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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
68/90

対決の日

いよいよ対抗戦だ。

選手一同は馬車に分乗し、会場へ向かう。

折角の催し物だ。

一般生徒も自由に観覧が可能とのこと。

ただし、歩いて向かえ・・・ま、1時間程度歩けば着く距離だしな。

そんな野次馬連中は、周囲の塀の上から見守ることになる。

双眼鏡でも無いと、よく見えない気がするんだが・・・それでも結構な人間が野次馬に参加しているようだ。

スタート地点へ向かうべく、ゲートをくぐり抜けた際、頭上からがんばれと声を掛けられた。


スタート地点へ向かうため、廃墟を模した街中を歩く。

ミレイが、なんとはなしに髪の毛をいじる。


「ミレイ、どうしました?」

「・・・ん。何でもない」


普段なら背中も中ほどに届こうかという黒髪を、今日はツインテールにしてもらっているため、違和感を感じているのだろう。

作戦の都合上、背中に髪の毛があると困るのだ。

脇に逃がして貰うための髪型がツインテールという訳だ。

・・・サイドテールでもいいんだけどね。

黒髪を結わいている水色のリボンが、風に揺れる。


「普段とは違う髪型ですが、似合ってますよ」

「・・・そ、そういうことじゃないもの」


照れてる照れてる。

やはり、普段と違うからか、普段とは違う反応が得られて・・・すっごい楽しい。


ウチのパーティーのお目付役は、アシュタオリル先生とサララケート先生だ。

アシュタオリル先生は、初めてなのでよく知らないのだが、呪印魔法の先生との事だ。

小柄で、結構お年を召されているように見受けられる。

白い眉毛が目の上に被さるほど延びている。

そのため、視線はよく解らない。

それに精霊魔法のサララケート先生・・・

はて?

いざという時に止めに入ってくれるためと聞いていたのだが・・・

近接のいないウチらに、魔法の先生2人って・・・いざって時に役に立つのか?


スタート地点に関しては、希望がそのまま通った形となっている。

下見の時に目星を付けていた建物の屋上だ。

いよいよ屋上に出ようかという階段で先生方に声を掛ける。


「先生、申し訳ありませんが、開始まで、

 林と反対側の方でしゃがんでいて頂けますか?」

「ふむ、構わんよ」

「ありがとうございます」

「開始まで魔法は禁止じゃよ?」

「ええ、解っています。

 チノと僕は伏せて、"きわ"まで前進。

 ミレイとラルは少し後ろで伏せていてください」

「・・・解った」

「了解」


屋上を匍匐前進で進む。

荒野の方に1組、距離にして50メートルくらいだろうか?

草むらに伏せているのが見て取れる。

上からだと位置が丸わかりだ。

この演習場の広さを考えれば、かなり近い位置に配置されている。

あまり隅っこに配置しても、接敵するまでに時間が掛かってしまうからだろうか?

林の方を見やるが、よく解らない。


「チノ、見えますか?」


チノからの返事は無いが、集中しているのが感じ取れる。

鷹の目を駆使し、索敵してくれているはずだ。


「1組は見つけたけど・・・

 もう1組が・・・いた。

 ウィル、2組とも見つけたよ」

「さすが!」

「1組は近いけど、もう1組が遠いかな」


ミレイ、ラルの方を振り返り、こっちへ来るよう合図を送る。


「・・・解った?」

「ええ。じゃぁ、チノ、お願いします」

「ここから正面・・・85レティーム(43メートル)ほどの所に1組」

「・・・うん」

「そこから左に200レティーム(100メートル)ほどの所に1組」

「・・・うん」

「全部を含めるとなると、大雑把に言って、

 横幅350レティーム(175メートル)、奥行き50レティーム(25メートル)

