表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
74/90

留学生の日のフェルミ(留学生)

授業が終わり、街を案内してくれるという人間たちの誘いを断って、図書室に出向く。

別に、読書をしたいわけでは無かったのだが、思っていた以上に大きな図書室なので、興味が出てくる。


図書室に誰かが居る気配は無い。


出入口はここしか無いようだし、約束の相手が来れば解ると思うので、書架の間を見て回ることにする。

本の背中を眺めて、時に立ち止まり、時にその中身をパラパラとめくる。

やはり、家の書架とは違い、人間の手による様々な物語が置いてある。

それは作られた物語であったり、言い伝えと思われる物語であったり・・・

また、別の棚には百科の書、千科の書が並ぶ。

そこに並ぶは、人間の英知・・・


ふと、空気の流れ・・・臭いが鼻腔をくすぐった気がしたので入口へ向かう。


入口付近の受付に、1人の男が背を向けて何か作業をしている。

この男が、私の待ち人なのだろうか?

心力を額に集中するようにして・・・声を発する。


『お前が私の協力者か?』


男がビックリしたようにして、こちらへと振り返る。


『もう、おいででしたか。

 ええ、私が協力者です』


その返事を待って集中を解く。

この話し方は、秘密の会話にはもってこいなのだが、心力を消費し続けるのが難点だ。


「心力をあまり消費したくない。

 普通の会話でも構わないか?」

「ええ、構いませんよ。

 それでは、改めて・・・

 図書室の管理を任されています。

 レイナンセ・クナピアと申します。

 あまり表だっては協力できる立場にありませんが、

 出来うる限り、お嬢様の御力になりたいと思っております」


レイナンセと名乗った若者・・・当然、私よりは年上なのだが・・・が、うやうやしくお辞儀をする。


「名乗るまでもないとは思うが、

 フェルミ・トラヴィスだ。

 遊学生として、この学院にやってきた」


はい。とレイナンセがお辞儀をする。


「なんだかんだと学院も広い。

 協力者はお主だけか?」

「はい。

 今は、私だけとなっております」

「そうか・・・

 と、なると、あまり無茶も出来ぬな」

「そうですね・・・

 ご遠慮頂けると助かります。

 私としましても、

 やっとココでの生活が落ち着いてまいりましたので」


自由に手足となって動いてくれる協力者がいてくれると、何かと助かるのだが・・・

1人いるだけでもマシと考え、贅沢は言うまい。


「それにしても・・・

 よく怪しまれずに遊学生になれましたね」

「ああ、それは、向こうの協力者がよろしくやってくれてな」

「確か遊学生は2人とのことですが・・・

 お嬢様と一緒に来られた方には怪しまれなかったので?」

「ファーンヘルム学院も大きな学院だからな。

 多少いぶかしんではいるかも知れないが、

 付き合いが無くても不思議の無い立場を用意してもらった」

「なるほど・・・」


今のところ、怪しまれている様子は無い・・・と思う。

確認しようにも、直接聞くわけにもいかないしな・・・

今しばらく、観察するしか無いだろう。


「それで、フェルミお嬢様は、

 どういったいきさつで、こんな所まで?」

「うむ・・・

 ハインヒル義兄さんが殺された件で、

 やっと犯人の足取りが解ったと聞いてな」

「ハインヒル様ですか・・・」


レイナンセが眉をしかめる。

まぁ、気持ちは解らないでも無い。

一族の中でも、血の気の多さと手の付けられ無さで、煙たがれていたのだから。


「そんな顔をするな・・・

 仲間・・・それも義兄が殺されたのだ。

 一矢報いなければな」

「それはもちろんです」

「うむ。なんでも、その犯人・・・

 もしくはその関係者が、この学院にいるらしくてな」

「または関係者ですか・・・

 なんとも微妙な情報ですね」

「事件からの年数もあるしな。

 事件が事件だけに、

 はっきりとした情報も出てこない有様だ」


とは言え、それでもここまで来たのだ。


知らず知らずに、こぶしを握りしめていた。

はっと気づき、手を緩める。

昔は優しかったのだが・・・いつからか一族でも手の付けられない暴れ者になってしまった。

最後に会ったころは、すっかり私とは考えが合わなくなってしまっていたが・・・

そんな優しかった義兄が殺されたという事実は、どこかしら重しになっているようだ。


「それで、その人物の手がかりとは・・・」


レイナンセからツバを飲み込む音が聞こえた。

緊張しているのか、声が強張っている。


「うむ・・・この学院に、ランカスター家の者がいるであろう?」

「ランカスター家ですか・・・

 確かに、いるにはいますが・・・」


その反応に思わず眉をひそめる。

意外ですと言わんばかりの顔をしている。


「どうした?

 その者がかたきかも知れないのだ。

 知っていることを話せ」

「ええ・・・まぁ、知ってはいますが・・・

 と、言いますか・・・

 フェルミお嬢様と同じ級友のはずです」

「なに?」

「ウィル・ランカスター。

 この図書室にちょくちょく顔を出す少年です」

「つまり・・・ハインヒル義兄さんは、

 未熟な呪印魔法使いに遅れを取ったと?」

「いえ・・・その・・・

 彼は、神聖魔法の使い手です」


レイナンセが申し訳なさそうに・・・小声で訂正してくる。

神聖魔法の使い手・・・と。


「神聖魔法・・・

 間違いないのだな?」

「ええ・・・呪印魔法の本をよく見てはいますが、

 呪印魔法の素質は持っていないという話だったかと」


どういうことだ・・・

この情報に間違いがあったと言うことか?

