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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
78/90

吸血騒ぎの日

2年に上がって、結局、アシュタオリル先生の所にミレイとラルと一緒にお世話になることにした。

チノは、アトスラス先生の所でお世話になっている。

午前中は、授業を受け、午後は先生の所で、雑談をして時間を潰す。

まぁ、雑談と言っても、呪印魔法に関するあれやこれやなので、研究と言っても過言では無い・・・たぶん。


フェルミは、遊学生(留学生)と言うことで、かなり自由裁量が許されている。

・・・なんで許されるのか、納得は行かないが。

そんな訳で、特定の先生につくこともなく、自由気ままに、興味のある研究内容のところに顔を出しているようだ。

なんだかんだと、ウチんとこに顔を出すことが多い。

まぁ、心力を分け与える件もあるし、端から見ると、ウチらと一番仲が良いように見える。

自由気ままなのをいい事に、時たまサボっている。

んで、サボった時間、ウチらんとこに顔を出していたことにしている・・・らしい。

最初の1回はフォローしたが、2回目以降は知らんと正直に答えた。

人でなしとののしられたが、むしろ、お前が人じゃ無いわ・・・とか喧嘩になった。

ちょっと大人げなかったと反省して・・・無いな。

サボる方が悪い。


そんな、取り立てて事件の無い平和な日々を過ごしていた。

別段、濃密な日々が欲しい訳でも無いし、これからも平々凡々に過ごしていく腹づもりではあるのだが。

季節も巡り巡って濃葉(8月を中心とした季節)になった。

つまり、これから4巡り(36日間)は夏期休暇って奴だ。

大多数の学院生は、それぞれの実家に帰っていく。

・・・色々な事情で、学院に残る学生もいるが。

ウチらも、当然ながら実家に帰ることにする。

フェルミは、実家が遠いので、自由気ままに過ごすとのこと。


久しぶりの実家だ。

相変わらず、馬車の旅はケツが痛い。

クッションだと、最初はいいのだが、時間が経つとやっぱり痛い。

どうにか工夫が出来ないかと、思索の森をさまよっていた。


「兄さん、何してるの?」

「ん~。ああ、ウィノウか」


もうすぐ、7歳になろうかというウィノウがノートを覗き込んでいる。

身内のひいき目は無いと思うが、すくすくと素直な子に育っていて喜ばしい事だ。


「これ、馬車の絵だよね?」

「馬車の乗り心地をよくできないかと思ってね」

「よくなるの!?」

「ん~・・・すぐには無理かな~」

「無理なの~。残念」


スプリングによるサスペンションを考えているのだが、現実的には板バネか・・・と思うのだが、金属の加工となるとハードルが高い。

木材程度なら日曜大工でなんとかなるんだが・・・

木材での板バネって手もあるにはあるが・・・やはり金属の板バネが理想だよな~。

それに、馬車クラスの日曜大工って、素人が手を出しちゃいけない分野だと思うし。

下手すると事故を起こしかねん。


「兄さん、これ・・・読めないよ」

「そうだな。

 これは秘密の暗号だ」

「暗号!?」


いや、単に日本語ってだけなんですがね。


「すごいや。兄さんが考えたの?」


さすがに、自分で考えたってのは無理があるよな。

文言にバリエーションがありすぎる。


「いやいや、どこで見たのか忘れたけど、

 古い文献に載ってたんだよ」

「それでもすごいや。

 本に載ってた暗号を使いこなしてるんだ」


眩しい・・・その羨望の眼差しが眩しすぎて、少し後ろめたい。


「兄さんの走り書き・・・

 絵は解るけど、こう・・・

 ちょこちょこ書いてあるのが読めなかったのは、

 暗号だったからなんだね」

「ああ、そうなるな」

「なんで、暗号なの?」

「ん~・・・と、言うか・・・

 ウィノウ・・・僕のメモ書きを見たのか?」


顔の高さを合わせ、ちょっとじと目で見つめる。


「う・・・ご、ごめんなさい」

「あまり、人の書いたモノを見るんじゃ無いぞ?