 ・・・ってとこですかね」

「結構広いよね」

「万全を期せば、もう少し広く取りたい所ですね」

「・・・どれくらい?」

「横幅500レティーム(250メートル)、奥行き100レティーム(50メートル)は欲しいですね」

「・・・解った」

「大丈夫ですか?」

「・・・ウィルが助けてくれるから、大丈夫」

「ええ、そうですね。

 ミレイなら出来ますよ」

「・・・うん」


続いてラルに指示を出す。


「じゃぁ、ラル・・・紙鳥(紙飛行機)の飛ばす位置ですが、

 林の2組の真ん中、ややこちら寄りってあたりでお願いします」

「特大だよね?」

「ええ、特大でお願いします」

「うん。任せといてよ」


チノを前面に残し、3人して後ろに下がる。


「先生方、窮屈な思いをさせて申し訳ありません」

「いいや、構わんよ。

 見付からないための工夫だと解るからな」

「それで、作戦は決まった?」

「ええ。お陰様で」

「1人少ないけど、がんばるのよ」

「はい。ありがとうございます」

「そろそろじゃな・・・」


4パーティーの中心付近・・・林の上に火球が上がり、ドンッという音と共にはじける。

その音は建物の屋根をビリビリと揺らし、威力の大きさを雄弁に物語っていた。


「じゃぁ、ラル、お願いします」

「了~解」


ラルが立ち上がり、魔法陣を背負った紙飛行機の準備をする。

こちらも立ち上がり、ラルに対して状態を知るべく呪文を唱える。


「リサーチ」


ラルが呪文を唱え始める。


「かる、とりと、へくさ、へくさ・・・」


そこまで呪文を唱えると、軽く助走し、大きく振りかぶって紙飛行機を飛ばす。

火球の煙をかすめるようにして、目印の無い目標に向かって一直線に飛ぶ。

ミレイが立ち上がり、手を前に広げ呪文・・・呪歌を歌い始める


「♪とりと、ふういき」


ラルの紙飛行機は、ほぼ目標と思える空域に達した。

ラルが発動するためのキーワードを唱え、呪文の最後を締めくくり、その蓄えた心力を開放する。


「るーくていぉん!」


紙飛行機をコアとして、水球が生まれる。

その水球はみるみる成長していき・・・大きくはぜた。

林に、にわか雨を生じさせる。

一気に心力を消耗したラルが、肩で息をする。


「♪かすもい~ど、ざーむ!」


ミレイの呪歌が完成する。

眼前・・・目標の領域に吹雪が発生する。

その楕円形の領域は、普段のに比べると、かなり広域だ。

ミレイの心力だと15秒・・・いや、10秒というところか?

時間に余裕が無いので、ちゃっちゃと済ませよう。

ラルに近づき、両の手を取り、額を合わせる。


「我、彼の者に気力の源、立ち上がる力を分け与えん。トランスファー」


ラルに対し、心力を分け与える。

完全に回復させることが目的では無いので、時間を優先で・・・

8割程度回復した辺りで頭を離す。


「じゃぁ、後は頼みます」

「任せといてよ」


ミレイの方に向き直り、背後から近づく。


「リサーチ」


そして、前に突き出している両腕に背中側から触れる。

肘の辺りに触るようにし、後頭部に額を付ける。

・・・普段のように髪を下ろしていると、顔をその髪にうずめることになるので、ツインテールにして貰ったのだ。


リサーチの結果から、心力がそろそろ尽きそうだと解る。

ちょうど良いタイミングだった訳だ。


「我、彼の者に気力の源、立ち上がる力を分け与えん。トランスファー」


ミレイの心力が無くならないよう、常に注ぎ続ける。

抗魔石による防御、維持する心力消費、それに対するミレイの・・・と言うより、こちらの心力との対決という訳だ。

とは言え、明らかにこちらの分が悪い。

そこでチノとラルによるフォローが重要になってくる。


その時、視界の隅・・・荒野の方で火球が上空に上がる。

ギブアップのサイン!?


