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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
79/90

吸血騒ぎの日のフェルミ(友人)

ウィルから心力を貰うようになって、3つ目の季節に入った。

既に、数回のトランスファーを受けている。

当初は、血が欲しくなることがあるんじゃ無いかと思っていたのだが、あれから一度も吸血を行ってはいない。

ウィルの予想が当たったということだ。

数回のトランスファーの内、大多数はウィルによる「ちょっとした確認」と称する、まさに人体実験だった。

私に心力を使わせ、疲弊させ、その上で確認するようにトランスファーをする。

悪魔を見た事は無いが、恐らくウィルのような姿をしているに違いない。


レイナンセには、ウィルにバレたことも、心力を分けて貰うことも伝えてある。

逆に、レイナンセの事をウィルに伝えるかは、相談した上で秘密にすることにした。

秘密にしているのだから、レイナンセは年に数回、吸血を行っていくことになる。

レイナンセの仕事柄、心力の消費が激しいわけでは無いので、事件となって発覚する危険も少ないだろう。

ウィルにレイナンセの事も伝えた上で、心力を分けてくれと言えば、分けてくれそうな気はするのだが、いずれ卒業することを考えると隠しておくことが無難と思えた。

まぁ、それを言うと、私もいずれはウィルと別れることになるわけで・・・取り敢えず、先送りにすることで問題を溜め池に沈めた。


そんなある日、ウィルから、近くに他のブロブソーブ(ブラウサラ)がいるのかと問われ、ドキリとしたが、レイナンセの事では無かった。

詳しく話を聞くと、時折、ブロブソーブによる吸血事件が発生しているらしい。

これが、どうにも胡散臭い。

レイナンセの把握している限りでは、3人ほど、首都に潜伏している。

人数に対して、事件の数が多い。

気になったので調べてみると、一カ所で連続して事件が発生してる。

潜伏している連中も、吸血事件が発覚することによる不都合は理解しているはずだ。

自分たちの身元が割れることを防ぐために、余所の土地で吸血を行うのが通例だ。

しかしながら、この噂になっている事件というのが、首都や、その周辺都市での事件なのだ。

確かに、人間が大勢住んでいるため、隠れやすいと言えば隠れやすい。

それでも、何を切っ掛けに発覚するか解らないのだ。

そんな危険は極力避けるのが、普通の感覚だ。


胡散臭いと考える理由は、他にもある。

吸血相手を殺しているのだ。

まぁ、確かに・・・身元が割れる可能性を防ぐために殺すこともあるだろうが、殺しすぎている。

しかも、刃物による殺害と言うでは無いか。

かなり不自然だ。

吸血行為により、相手の身体は麻痺している場合がほとんどだ。

そんな相手に対して、わざわざ刃物を使う理由が無い。

我々が力を込めて首をひねれば、ほぼ確実に葬り去ることが出来る。

殺してから吸血行為をする・・・という可能性があるにはあるが、死体からの吸血行為は一族の中でも忌み嫌われており、普通ならば、そんなことはしない。

・・・吸血行為の頻度から、すでに普通では無くなっている可能性もあるのだが。


何ごとも、限度と言う物がある。

あまり、やりすぎても困るのだ。

ブロブソーブ狩りとして、潜伏している同胞がいぶり出されるのも困るし、討伐隊を組まれ、一族の里に乗り込まれても困る。

個々の能力では、恐れるところは何も無い・・・まぁ、たまに例外はいるが・・・

