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ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
66/90

大慌ての日

いよいよ、対抗戦の前々日・・・という日になった。

あれから参加パーティーが1つ増えて、トータルで4パーティーとなっている。


それはそれ。

フォシナに頼んでいたモノが出来上がったらしい。

放課後に校舎裏で受け取った。


「もう、これで用はありませんわね」

「ええ、そうですね。

 僕から貴方に接触をする・・・と言うこともないでしょう」

「あのことは・・・」

「もちろん、墓の中まで持って行きますよ」

「そ、そう。

 それじゃぁ、失礼するわ」

「ええ、わざわざ済みませんでした」


そんなやり取りを終え、さっそく魔術道具のリストを確認する。

アイテム名、値段、販売店、購入者の有無・・・お、効果まで書かれてる。

思った以上にしっかりした作りで驚いた。

もっとやっつけなリストになってくると思っていたんだが・・・

ここまでしっかりしてると、これのコピーを売るだけで商売出来るんじゃねーか?とか思わないでも無いくらいしっかりしたリストだ。


リストをパラパラと確認する。


「ぐっ」


思わず、うめき声が出てしまった。

それくらいにまずい。


氷属性の抗魔石が3つ、ここ最近、売れたとある。

効果を確認する。

心力を消費し、2~3レティーム(1~1.5メートル)程度の範囲で氷属性の魔法を無効化する・・・

実にまずい。

ミレイの属性ピンポイントじゃないか。

しかも3つ・・・各パーティーが入手したと考えるのが妥当だろう。

1つ2万2千ペーリンガもするのに、よく買ったな。


しかし、実にまずい。

思考が堂々巡りしてしまうくらいまずい。


氷属性を無効化というが、どの程度無効化出来るんだろうか?


例えば、アイスウォールを出しておいて、この無効化空間が移動してきたとする。

接触した部位から、溶けて無くなってしまうのだろうか?

そうなると、足止めすら出来なくなってしまう。

それとも、空間内では発現しないだけで、外に存在する物理的な氷には効果が無いんだろうか?

最悪を想定するなら、前者だ。

空間に触れた瞬間に無効化される・・・

足止めもままならないとなると、為すすべが無い。


心力を消費して・・・との事だが、これもどの程度だかが解らない。

物凄く微量で済む・・・となると、心力切れを狙うことも難しくなる。


まずい・・・実にまずい。


すぐにでもこの抗魔石を購入し、実験すべきだ。

すべきなんだが・・・2万2千ペーリンガは・・・無理だ。

実家に泣きつけば、出ない額じゃ無い。

出ない額じゃ無いが、そんな事できる訳も無い。


店に行って、効果を知りたいから貸してくれ・・・と言って貸してくれるだろうか?

2万2千もするような高価なモノを・・・だ。

・・・無理だ。

盗まれる危険があるような事をするハズが無い。


「・・・ウィル、どうしたの?」

「え?」


どうやら、考えに集中しすぎて、ミレイが来ていることに気がつかなかったようだ。


「・・・眉間にしわ。難しい顔してる」

「そんなに・・・ですか」

「・・・うん」


なんでも無いと・・・言い切りたかったが、それは難しい。

どうするか。

・・・取り敢えず、店に出向き、試させて貰えるか聞いてみようか。

聞くだけならタダだ。

ダメなら効果に関して聞いてみればいい。

悩んでいても答えは出ないのだ。

まずは進もう。


「ミレイ。これからちょっと付き合ってください」

「・・・うん。いいよ」

「ちょっと魔術道具屋に向かいます」

「・・・うん。解った。

 チノとラルは?」


そうか・・・しまった。

失念してた。

彼らを探し出し、適当に特訓しておいてくれと伝え・・・

・・・適当って言われても困ると文句を言われたが・・・

急いで魔術道具屋・・・ハースパスの魔道具屋に向かう。

第5区の商業施設にあるその店は、なんともおもむきのあるたたずまいをしていた。

扉を開けると、カランと乾いた木琴の音がする。


「おやおや。また学生さんかい?

 ハースパスの魔道具屋に何の用だい?」

「氷属性の抗魔石を貸していただけないでしょうか?」

「ハッ、この子は何をお言いだい?

 2万5千ペーリンガもする道具を貸せというのかい?」


・・・値上がりしてやがる。

しかも、2万5千とは・・・盛ったなぁ。


「ええ、そうです。

 貸して欲しいのです」

「ハッ、バカをお言いじゃ無いよ。

 貸せるわけ、無いじゃ無いか」

「持ち逃げなんかしません。

 見張っていてくださって結構です。

 いや、むしろ見張っていてください。

 僕らは、その効果の程を知りたいのです」

「知ったらどうなるんだい?

 お買い上げ願えるんだろうね?」

「え?」


・・・おいおい、2万5千だぞ。

買えるはず無いじゃ無いか。


「いえ・・・それはさすがに・・・」

「お話にならないね。

 坊やはさっさとお帰り」


まずいな。

相手の心象は最悪か?

・・・最悪だよなぁ。

どうする・・・


「いえ、その・・・

 望んだ効果があるかが知りたいんです。

 もし、効果が確認出来たら・・・

 そ、そう・・・父に頼んで買います。ええ」

「ふぅん?望んだ効果ねぇ」

「ええ。さすがに高い物ですから、

 望んだ効果が出なかった場合、

 嵐の夜の灯火になってしまいます」


勢いだけで、言ってみたが・・・どうだ?

それほど悪い理由にはなってないと思うんだが・・・


「どんな効果がお望みだい?」


食いついた!?