 その人の日記かも知れないし、

 秘密が書かれてるかも知れない」

「うん・・・その、ごめんなさい」

「ははっ。

 まぁ、いいさ。

 次からは気をつけるんだぞ。

 それに、僕のは暗号で書いてあるしな」


そう言いながら、ウィノウの頭を少し乱暴に撫でる。


「うわ、兄さん・・・やめてー」

「あっはっは」


ガチャリとドアを開け、ミレイが入ってくる。


「・・・ウィル、掃除終わった」

「はい。お疲れ様」

「ミレ姉~、お仕事終わり?」

「・・・うん」

「じゃぁ、ちょっと出かけますか」


ま、特に目的がある訳では無いのだが、日課の練習と散歩、弟との親睦を深めるために出かけることにする。

すっかり枯れ森では無くなってしまった枯れ森の川原で水遊びをし、涼を取ったり、果実で喉を潤したりした。

夏の日差しがすっかり傾き、薄暗くなってきたので、家路につくことにする。

人通りの少なくなり始めた通りを3人で歩く。

さすがに、少し遅くなりすぎたかと反省していると、路地裏の方から微かに悲鳴が聞こえた気がした。


「ミレイ、聞こえましたか?」

「・・・うん」

「兄さん、何かあったの?」

「うん、何でもないよ。

 ちょっと気にあることがあるから、

 兄さん、見てくるな。

 ミレイと一緒にいるんだよ?」

「・・・ボクも行った方がいい?」

「いえ。ウィノウと人通りの多い所にいてください」


ミレイが何かを考えるように逡巡する。


「・・・解った」

「じゃ、ちょっと見てきます」

「・・・気をつけて」

「大丈夫ですよ」


2人と別れ、路地裏に入っていく。

何か、前にもこんな事があったなと、そんなことを考えていたら・・・血の臭いがしてきた。

どこから臭いがしてきているのか、十字路で立ちすくんでいると、脇から体当たりされ、突き飛ばされる。


「うぐ」

「チッ」


この暑い中、目を隠すようなマスクをし、不審者ですと堂々と名乗っている男だった。

一瞬、お互いが見つめ合うが、不審者は逃げるようにダッシュして立ち去る。


「待て!」


路地奥から、不審者を呼び止める声が発せられる。

と言うか、この声・・・


「フェルミ!?」

「む、ウィルか。

 いいところに来た。

 大急ぎで、この女性を癒してくれ」


血の臭いは、その女性からか。

急いで立ち上がり、フェルミの元へ向かう。

女性は、肩から腹を抜けるように袈裟斬りにされていた。

フェルミが両手で傷口を押さえているが、出血が止まらない。

傷口の状態確認を悠長に行っている時間は無さそうだと判断する。


「ヒール」


まずは、その傷口を塞ぐ。


「リサーチ」


ヒールの後から状態確認をしたのでは遅いのだが、今回の場合は緊急なので仕方が無い。

刃物による負傷で、特に毒とか異物は無いようだ。

首筋に2カ所・・・吸血をされたかのような傷がある。

大した出血口では無いが、癒しておいた方が・・・いいのか悩む所だ。

取り敢えず、急場はしのげたはずなので、彼女には申し訳ないが、フェルミから話を聞くまで、首筋の傷は放置させて貰おう。


「で、どういうことです?」


フェルミの方を向き、問いただす。


「後で説明する。

 心力を寄越せ」

「は?」

「今から奴を追いかける」

「もう逃げ切ってますよ?」

「問題無い。

 今なら臭いで追える」


・・・犬か。


「ただ、全力で追うには心力が心許ない」

「そういう事ですか」


リサーチとトランスファーを行い、補充を行っている間にフェルミが簡単に状況説明をする。


「ブラウサラ・・・ブロブソーブの事件があっただろう。

 それを調べていて遭遇した。

 あのニセモノがその犯人だ」

「なるほど。

 ・・・心力の充填完了です」

「うむ・・・助かる」


そう言うや否や、左右の壁を蹴って・・・忍者のごとく飛び出していく。

心力を使って身体能力をブーストすると、あんな事が出来るのか。

ちょっと羨ましいな。


確かに、ここ最近、ブロブソーブによる事件の噂が散見された。

ニュースも新聞もないので、積極的に噂を集めていかないと、世の中の事件に疎くなる。

一時期、積極的に集めていたのだが、ここ最近、少々サボりがちで本腰を入れていなかった。

ブロブソーブに対しての優位性という油断もあったのだろう。

気が緩んでいたと、反省する次第。


さて、それはそれとして・・・残された方は方で問題だ。

被害者の彼女をどうするのか・・・

傷の所為もあって気絶している状態なのは、まぁ、いいのだが・・・