人間の集団・・・単純に種族の数で言えば、圧倒的に負けている。

全面的な闘争に発展され、消耗戦になっては困るのだ。


学院が濃葉の長期休暇に入った。

人間達は、それぞれの家に帰ったりしている。

まぁ、帰らないのもいるようだが。


私は、これを機会に、その胡散臭い事件に関して、しっかりと調べてみることにした。

とは言え、いつどこで起きるのかを予想するのは難しい。

ただ、過去の傾向から、1回発生すると、2回、3回と同じ町で発生する。

アルバ・イデナ・コトナという町で、この1巡り(9日間)に2件の吸血殺人事件が発生しているという話を聞き、コトナの町に入った。

町中をうろついた程度で、事件現場に遭遇出来るとは思っていないが、多少のアテはある。


ウィルから心力を分けて貰えるようになってから、心力の心配をする必要性が減った。

コレに関しては、本当にありがたい。

心力を消費するが、嗅覚を最大限活かし、血の臭いを探りながらうろつくつもりだ。

かなり頼りないアテではあるが、現場を見つけ、何とかしたいと考えている。


暑い日差しが、あらゆるものを熱し、熱気となって宙に漂う。

嗅覚を敏感にしている身としては、ありとあらゆる臭いが漂ってきて、なかなかにつらい。

それは日が傾いてきたところで、その日の熱気が消え去るわけでも無く、臭いとして私の身にまとわりつく。

すでに、明日からは別の手段を執ろうかと、心がくじけかけている時だった。


「いやぁぁぁっ!」


嗅覚を強化すると、それに引きずられるように聴覚も少し強化される。

その強化された耳で、やっとなんとか聞き取れる程度の悲鳴が聞こえてきた。

聞こえてきた方角を向くが、はっきりとは解らない。

しかし、微かとは言え、何らかの事件が起きているようだ・・・それこそ求めている事件かも知れない。

このまま、駆けつけるには、人間どもが邪魔でもどかしい。

肉体強化を駆使し、建物の屋根に上がる。

そこから屋根伝いに、悲鳴の聞こえた方角へ飛ぶようにして走り出した。


少し行ったところで、後ろから悲鳴・・・それこそ死に際の悲鳴が聞こえてきた。

どうやら、少し行きすぎたようだ。

急いで戻り、屋根上から路地裏へ身を躍らせる。


落下中の眼には刃物を持った男、斬られたと思われる女が見えた・・・そして漂い始めた血の臭い。

男は女の首筋で吸血を行っているように見えた。

二人にぶつかる前に、男に対して蹴りを繰り出す。

完全に不意打ちとなった男の頭部に蹴りがめり込む。

そのまま振り抜き、しゃがむようにして勢いを殺し着地する。

男が建物の壁に頭を打ち付け、うめき声を漏らす。


その隙に、女の様子を伺うが、思った以上に斬られた傷が深い。

出血が続いており、周囲に血の臭いが立ちこめる。

しゃがみ込んだまま、片手で傷を押さえるが、傷口を塞ぐには到らない。

両手で塞ぐ必要がある。

いや、塞いだところで、この傷だ・・・助かるのか?

少なくとも、この男が犯人であると証言して貰う。

そこまでは生きていて貰わなければ困る。

血が止まることを願い、両手で傷口を押さえた。


男の方を伺う。

頭を振りながら、顔を上げるところだった。

この暑いのに頭巾を被り、目元を隠している。

隠してはいるが、目は隠していない。

その目を見て確信する。


この男はニセモノだ。


我らの一族では無い。

一族の振りをし、我らの仕業と・・・我らのことをおとしめ、殺人を行う。

男が逃げる。

すぐに追いかけたいところだが、この女性をどうする?


