訪問の日のラルタイア(同級生)
ウィルに誘われるがままに、アシュタオリル先生の部屋を訪ねた。
もう、魔法使いの研究所なんて、こう・・・薄暗くて小汚い感じだと思ってたのに、日の光が差し込み、気持ちのいい部屋だったのにびっくり。
・・・研究材料でごちゃっとしてたのが減点。
話を聞いた限り、みんなと一緒にいることが出来る。
ミレイは呪印魔法だから問題無いとして、神聖魔法のウィルや、弓術のチノとも一緒で構わないと言う。
こんな話、すごく良案件に思えるのだけれど・・・
ウィルはみんなと相談すると言って答えを保留した。
甘い、甘いよ。
良案件を他に取られちゃうよ?
ウィルが言うには、みんなの将来に関わることなので、じっくり考えた方がいいって事だった。
まぁ、考えた方がいいのは間違いないんだけど・・・良案件だよ?
「それで、みんなは将来の夢というか・・・
将来、なりたい事や、やりたい事はありますか?」
ウィルがみんなを見回しながら問いかける。
私は・・・何になりたいんだろう・・・
「いきなりは、やっぱり難しいよ。
私は家業の商売を引き継いでもいいんだけど・・・
それって面白くないじゃない?」
「面白く・・・ですか。
商売にも商売なりの楽しさがあると思いますが」
「う~ん・・・そういうんじゃないんだよね~。
親のお店をそのまま引き継ぐんじゃなくてさ。
私の力でお店を持ちたい訳よ」
「ラルは商売を始めたいってことですか?」
「う~ん・・・どうなんだろうね。
宝石商とかやってみたい感じはするけど」
「なるほど・・・
ラルに似合うと言えば似合いそうですね」
「そうかな?
ま、結局さ、私が知ってる仕事ってのは、
親の仕事な訳で・・・
そうなると商売なのよね~」
「なるほど」
「私のことはいいじゃない。
最悪、親の仕事を引き継ぐというか・・・
引き継いでくれる人をお婿さんに貰えばいいんだし。
それより、ミレイ・・・」
ミレイの顔を見て考える。
ミレイの将来の夢なんて・・・ウィルに付いていくってことで終わりそうな気がしてきた。
うん。ミレイの事だから、きっとウィル中心にウィルに振り回される・・・というかウィルべったりってのが本人にとっても幸せなんだろう。
「・・・は、いいや。
なんとなく答えが解ったから」
「・・・そう?」
「いや、でもミレイの意見も聞いておかないと」
「聞くの?」
「ボクも何となく予想出来た・・・」
「ほら、チノだって解ってるんだし。
いいんじゃない?」
「そうはいきません。
ミレイは将来、どうしたいですか?」
みんなして、ミレイの方を注目する。
「・・・ボクの将来。
ボクの夢・・・
・・・ボクは・・・ボクは、ウィルの見る世界が見てみたい」
「僕の見る世界ですか・・・」
「・・・うん。きっと、ボクには驚きが一杯の世界になる」
「そうですか・・・ねぇ?」
「・・・うん。きっと素敵な世界」
「いまいち、想像が付きませんが・・・」
「・・・ううん。きっときっと素敵な世界だよ」
ミレイ、すっごく、かわいい笑顔してる。
「もう、ミレイったら、かわいいんだから」
思わず、ぎゅっと抱きついてみたり。
「・・・ぁぅ。ラル・・・邪魔」
「邪魔・・・邪魔って言いましたか。
邪魔って言いましたよ、この子。
よよよよよ」
「あ~・・・うん。ラルも落ち着こうね」
チノに注意されるなんて・・・ちょっと遊びすぎたかしら。
「こほん。
それで、それを受けて、ウィルの夢は?」
「まぁ、人に聞いておいてなんですが・・・
やはり難しいですよね」
「ちょっと、それは酷いんじゃない?」
「ええ、まぁ、酷いのは解ってるんですがね。
将来、自分が何をしたいのか?
何が出来るのか?
自分に出来ること・・・ヒールくらいなんですよねぇ」
「あんだけヒール出来てれば十分だと思うけど」
「まぁ、そのヒールを活かすとなると、
ミレイには、ああ言われましたが、
町中でひっそりと治癒院でも営むくらいかなぁ・・・と」
「急に地味になったわね」
「現実はそんなモンですよ」
「そういうモンかしら?」
「がっかりでしょ?」
ウィルがミレイの方を向いておどけてみせる。
「・・・ううん。それでも、きっと変化があって、素敵なんだと思う」
「いや・・・現実ってつまらないモンですって」
この2人の温度差は何なんだろうね?
2人は、まだじゃれ合っていたけれど・・・最後はチノだ。
チノはどうする気なんだろう?
昔は、それこそコウロイドだってことで、いじめられてたりもしたけれど・・・
ウィルと知り合って・・・特訓をするようになって・・・随分変わったと思う。
昔のチノなら、私が守らなきゃって思ったんだけど・・・今のチノは私の守りなんか必要としていない。
昔は、チノのことなら何でも解っていた気がしたのだけれど・・・
最近はよく解らない・・・
「チノはどうするの?」
「ボクは・・・父さんの仕事を継ごうと思ってたんだ。
ウィルのお陰で弓の自信も付いたし、
狩人としてやっていけるんじゃないかって・・・
鉱石掘りとかしていれば、
売りに行く時に、
ラルとの接点もありそうだし」
そう・・・予想していなかった訳じゃ無い。
コウロイドってだけで、大きな街では生きて行きにくいのかな・・・とは思っていた。
思っていたけど・・・
やはり森に引き籠もってしまうのは寂しかった。
「そう思ってたんだけど・・・」
「え?」
思っていた・・・?