犯人がニセモノとなると、話は複雑だ。

状況がはっきりするまで家に運び込むのがいい気がする。

通報して終わりってのも手なのだが・・・巡視をいまいち信用しきることが出来ない。

それもあり、自宅に運びたいところだが、大人の女性を運ぶには非力だ。

こういう時にこそ、身体能力のブーストが可能なフェルミがいると楽なのだが・・・

ミレイに手伝って貰ったところで、子供2人が大人の女性を運んでいたら・・・不審だ。

普通なら、どうしたんだと声を掛ける。

路地裏を進むってのも、3人並んで歩くなんてのは無理だ。


フェルミが戻るのを待つか?

・・・って戻るのか?

どこに集合するか決めていなかったな。

失敗した。


取り敢えず・・・吸血の傷もどきを治すかが悩ましい。

いつまでも出血させておくわけにもいかないし・・・中途半端に治して傷が残るってのも・・・女性だしなぁ。

う~む・・・

よし。

がっちり治してしまおう。


「ヒール」


取り敢えず、これでこの女性は問題無いだろう。

・・・容態的にはだが。

結局、何一つ解決していない。

むしろ、証拠が1個減ってまずい気がする。


「・・・ウィル?」

「ミレイ」

「兄さん、どうしたの?」

「ウィノウまで・・・

 待っててくれって言ったのに」

「・・・でも、遅くて心配だった、から」

「ぁ、いや・・・それはすみませんでした」


まぁ、待っててくれと言いつつ、今から呼びに行くかと悩んでいたので助かったと言えば助かった。


「正直なところ、ミレイが来てくれて助かりました。

 ウィノウと、この女性を見ていてくれますか」

「・・・解った」

「危険は無いと思いますが、

 何かあったら容赦なく攻撃してください」

「・・・ウィルはどうするの?」

「フェルミを追いかけます。

 少し周囲を見てきて、

 見付かりそうになかったら戻ります」

「・・・うん。気をつけて」

「じゃ、2人をお願いします」

「兄さん、気をつけて」

「ああ、ありがとう」


そう言いながら、ウィノウの頭を一撫でし、その場を離れる。

とは言え、どこに行ったかなんてアテがある訳でも無い。

襲撃者が逃走する際、どうするか。

目撃者の増える危険を冒して、人通りの多い所へ行くだろうか?

目撃されることを恐れて、裏通りを行くだろうか?

人通りがあれば、人を盾に逃げることも出来るだろう。

が、薄暗くなり、人通りが減ってきている時間帯だ。

中途半端に人通りがある程度なら、裏通りの方がいいんじゃないだろうか?

暗くなってくれば、見付かりにくくなるし。

まぁ、色々考えたところで、結局の所、賭けでしか無いのだが・・・

裏通りの方に賭けよう。


細い十字路まで出てきて、耳を澄ませる。

左手側・・・人通りのある側からは喧噪が聞こえてくる。

右手、前方は大した明かりも無く、すっかり暗くなり音も聞こえてこない。

さて・・・困った。

取り敢えず、人通りの少ない方・・・裏通りへ逃げると想定したが、右か前か・・・

後ろから追いかけられることを想定すれば、まっすぐ逃げるってのは無いか。

右に進もう。


少し進んだところでT字路に突き当たる。

さて・・・右か左か・・・

追っ手を撒くには右だろうか?

逃走中の余裕が無い時に、そこまで考えるだろうか?

う~む・・・手がかりが無いからなぁ。

取り敢えず、左を進んで、何も無ければ戻ろう。

ってことで、左に進む。


少し進むと、奥から何か大きなモノを引きずる・・・時々、周囲にぶつかっている・・・音が聞こえてきた。

思わず逃げるべく身構えるが、暗がりの中から、赤い目が光って見えた。


「おお、ウィルか。これで、なんとか戻れたな」


フェルミが黒い物体・・・まぁ、犯人なんだろうが・・・を引きずってきていた。

ってことは、ぶつかっていた音は、犯人が周囲にぶつかっていた音なのか・・・南無。


次回「吸血騒ぎの日のフェルミ(友人)」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

そんな日々、→そんな、(指摘感謝)

ここの最近→ここ最近(指摘感謝)


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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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