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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
76/90

呼び出された日のフェルミ(留学生)

男女の話し声が聞こえる。

頭が揺れるというか、回るような感じがして気持ちが悪い。

なんでこんなにも気持ちが悪いのか・・・

そもそも何をしていたのか・・・

自分が何をしていたのかを思い出そうと振り返る。


そう・・・確か、ウィル・ランカスターを呼び出して・・・

ハインヒル義兄さんの事を問いただしていたハズ・・・

何か知っていそうな素振りを見せたので、更に問いただそうと・・・どうしたっけ?

そうそう・・・暴れるから血を吸って大人しくさせようとして・・・

何か呪文を使われて・・・


「うぅっ」


揺れるような感じがする頭の気持ち悪さに、思わず声が出る。

うっすらと目を開けると、ウィルが目の前に座っていた。

その周囲には、彼の仲間も揃っていた。

彼らの8つの目が、私を見つめる。

身をよじると、両手の親指に痛みが走った。

どうやら、後ろ手にされて、親指を縛られているらしい。


そうか・・・私は・・・彼に負けたのか。


「ご気分はいかがですか?」

「頭が揺れるような感じがして、気持ち悪い」

「まぁ、こちらも死にたくは無いので、

 それくらいは勘弁して頂きたいですね」

「同じように、ハインヒル義兄さんも殺したのか」

「同じ手法で倒したことは否定しませんがね。

 殺害に関しては否定させて頂きます」

「なに?」

「気絶だけで済んでるじゃないですか」

「それは貴様が手加減したからだろう!」


両手は縛られてるとは言え、立ち上がろうと力を込めた。

ウィルが手を伸ばしてきたかと思うと、私の額を指で押し返す。


「ふわっ」


我ながら、間抜けな声だとは思うが、指で押し返され、立ち上がれずストンと座らされてしまった。


「こちらとしても殺されたくは無いですからね。

 あの時は必死だったんですよ」

「それなのに殺してないと言うのか」

「気絶していたので、巡視に引き渡しただけです」

「巡視が殺した・・・と」

「いえ・・・その後、教会に引き渡されたと聞いています」

「教会・・・アシュタリウス聖教会か」

「そうです」


話の流れが一気に変わってしまい、どうにも判断が付かない。

アシュタリウス聖教会がかたきだと言うのか。

いや、そもそも・・・その言葉を素直に信じていいのか?

私を騙そうとしているのでは無いのか?

だめだ。

どうにも解らない。

まずは、この場を逃げ切り、レイナンセと相談しなくては・・・


「それで・・・

 ウィル、この娘、どうするの?」


それまで、静観していた男子がしゃべり出す。

どうするか・・・か。

私も義兄さんのように巡視に突き出され、ゆくゆくは教会に連れて行かれるのか。

何もせず、殺されてたまるものか。

必ずや一牙報いて・・・


「実は悩んでましてね」

「は?」


あまりにも想定外の言葉に、思わず間抜けに反応してしまった。


「何を悩んでるのよ。

 彼女、ブロブソーブなんでしょ?」

「・・・ウィルを襲った」


いつも一緒にいる・・・ラル、ミレイと呼ばれている娘たちが当たり前の反応を示す。


「確かに彼女はブロブソーブですが、

 僕には脅威では無い」

「なんだと!

 馬鹿にするのかッ」


瞬間、頭にかっと血が上り、勢い勇んで立ち上がろうとした。

ウィルの腕が伸びてきたかと思うと、額をパシッとはじく。


「ぁぅ」


またも格好悪く座らされてしまう。


「どうするのか、判断するためにも、

 いくつか質問に答えて貰いますよ」

「嫌だと言ったらどうするんだ」

「はぁぁぁ。

 そこは素直に従ってくれると楽なんですが?」

「ふ、フン。

 好きにするがいい。

 答えないかも知れないがな」


あまりにも簡単に・・・いい様にやられているのだ。

少しくらい反抗したくもなる。


「じゃぁ、まずは基本的なことから・・・

 フェルミさんは、ブロブソーブってことでいいんですよね?」

「ああ、お前たちがブロブソーブと呼ぶ種族だ」

「正確には違うと?」

「他の種族は、ブラウサラと呼ぶ」

「じゃぁ、ブラウサラと呼んだ方がいいですかね?」

「好きにしろ」


こいつら・・・いや、こいつは私をどうする気なんだ?

知らず知らずのうちに目付きが厳しくなり、ウィルを睨み付けるように見ていた。


「あまり、回りくどいことも苦手なので、

 サクッと聞きますが・・・」


いきなり核心か。

一体何を聞くのか・・・自分の行く末を決めるかも知れない質問という緊張から、ごくりと喉が鳴る。


「あなた方に吸血は必要なんですか?」

「我らに死ねと言うのか?