過去形で、否定の言葉・・・
それは引き籠もるという事への否定の言葉。
「ミレイの、ウィルの見る世界が見たいっていう夢を聞いてさ・・・
ボクも見てみたい。
ミレイが言うように、きっと驚きに溢れてる」
「いやいや。
さっきの僕の未来予想を聞いてましたよね?
平々凡々に町中で治癒院あたりが行き着く先ですよ?
そんな驚きの溢れた世界なんかじゃありませんって」
ずるい、ずるい、ずるい・・・
ううん・・・ずるいってのは違う。
違うんだけど・・・
「ずるい!」
「え?」
「ラ、ラル?」
結局、ウィルがチノを揺り動かした。
ううん、ウィルが・・・ってのは違うんだ。
チノやミレイの前に立って、世界はこんなにも素敵なんだと・・・
本人は、そんなつもりが無かったんだとしても、手を差し伸べて引っ張り出したんだ。
「ずるい!
チノやミレイがウィルと一緒に行くのに、
私だけ別の道なんて・・・
そんなの寂しすぎる。
2人がウィルに付いていくのなら、
私も一緒に行く!」
「いや、ラルも落ち着きましょうよ。
平々凡々な詰まらない毎日ですって」
「だってずるいじゃない」
「あ~・・・この話し合い、失敗ですかね」
ウィルが額を押さえ、考え込んでいる。
でも、もう手遅れだと思う。
みんなウィルに着いていく気満々だ。
「ちょっと、待ってよ。
私たちがウィルに付いていくのって、
何が問題なの?」
「え?・・・それは皆さんの可能性を潰しているわけですから」
「そんなことない。
ううん。
付いていって、その先でやりたいことが見付かるかも知れない。
今、ここで、先々を決めてしまうより、
よっぽど可能性に溢れてる」
うん・・・勢いで言ってみたけれど、口から言葉にして出してみたら、実際、そうなんじゃないかって・・・そう思えてきた。
「いや、しかしですね・・・」
「それとも、私たちが一緒じゃ迷惑?
ウィルの可能性を潰しちゃう?」
「・・・ボクたち、邪魔?」
「いや・・・邪魔ってことはありませんが」
「じゃぁ、取り敢えずってことでいいじゃない。
やりたいことが見付かったら、独り立ちするって」
「いや・・・ぬぐ・・・」
よし、勢いで押し切った感はするけれど、やりきった。
よくやった、私。
あれ?
なんか、すっかりウィルに付いていくことで話がまとまっちゃったけど・・・良かったのかな?
「しかし、やりたいことをやった方が・・・」
「もう、卵が先かって話になってる。
私たちは、そのやりたいことを見つけるためにウィルに付いていくの。
それが、今の私たちのやりたいことなの」
まだ、なんか悩んでる。
そういう所、煮え切らないよね。
「はぁぁ・・・解りました。
取り敢えず、現時点では明確にやりたいことが見付からない・・・
と言うことで納得しておきましょう」
「やった~」
「・・・うん」
「微妙に回りくどい」
「仕方ないでしょう。
将来に関わることなんですから」
ウィルがやれやれとため息をつく。
深く考えすぎなんだと思う。
きっと人生うまくいく。
気楽に・・・もっと楽しくやっていけばいいのに。
「じゃぁ、アシュタオリル先生の所に行くの?」
そんなチノの問いかけで、そういえば・・・そんな話をしていたんだと思い出す。
みんなの希望が出そろった今、アシュタオリル先生の所で特に問題は無さそうだけれど・・・
「そうですね・・・アシュタオリル先生の所でもいいのですが、
やはり、他の先生の所も見ておいた方がいいと思うんですよ」
「え~。アシュタオリル先生の所は良案件だよ?
みんな一緒でいい・・・なんて言ってくれてるんだよ」
「まぁ、そうなんですがね。
それでも、やはり他も見ておいた方がいい気がします」
「じゃあさ、じゃあさ・・・
アシュタオリル先生に第1希望ですッ!
って言っておくのはどうかな?」
「それは、他に行くことになった場合、
もんのすごく気まずいので却下です」
「え~」
「ラルは、なんでそんなにもアシュタオリル先生の所にこだわるんです?」
「だって・・・」
みんな一緒でいいって・・・
いくら同じ学院とは言え、ただでさえ弓術と魔法とじゃ別々だったのに、違う研究室に入ったら、今まで以上に一緒に行動する時間なんか無くなっちゃうかも知れないじゃない。
そりゃ・・・いつかは別れる時が来るとしても・・・そんなにすぐである必要はないじゃない。
「あ~・・・いえ、少し意地悪な質問でした。
そうですね。
チノも含め、一緒に居ていいってのはそうそう無いでしょうし・・・
今度、もう一度、アシュタオリル先生の所に出向いて、
話し合ってみることにしましょう」
私は・・・そんなにウィルに気づかわれるような顔をしていたんだろうか?
ウィルの出した結論を聞いて、自分でも解るくらい心のもやもやが晴れていくのが解った。
「そんなウィルだから、みんな付いていきたいって言うんだよ」
ミレイ、チノ・・・そして、私・・・3人の笑顔にウィルの苦笑が混ざり、こんな仲間だからこそ、素敵な世界が待ってるんだと・・・未来は明るいんだと思うのだった。
次回「蘇生術の日」
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