「ミレイ、荒野の組が降参したよ。

 吹雪の向き、調整出来る?」


チノがミレイに話しかけ、それに対し、ミレイがうなずくのがダイレクトに伝わってくる。

ミレイがゆっくりと林の方へと身体の向きを変える。

それに付き従って身体の位置をずらす。


それにしても意外だ。

抗魔石の発動に失敗したのだろうか?

と、言うか・・・いきなり真ん中がギブアップじゃなくてよかった。

真ん中だったらどうしたらいいんだ?

・・・ま、まぁ、そうじゃなかったんだ。

気にするのはやめよう。


「残りの組は・・・林の中で全然見えないね。

 チノは見えてるの?」


ラルがチノの隣に来て話しかける。


「なんとかね。

 2組とも、抗魔石を使って防いでるね。

 そこだけ吹雪が不自然に流れてるから」

「どこ?」

「正面の組の方が見やすいかな?

 ほら、ここからまっすぐ・・・」

「ああ、あそこね。

 確かに見えなくも無いけど・・・

 水球を当てるのは無理かな~」


そんな2人の会話を聞きつつ・・・こちらは引き続きトランスファーを・・・


「ちょっと質問してよいかの?」


アシュタオリル先生が2人に話しかける。


「なんですか?」


チノは引き続き、監視をしていないとまずいので、ラルが応える。


「お嬢さんが最初に飛ばした・・・あれは何かな?」

「コレですね。

 紙鳥って呼んでます」

「おお・・・これは・・・

 手にとってもよいかな?」

「ええ、どうぞどうぞ」

「紙鳥・・・その名の通り、紙で出来ているんじゃな。

 その背中に魔法陣を背負って・・・

 見事に遠くで発動したモンじゃ」

「あんまり遠くまで飛ばしちゃうと、

 うまく発動しないんですよ」

「ほうほう。

 これは、面白いの~」

「ええ、本当に。

 魔法も無しに、あんなに綺麗に飛ぶなんて」

「それと、先ほどから、吹雪の魔法が続いておるが、

 これはどういうことじゃ?」

「えっと・・・喋っていいのかな?

 特に秘密にはしてなかったと思うし・・・

 えっとですね。

 ウィルが心力を分け与えてるんですよ」

「心力を分け与える・・・と」


ボンとでも言おうか・・・そんな音が聞こえてきた。

どっちかのパーティーが攻撃でも仕掛けてきたのか?


「ウィル、左手側の組が降参したよ」


おっと・・・降参の合図だったか。

ソレを受けて、ミレイが呪文の範囲をゆっくりと変更する。

大分範囲を狭めることが出来たため、心力に余裕が出てきた。

減り具合を見ているから解るのだが、かなりゆっくりになった。

とは言え、この魔法の燃費が悪いことに変わりは無い。


「心力を分け与えるとのことじゃが、

 決して回復とか増える類では無いんじゃな?」

「ええ、そうらしいです。

 あくまでもウィルの心力を分け与えると」

「さっきからずっと・・・よね?

 ウィルくんの心力はどうして尽きないのかしら?」

「すっごく多いからじゃないですかね?」

「そ、そんなに・・・」

「しかし、事実として、

 あの心力喰いとも言われる吹雪が継続しとる」

「ラル、向こうが動いたよ」

「ん。じゃ、先生すみません」

「いや、いいんじゃよ。

 邪魔して悪かったの」


ラルが先生との会話を切り上げ、建物の"へり"に移動する。


「ほら、あそこ。

 ・・・届く?」

「う~ん・・・大丈夫かな?

 それじゃぁ、ひとつ、攻撃してみますか」


事前の打ち合わせの通り、ラルが魔法陣を用意し、呪文の詠唱に入る。


「かる、もるで、やーる!」


ウォーターボールの呪文を唱え、えいやっと投げつける。

水属性の魔法は、攻撃力に乏しい。

が、吹雪の中を通り抜け、結界の表面で凍り付いてくれれば良し程度に考えている。

結果的に足止めになればいいのだ。


「あれ?