 ・・・いや、お前らは、そう言うのだろうな」

「ああ、いえ・・・そういう事では無くてですね」

「お前は何を言いたいんだ?

 お前らだって食い物を食べるだろう?

 飲み物を飲むだろう?」

「フェルミさんたちは、吸血さえしていれば、

 食事は要らないと?」

「馬鹿な事を・・・

 人間と違って、飲食の他に吸血が必要なだけだ」


こいつは何を聞きたいんだ?

何を知りたい?


「質問が悪かったですね。

 そうですね・・・

 あなた方の吸血という行為・・・

 血が目的ですか?

 心力が目的ですか?」


その質問を聞いた途端、立ち上がろうとし、三度、ウィルに額を押さえつけられ、立ち上がることに失敗する。

この男・・・我らが一族の弱み・・・弱点に気がついている!?


「ブロブソーブ・・・ブラウサラでしたね。

 あなた方は、何らかの理由・・・

 例えば、日常生活において心力の消費が激しいか、回復が遅い・・・

 まぁ、細かい理由はともかく、

 心力が不足している」


完全に気がついている。

舌が喉に張り付くのでは無いかというくらい、喉が渇いている気がする。

先ほど、こいつの血を吸ったばかりだというのにだ・・・

つばを飲み込もうとしたが、うまく飲み込めず、こくりとだけ音が鳴った。


「そ、それで?」

「吸血が必要なのかな・・・と」

「言っている意味が解らないのだが」

「心力を得る手段があるのなら、

 血を吸う必要は無いのではないか?

 と聞いているんですよ」


何を言っているんだ。

心力を得るために吸血しているのだ。

何が目的で、そんなことを問う?


「フェルミさんも・・・

 定期的に吸血が必要な訳ですよね」

「あぁ・・・」

「誰か人を襲って吸血する・・・と」

「そうなるな・・・」

「ああ、そうか。

 ウルマンは吸血されたんですね。

 口封じも兼ねて」

「えぇ!?」

「ウルマンって、一緒に来た遊学生だよね?」

「・・・そう」


にわかに連中が騒ぎ立てる。

都合の悪い事実に、口をつぐんでしまう。


「殺したんですか?」

「殺してはいない」


私の語気に、ウィルが少し驚いている。

殺してはいない。

殺人ともなると、騒ぎになりやすい。

騒ぎになるのは我々としても困るのだ。

もちろん、それだけが理由では無い。

理由では無いが・・・言葉にしようとすると、そういう理由付けが一番楽だ。


「まぁ・・・ウルマンの話は置いておきましょう」

「ええっ!?

 置いといちゃうの?」

「そ、そうだよ。

 急いで巡視に知らせないと!」


ラルと・・・確か、チノと言ったか。

2人がある意味、当たり前の反応をする。


「殺してないんでしょ?」

「殺してはいない」


ウィルが、再度、確認をする。


「ま、彼女の言葉を信じれば、生きているそうです」

「それで終わり?」

「正直なところ、身内でも無い限り、必死になる理由がありません。

 目の前でケガを・・・っていうなら話は別ですが」

「えぇ!?

 それは、ちょっと酷くない?」

「目覚めが悪いのも事実ですし・・・

 あとで解放するなり、国に帰すなりしてもらいますか。

 そうしてもらえますか?」

「あぁ・・・解った」


身内で無ければ、どうでもいいと言う・・・

じゃぁ、身内だったら・・・


「さて、話を戻して、質問に戻りますが・・・

 吸血はどのくらいの頻度で行うんですか?」

「何故そんなことを聞く」

「興味と・・・実験ですかね」

「実験だと?」

「そうですね。

 誤解を与える言い方ですね。

 いや、まぁ、実験をするのは間違いないのですが」


この男は、私で実験・・・我らが一族の弱点を知り尽くそうと言うのか。

そんなことをされるくらいなら、自らの命を絶ってでも、秘密を守り通さなければ。

自分の不甲斐なさ、これからの境遇、一族の未来・・・そんな物が渦巻くようにして私から落ち着きを奪っていく。

ギリと奥歯を噛みしめる音が響く。


「う~ん・・・何からどう話した物か・・・

 そうですね・・・

 こちらには、フェルミさんに心力を与える手段があります」


ウィルが、両手を広げるように・・・おどけるように、そんなことを言う。

身構えていた・・・と言うか、心構えをしていた頭では理解が追いつかなかった。


「ウィル、それはそれで省きすぎだよ」

「ふむ・・・それもそうですね」

「というか、心力を分けるんだ」

「心力が満ち足りていれば、吸血の必要が無さそうですしね」

「ああ、なるほど。

 そうすれば吸血の被害が出ないって訳だ」


彼らが勝手に話し合い、勝手に完結していく。

1人、私だけが彼らの輪には入れず・・・

いや、それは別にいい。

今、何と言った。

・・・心力を分ける?

・・・吸血の必要が無い?