「ええ・・・例えば、氷で壁を作ったとして、

 抗魔石で・・・無効化空間を維持したまま接近して、

 壁に穴を開けられるのかが知りたいんです」

「ふぅん。変わったことに使うんだねぇ」

「で・・・どうなんですか?」

「開くんじゃないのかい」

「本当に開くか、確認をしてもいいですか?」

「信用が無いね」


うろんな目付きで睨まれる。

まぁ、ガキが何を生意気言ってるんだ・・・って話だよな。


「さすがに安くないですから・・・

 この目で確認してからで無いと・・・」

「まぁ、いいさ。

 どうやって試すつもりだい?」

「えっと・・・氷の玉を地面に出して、

 それに接近して消えるのかって形で確認します」

「誰が氷の玉を出すんだい」

「それは、ミレイが出します」

「・・・うん」

「まぁ、いいだろう。

 持ち逃げなんか許さないからね」

「それはもちろんです」


よし、なんとか確認が出来るぞ。

店主のおばあさんが店の戸の前に閉店の札を出す。


「ついといで」


店の奥を抜け、裏庭に案内される。


「これが抗魔石だよ」


玉子程度の大きさの赤茶けた石だ。

手のひらの上に載せられる。

手触りは・・・石なんだが、なんとも金属っぽい。

しかも、ほんのり暖かい。

人肌で暖まった暖かさでは無く、石の中からじんわりと滲み出る暖かさと言おうか・・・

遠赤外線というか・・・こたつの様な暖かさがある。


「呪文を唱え、集中して心力を注ぎ込むと、

 直径5レティーム(2.5メートル)程度の空間が出来るよ」

「なるほど・・・」

「呪文は、どれいふぇしぃ、たな、えとぅしぇくしぃ、どぅなもし、めてしす・・・だよ」

「え?ちょ、ちょっと待ってください」


思ったより意味不明な文言で、1発で聞き取れなかった。

急いでメモを取ることにする。


「どれいふぇしぃ・・・

 たな・・・

 えとぅしぇくしぃ・・・

 どぅなもし・・・

 めてしす・・・

 いいかい?」

「はい。ありがとうございます」


ミレイの方を見やり、庭の一角を指差す。


「じゃぁ、ミレイ、

 あそこに氷球をお願いします」

「・・・うん」


ミレイが呪文・・・呪歌を歌い上げる。


「♪もるで、のすにと、へんげるたい、やーる」


サッカーボール程度の・・・普段より大きめのアイスボールが生まれ落ちる。


手のひらの抗魔石を見つめる。

じんわりと暖かい・・・


「どれいふぇしぃ、たな、えとぅしぇくしぃ、どぅなもし、めてしす」


呪文を唱え、集中する。

暖かさが増したような気がする。

じんわりと光っているようにも見える。

ゆっくりとアイスボールの方へ歩いて行く。

境界がイマイチ不明だが、そろそろ境界線のハズだ。


抗魔石の作り出すフィールドに触れたのだろう。

アイスボールが動いた。

そのまま進むと、フィールドの"きわ"を押しやられるようにして動いていく。


「ほほぅ」

「・・・動いた」


ほほぅ・・・ってあんたは、アイスウォールに穴が開く派だっただろ。

やっぱ、試して正解だったな。


集中を解いて、アイスボールを調べる。

フィールドが接触した部位が溶けてはいるが、サッカーボール程度のサイズですら溶かし切っていない。

壁のような類のモノで足止めが可能と言うことだ。

まぁ、時間を掛ければ穴を開けられるだろうが・・・


庭の端に移動し、ミレイの方を向く。


「じゃぁ、ミレイ、合図をしたら氷の矢を撃ってください」

「・・・解った」

「ちょいとお待ち。

 そんな危険なことされちゃ困るよ」

「大丈夫ですよ」

「あたしゃぁ、何があっても知らないよ」


まだ何か言いたそうだったが、問答無用で開始する。


「どれいふぇしぃ、たな、えとぅしぇくしぃ、どぅなもし、めてしす」


呪文を唱え、ミレイへうなずいてみせる。


「かる、じおに、あるーだ」


呪文と共に、ミレイの手から4つの氷の矢が次々と投擲される。

抗魔石で作り出したフィールドにぶつかると、石の壁にでもぶつかったかのような音を立て、フィールドに沿って逸れていく。

消えて無くなりはしない。

後ろへ逸らされていく。


直接攻撃は難しいかも知れないが、足止めは可能と解った。

心力の消費量は・・・イマイチ解らない。

恐らく、こちらのベースが多すぎて、0.1%とか減っても知覚できないってとこだろう。

ゲームみたいに数値で見えれば楽なんだが・・・


「残念ながら、欲しかった効果は無かったみたいです」

「そのようだねぇ」


抗魔石をおばあさんに返しながら、残念そうに振る舞う。


「こっちとしても、売り損なって残念だよ」

「それは・・・すみませんでした」

「まぁ、売り損なったのは残念だけれど、

 欲しい物じゃないんだから仕方ないね。

 また何か欲しい物が出来たら、遠慮せずにおいで」

「はい。そうさせてもらいます。

 今日は、ありがとうございました」


店を後にする。

カランと木琴が鳴る。


取り敢えず、最悪は免れた。

戦法に多少の変更は必要かも・・・だが、当初の予定通りで行動してみて、接敵されそうになったら封じ込める方向でいいか。


次回「対決の日のヨルマナ(同級生)」


Twitter @nekomihonpo


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◆用語 ●幼少期人物一覧
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 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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