「うぐ」

「チッ」


が、すぐに誰かにぶつかったようだ。


「待て!」


待てと言われて、待つ犯人がいる訳が無い。

むしろ、ぶつかったその何者かに、ここに人がいることを教えるべく、声を上げた。


「フェルミ!?」


その何者かの声は、この国に来てよく知っている男の声だった。

そして、今、ここにいるのは実に都合のいい人間だった。


「む、ウィルか。

 いいところに来た。

 大急ぎで、この女性を癒してくれ」


ウィルが慌ててこちらに駆け寄り状況を確認する。


「ヒール」


かなりまずい状況だったのか、詠唱を省略し、ヒールだけを唱える。

その甲斐あって、傷口がみるみる塞がっていく。

悪魔のような一面を持っているかと思えば、こういう面は実に頼もしい。


「で、どういうことです?」


一通りの治療が終わったのだろう。

こちらを向いて状況の確認を促す。

が、正直なところ、そんな悠長なことを言ってはいられない。


「後で説明する。心力を寄越せ」

「は?」

「今から奴を追いかける」

「もう逃げ切ってますよ?」

「問題無い。今なら臭いで追える。

 ただ、全力で追うには心力が心許ない」


今日だけでも、少々心力を消費していることだしな。

念には念を入れ、万全を期して追いかけたいところだ。


「そういう事ですか」


ウィルが、トランスファーを行うべく、私の両手を取る。


「リサーチ」


その呪文により、私の心力の状態が丸裸になる。


「我、彼の者に気力の源、立ち上がる力を分け与えん。トランスファー」


トランスファーにより心力が注ぎ込まれてくるのが解る。

じっくりと味わっていたいところだが、時間が勿体ないので、この間にウィルに説明をすることにした。


「ブラウサラ・・・ブロブソーブの事件があっただろう。

 それを調べていて遭遇した。

 あのニセモノがその犯人だ」

「なるほど。

 ・・・心力の充填完了です」


もう何度目になるだろうか。

こうして心力を注ぎ込まれるのは・・・何とも言えない不思議な感じがする。

吸血をして得るのとは違う・・・身体の奥底から染み渡っていくような感覚・・・


「うむ・・・助かる」


身体の隅々に心力を染み込ませる。

実際に染み込んでいるわけではないと思うが、その感覚が身体を強化する。

臭いが解らなくなる前に追いかけるとしよう。

軽く飛び上がり、左右の壁を蹴って屋根の上に出る。

奴の臭いもさることながら、その剣から漂う血の臭いは、思ったより鼻についた。

これなら追いつくのも時間の問題だろう。


いくつかの屋根を飛び越え、眼下に逃走する男を捉えた。

男が首をひねり、こちらの方を伺う様子を見せた。

どうやら物音で気付かれたか。

不意打ちを掛けることが出来なくなってしまい残念だ。

相手の進路を塞ぐようにして着地する。


男は、一言も発せずに上段から斬りかかってきた。

一切の問答をする気は無い・・・という事か。

その一閃を難なく躱す。

切り返しての一閃、さらに一閃。

剣に関しては専門外なので、はっきりとは解らないが、かなりの腕だと思われる。

ソレと同時に、やはりニセモノなのだと実感する。

吸血直後で心力に余裕があると思われるのに、普通なのだ。

目も普通、膂力りょりょくも普通、速さも・・・速さは少し鋭いか?

その平凡な一撃である剣の腹に、回し蹴りのつま先を叩き込む。

そんな反撃は、予想していなかったのだろう。

手に持つ剣は暴れ、手をはじき、横に飛んでいった。


「っ、こ、この化け物めッ!」


これはこれは・・・


「まさか、ブロブソーブに化け物呼ばわりされるとは思わなかったな」

「ぐっ・・・」


男が剣を拾おうとしたので、その右腕を蹴り上げる。


「ぐあッ!」


腕を押さえつつ、こちらを睨んでくる。

が、迫力も威圧感も感じない。

一気に気が抜けてしまった。


「どうした。

 ブロブソーブなんだろう?

 吸血でもしたらどうだ。

 相手はか弱い女だぞ?」


男が反転し逃げだそうとした。

こんな所で逃がすわけがない。

一気に飛び出し、男の後頭部を掴むと、勢いそのままに身体を追い抜く。

当然、頭は引っ張られ、前のめりに宙に浮く。

その男の頭を下に突き出し、着地する。

地面とこすれ合うジャリとした感触が伝わってくる。

素早く起き上がり、男の方を警戒する。


「・・・おい。どうした」


問いかけるが返事がない。


どうやら気絶してしまったようだ。

・・・さすがに死んではいないと思うが・・・


「・・・やりすぎたか?」


さて・・・この男を、ここで始末するのはたやすい。

が、果たして、それをしていいモノか?

思わずため息が漏れてしまうが・・・まずは、ウィルの所まで戻って、奴に押しつけるか?

そうだな・・・それがよかろう。

私、一人の考えでは、余計な厄介事を招きかねない。


そうと決まれば、行動は早い方が良いだろう。

脚を掴み、引きずって道を戻り始めることにした。


次回「吸血騒ぎの日のその後」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

斬られた思われる→斬られたと思われる(指摘感謝)

出血か→出血が(指摘感謝)


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◆用語 ●幼少期人物一覧
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 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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