・これは・・・何か、イヤ」

「イヤって」


取り敢えず、実験は成功ってことでいいか。

ってことで集中を解く。


「・・・ぁ、終わり?」

「一応、成功みたいですし、

 いまいち、どこまでやっていいのか解らないので、

 不安で落ち着かないですし」

「・・・そっか」


リサーチを再度使用し、結果を確認する。

確かに効果はあったみたいだが・・・やはり、直接ほどの効果は無い。

片手で触れた時より少ない。

その半分よりは多いが・・・やはりロスが結構ある感じだな。

まぁ、無難な結果だろう。


「それで、イヤってのはどういうことです?」

「・・・なんとなく・・・暖かい感じがしない、から」

「暖かい感じですか」

「・・・うん」


成功と言えば成功なんだが・・・こちらとしてもどれくらい注いだのか解らないので微妙と言える。

トランスファーが成功したんだ。

ヒールでも、恐らく問題は無いだろう。

・・・使い道があるかは別だが。


「成功のようじゃな」

「ええ、一応は・・・」

「不満そうじゃの」

「使い道が無さそうですから」

「そうかの?

 枝さえ届けばいいわけじゃ。

 それこそ、緊急時に覚えておいて損は無いと思うがの」


緊急時・・・

例えば、崩落した際、向こう側に枝さえ届けば治療が可能。

って考えれば、確かに全くの無駄知識ってことも無さそうではある・・・が。

そんなに都合良くアシェアの木が見付かるだろうか?

どうにも微妙感がぬぐえないが、確かに、覚えておいて損は無いか。


「それで、先生、今回のこれって卒業資格になる?」


さすが、ラルだ。

なんというか、たくましいな。


「さすがに、コレだけではのぉ」

「え~、ダメなの~。

 ウィルなら、きっと応用考えてくれるから」

「こっちに丸投げなんですね・・・」

「じゃ、その応用を考えてきてからじゃな」

「ぶ~、ぶ~」


結局、いいアイディアは出なかったが、ラルが思った以上に一生懸命で・・・

このチャンスを逃すまい、と言う姿勢は凄いと思うのであった。


次回「研修旅行の日、物見遊山の時間」


Twitter @nekomihonpo


※水着ネタ回でもよかったんですが、あまり膨らまなかったので・・・

※次回、年数ジャンプします。ごめんなさい。


変更箇所

何故が→何故か(指摘感謝)


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 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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