「お前たちは、何を言っているんだ!」


訳の解らないままに叫んでいた。

彼ら・・・いや、こいつらはおかしい。

8つの目が・・・冷めたように見つめてくる。

いや、実際はそんなことは無いのかも知れないが、私の目には異質に映る彼らの目が、無性に怖かった。


「順番に説明しますよ。

 まず、僕には心力を分け与える手段があります」

「そ、そんなモノ、聞いたことも無い!」


立ち上がろうとして・・・もう何度目だろうか・・・ウィルに額を小突かれ邪魔される。


「フェルミさんが気絶したのは、心力が溢れたからです」

「溢れ・・・た?」

「簡単に言えば、喰いすぎですね。

 お腹がいっぱいになっている所に、

 無理矢理、食べ物を詰め込んだと思ってください」


半ば、呆然としながら、ウィルの説明を聞いていた。


「推測が正しければ・・・

 心力が事足りているなら、

 吸血の必要は無いはずです。

 まぁ、そればっかりは確認してみなければ、解りませんが」

「わ、私が心力を貰う・・・その対価は何だ。

 私に心力を与えることで、お前たちは何を得る?」

「そうね。

 それは私も気になってたかな~」


どうにも感じていた違和感の正体に辿り着く。

彼らの中で意見の統一がなされていないのだ。

むしろ、ウィル1人による意見であり、提案であり、益なのか。

仲間ですら初耳だと言う・・・

何ともいい知れない不安が、私の心の奥底をしっかと握りしてめいる感じがし、背中に怖気が走った。


「損得ってことで言えば、とんとんってとこですかね」

「とんとん?」

「先ほど、チノが言ったように、

 誰かが吸血の被害に遭う可能性が無くなる。

 誰かと言わず、身内が被害に遭う可能性が無くなる。

 それだけでも十二分なメリット・・・得になります」

「たったソレだけのことで・・・」

「そう。

 たったのソレだけです。

 そして、心力を分け与えるということは、

 ほとんど損にならない」

「損にならない?

 ど、どういうことだ」

「心力を分け与えても、大抵は一晩で回復するからです」

「しかし、今まで吸血してきた人間は」

「それは、吸血をしたからです」

「なに?」

「心力は一晩で回復しても、

 血はそうはいきません」


ウィルは、極々当たり前のことを述べているに過ぎなかった。

当たり前なのだが、その当たり前のことが霧となって目の前から消え去っていた。

ウィルが言うところの、心力のみを分け与える手段が存在しているのなら・・・

我々の一族が人間を捕らえ、吸血をしてきた歴史は何だったのか・・・

それにより、人間から敵視され、こちらも人間を餌と軽んじる。

殺し、殺され・・・この敵対してきた今までの生き方は何だったのか。


呆然と力なくうなだれ、何も考えることが出来なくなっていた。


「それで・・・

 それで、私はどうなる?」

「どうなる・・・とは?」

「これから先の私の処遇だ」

「ああ、なるほど。

 心配は要りませんよ。

 人間を襲わないことを誓っていただければ、解放しましょう。

 心力が必要になったら言ってください」

「えぇっ!?」

「巡視に知らせるんじゃないの!?」

「今のところは、そういうつもりはありませんが」

「だって・・・ウルマンくんとか・・・」

「解放を約束してくれましたし。

 ねぇ?」

「ああ、それは約束したな」

「他にも被害者がいるかも知れないのに・・・」

「まぁ、それはそうなんですがね。

 取り敢えず、今後、襲わないことを誓ってもらえば、

 被害者が増えることは無くなるわけですし」

「そうか・・・

 いいだろう。

 誓おう。

 お前の勝ちだ」

「ふむ・・・勝ち負けとかはどうでもいいんですがね」


ウィルが立ち上がり後ろに回り込む。

親指の拘束を解いてくれているようだ。


「あれ?ぐ・・・チノ、チノ。

 ちょっとお願いします」

「え~。もう、格好付かないなぁ」

「いや、格好とかいいので、お願いしますよ」


そんな一幕もあったが、拘束が解かれ自由が戻る。

手首を振りながら立ち上がる。


「それで・・・心力は毎日必要ですか?」

「いや、そんなことは無い。

 生活の仕方にもよるが、

 大人しくしていれば、年に1、2回だ」

「そんなに少なくていいんですか?」

「大人しくしていれば・・・だ。

 授業で魔法を使うこともあるだろうから、

 もう少し多いとは思う」

「なるほど」


その後も、いくつか質問を受け・・・それから解散となった。

レイナンセにどう話したモノか、混乱の続いた頭では判断が付かなかった・・・


次回「人身御供の日」


Twitter @nekomihonpo


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◆用語 ●幼少期人物一覧
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 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



― 新着の感想 ―
[気になる点] ~「目覚めが悪いのも事実ですし・・・ 目覚め→寝覚め と思われます。
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