 ウィル、思ったより劇的な効果があったよ」


こちとら、ミレイの後ろにぴったりくっついているので状況が見て取れない。

チノ達の実況が無いと何も解らないのだが。


「集中が途切れたんだろうね。

 結界が解けてたもの。

 すぐに張り直されちゃったけどね」


ほほう。それは僥倖ぎょうこう


「じゃぁ、どんどん行きますか」


調子の乗ったラルが、先ほどよりもランクアップした魔法を用意する。


「かる、じおに、てとら、やーるえ!」


ラルが呪文を唱え、先ほどより多くの水球を投げつける。


「やったぁ、命中!」

「また途切れたみたいだね。

 ああ、奥に引っ込んじゃったね」

「むぅ。ちょっと無理かなぁ」


奥に戻った?

体勢を立て直すということか・・・

さて・・・どうするだろうか?

このまま、こちらの心力切れを狙うか・・・

それとも別ルートから攻めてくるか・・・

そもそも、何故移動してきたのか?

痺れを切らした?

ジリ貧になる理由が生じた?


吹雪の効果範囲が狭まっていることから、今のミレイなら数十秒は持つだろう。

ってことで、ミレイを全快にし、一旦、トランスファーを中断する。


「ラル、敵が突っ込んでくる可能性があります。

 でっかいのを1発頼みます」

「え?こっち来るの?

 ま、いっか。

 ウィルのこと信じてるからね」

「まぁ、失敗しても心力は回復させますから、

 遠慮せずに、でっかいのを頼みます」

「了~解」


「かる、とりと、てとら、へくさ、るーくていぉん!」


巨大な水球が生成される。

その下を人が走るのが見える。

水球で像が歪んでしまい誰だかは解らないが・・・

そして水球が破裂。

水流に飲み込まれ、押し倒される3人。

他の2人はどこだ?


周囲を見回し、少し離れたところにいる1人は発見した。

倒れた3人を見やる。

前にいた2人が立ち上がるが、動きは鈍い。

後ろの1人は倒れたままだ。


先に立ち上がった1人がうずくまる。

もう1人は倒れていた残った1人の方に歩いて行き、しゃがみ込んだ。

吹雪でよく見えないな・・・

・・・様子がおかしい。

やり過ぎたか?


「ミレイ、止めです。吹雪中止」

「・・・うん」


吹雪を中止した直後、相手の付き添いをしている先生から火球が打ち上げられる。


まともに水球を喰らった3人の動きが無い。

やばいな。

やり過ぎた。

階段を飛び降りるようにして駆け下り、急いで駆けつける。


一番近くでうずくまるようにして震えているのは・・・ルムハスか?

その後ろではヨルマナを抱き起こし、後ろへ移動しようとしているネクリオスがいた。


「ヴ・・・」


ガチガチガチガチ・・・

喋る事もままならないほどに震えている。

身体もすごく震えていて、まともに動く事も出来ないようだ。


「ヒール」


う~む・・・予想はしていたが、ヒールでは効果が薄い・・・と言うか、ほとんど無いようだ。

まずは、身体を温めることが必要・・・と言うことか。

身体は少しでも熱を発生させようと震えている。

急いで乾かして暖める必要がある・・・のだが・・・

ウチのパーティーって、水属性に氷属性なんだよな・・・


そうこうしているウチに、奥からトラウィス先生とエキドナ先生が出てきた。


「先生、急いで彼らを乾かして暖める必要があります」

「解っている。

 ウィルも運ぶのを手伝ってくれ」

「はい」


そう言って、2人はネクリオスとヨルマナを背負う。

急いでルムハスの方に戻り、彼を運ぶとしよう。


勝つには勝ったが・・・後味の悪い勝利だった。

・・・その日、彼ら3人は布団の住人となった。


次回「対決の日のその後のサララケート(教師)」


Twitter @nekomihonpo


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以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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