いや、直接の犯人では無く、関係者という事か。


「その者の関係する者に強い者はいるのか?」

「ええ、それは間違いなく。

 少なくとも、お嬢様の学年では、彼らが一番でしょう。

 なんせ、対抗戦で優勝しましたから」

「なるほど・・・

 対抗戦とやらの程は知らんが、

 強いのだな」

「ええ、それは間違いなく」


まずは、関係者と思しき、その者を締め上げ、事情を聞く必要がありそうだ。


「それで、犯人を突き止めて・・・

 どうされます?

 やはり、殺しますか?」

「いや・・・

 おじいさまには、甘いと怒られるかも知れないが、

 殺すことには抵抗を覚える。

 一生、食事にでも付き合って貰うか・・・」

「なるほど。

 それは、ある意味、

 殺すよりも、ずっと残酷かも知れませんな」


やはり甘いのかも知れないが、殺し、殺されを繰り返していては先に進めない。

私は、一族が安心して暮らせる世界が欲しいのだ。


食事と言えば・・・心配事の一つなので、相談することにする。


「時に・・・レイナンセ、食事はどうしているのだ?」

「食事ですか・・・

 あまり派手なことをするわけにも行きませんからね。

 近隣の街に出向いて、おこなっておりますが」

「ふむ・・・そうか・・・」


近隣の街へ出向くとなると、気楽に食事・・・と言うわけにはいかんな。

レイナンセと同じ街で食事というのも避けた方がいいだろうか。

時期と場所を避けるとしても、頻度が多くなっては我々にとってもよくない。


「食事に関しては、しっかり相談した方がいいと思うのだが」

「ええ、まぁ、それはそうなのですが・・・

 来て早々に食事の心配とは・・・

 食事時が近いのですか?」

「う、うむ。

 実は、今日、いささか派手に魔法を行使してな・・・

 少し心許なくなっているのだ」

「なんと!

 なんでまた・・・そんな事を」

「ファーンヘルム流の魔法を見せて欲しいと言われてな・・・

 少し見栄えのする魔法の方が、

 なめられることも無く、

 一目置かれるのでは無いかと思ってな・・・」


今にして思えば、もっと大人しめの魔法でも良かった気がする。

ただ、あの場では、なめられてはいけないとか、同行者に怪しまれてはいけないとか・・・そういう思いが頭の中を渦巻いていたのだ。


「なるほど・・・

 事情は解りました。

 で、実際問題として、

 あとどれくらい持ちそうですか?」

「うむ・・・さすがに今日明日という事は無いが、

 2つの季節(150日程度)・・・は、さすがに無理だな。

 季節をまたぐくらいには食事が必要になると思う」

「なるほど・・・

 今日のように、授業で魔法を行使することを考えると、

 あまり猶予は無いように思われますね」

「そ、そうだな」


確かに、そうなっては2つの季節どころか、季節をまたぐことすら怪しくなってくる。

思った以上に、早急に食事をとる必要がありそうだ。


「場合によっては、この街での食事も致し方ないですね」

「しかし、それでは、要らぬ波風が立ってしまうぞ」

「それはそうなのですが、

 フェルミお嬢様が、動けなくなるのはもっとまずい・・・

 いや・・・そうですね。

 お嬢様の同行者・・・

 その子に犠牲になって貰うのも手かも知れません」

「なんだと」


その考えを聞いて、眉をひそめてしまう。


「さすがにまずいのでは無いか?」

「確かに、あまり良い相手ではないのですが、

 考えようによっては、

 お嬢様の事を知る人間に退場して貰えるのです。

 そうなれば、この地でお嬢様の事を知る人間は居なくなります。

 危険性はありますが、

 その危険を乗り切ってしまえば、安全とも言えます」

「ふむ・・・」


確かに、ウルマン・ヒオセルが居なくなれば、安心できる。

今のままでは、いつ何時、ボロを出すか解らない。

ボロを出しても気付かれる心配が無いと言うのは魅力的だった。


「しかし、殺す気は無いぞ」

「本当は、ひと思いにやってしまう方が、

 何かと楽ではあるのですが・・・

 フェルミお嬢様の、

 そういった所は尊重したいと思います」

「とは言え、彼と距離を置けるのがありがたいのも事実だ」

「そうですね・・・

 慣れぬ土地に来て、体調を崩し、

 療養が必要・・・というアタリでいかがでしょう?」

「話を聞く限りでは、悪くは無いが・・・

 そんなにうまく行くのか?」

「そこは大丈夫でしょう。

 こちらに来て、日も浅い。

 親しい仲がいるとも思えません」


知り合いが居ないからこそ、好都合と言うことか。


「しかし、見舞いに行きたいという連中は居るのでは無いか?」

「療養は、少し離れた療養地にておこなっている・・・

 と言うことに致しましょう」

「あまり嘘を重ねると、ばれるぞ」

「そこはお任せください。

 こちらを住み処とし、

 それなりの年数を過ごしておりますゆえ」

「うむ・・・そうだな。

 少し、心配しすぎたようだ。

 お主に任せることにしよう」


それから、いくつかの相談事をして、割り当てられている寮に戻った。

来て早々、協力者であるレイナンセに迷惑を掛けてしまっているが、大いに助かっているのも事実だ。


その日、夜分遅くに私の同行者、ウルマン・ヒオセルが体調を崩し、療養することが決定した。


次回「呼び出された日」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

願える→頂ける(指摘感謝)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