下準備の日のヨルマナ(同級生)
「今日はどこに行くんだ?」
「ま、ちょっと魔術道具屋までね」
「魔術道具?
何か買うのか?」
「ま、対抗策って奴ですよ」
ウィルは回復、ミレイは氷、ラルタイアは水、チノテスタは弓、キーウェンは剣。
ウィルは回復なので、脅威から取り除くとして、遠距離特化組と言えるだろう。
水属性の魔法には、脅威になりそうな魔法は無かったと思うが・・・氷属性との合わせ技が危険だ。
第5区にある商業区画に到達する。
その中にある1軒の魔術道具屋に向かう。
扉を開けると、木製の鳴子が乾いた音を立てる。
「おや、初顔だねぇ。
何をお探しだい?」
店主なのだろう・・・老婆が奥から顔を出し、対応してくれる。
「そうですね・・・
氷属性に対する抗魔石か、
それに類する効果があるモノ・・・
ってところです」
「おやおや、それはまた珍しい物をお探しだね。
もちろん、このハースパスの魔道具屋には置いてあるよ」
「じゃ、ソレを2つください」
「おやおや、2つも入り用とは・・・
坊ちゃん達に払えるのかい?」
ネクリオスの方を見やる。
「ヨルマナ・・・必要なんだな?」
「ええ。手っ取り早い対策方法って事で」
「まぁ、それは解るが・・・
はぁ・・・
して、店主、いくらになる?」
「2つで3万6千ペーリンガだねぇ」
「3万6千だと!?」
「お買い得だろ?」
「確かに、魔術道具としては安いかも知れんが・・・」
「どうするかね?」
「ちょっと待ってくれ・・・
ヨルマナ、1つじゃダメなのか?」
「念のため・・・と言うことを考えると、
2つあった方がいいですね」
「はぁぁ・・・解った。
それで買おう」
「ひひ、毎度ありぃ」
お金の話はネクリオスに任せるとして・・・店内を見て回る。
それほど広い店内では無いのだが、結構な種類を取りそろえているようだ。
取り敢えず、氷属性に対しての目処は立った。
水属性だが・・・恐らく、氷属性との合わせ技だろうから、氷属性の対策をしておけば問題無い。
単体での攻撃力は、さほど高くなかったはずだ。
まして、剣士として身体を鍛えているネクリオスやルムハスに手傷を負わせるような術は記憶に無い。
ま、念のため、後で調べる必要はある。
「ヨルマナ・・・まだ、買うのか?」
ネクリオスが、支払いを済ませたのか・・・店内を見ているのを見て不安に思ったようだ。
「まだ、氷属性の対抗手段しか用意できてないですからね」
「勘弁してくれ。
3万6千は出費としては痛すぎる」
「ま、確かにお安くはないですね。
仕方ないですね・・・
他の対抗手段は、助っ人の属性で補いますか」
「そうしてくれると助かる」
店主の老婆が我々に対し手招きをしている。
「抗魔石の使い方は解っているかね?」
「発動させるための呪文を唱え、心力を注ぐために集中すればいい・・・でしょ?」
「おやおや、十分に物知りさんだね。
その通りだよ。
やめたくなったら、集中をやめればいい。
直径5レティーム(2.5メートル)程度が限度だからね」
「解った」
「氷と他の属性にした方がよかったんじゃないのか?」
ルムハスが店内を見回しながら、提案してくる。
実に、ごもっともな意見だ。
「そうですね。それも考えたんですけど、二手に分かれた場合、困るかなって」
「二手に分かれるのか?」
「ま、可能性の話ですかね」
一応、目的は達したので・・・我らの財布たるネクリオスも、これ以上の出費は嫌そうなので・・・帰ることにする。
ま、対抗戦までは多少余裕があるし、必要になれば買い出しに出ればいい。
「ネクリオスには悪いことをしたね」
「全くだ。さすがに4万近くは高すぎる」
「さすがに魔術道具だね。
あんな石ころが、一財産になるんだから」
「ま、そのお陰で、ウィル達への対抗手段は用意できました」
寮へと向かう帰りの道すがら、現状の考えを披露し、2人に意見を求めることにする。
「今の考えを教えますので、意見をください」
「ああ、それは構わないが」
「意見することがあればね」
ウィル達の作戦を推測する。
ラルタイアの水属性魔法に、ミレイの氷属性魔法を上乗せし、相乗効果で高い威力の氷属性魔法を仕掛けてくる。
これに対し、今日、購入した氷属性の抗魔石で対抗する。
助っ人の呪印魔法使い2人、それぞれに石を持たせ、ネクリオスとルムハスに付ける。
これで、どちらを攻撃してきたとしても、耐えられるはずだ。
チノテスタの弓は、風属性の呪印魔法か、森の中で狙いを付けにくくすることで対処する。
ウィル達が、どこを開始位置にするかは解らないが、遠距離特化と言うことを考えれば、森の中と言うことは考えにくいだろう。
荒野が一番有力だと思われるが、そうなると、木々による妨害は難しい。
やはり、1人は風属性が必要だ。
懐に潜り込んでしまえば、同士討ちの危険もあることだし、そうそう魔法や弓は使えない。
キーウェンの技量が問題となるが、こちらは剣士が2人。
早々にキーウェンにはご退場願って、あとは我々が降伏勧告をすればいい。
「ウィルに対しての策は?」
「ま、正直なところ、
神聖魔法使いが活躍するとは思えないんですよ」
「まぁ、それは・・・ケガをしない限りは出番は無いだろうなぁ」
「とは言え、ケガをした場合、回復手段が無いと厳しいしな」
「ま、役立たずなのは、こちらも一緒なんですがね」
「そう言うな。
ヨルマナの状況分析には活躍して貰わないと困る」
「期待に応えられるよう、がんばりますがね」
向こう・・・ウィルも同じような立場・・・なのか?
どうも噂を聞く限りだと、後ろで控えている・・・という感じでは無いのだが。
「それで、他の連中への対策はどうするんだい?」
ルムハスが、当然、対策はあるんだろ?という顔で聞いてくる。
ま、それなりに考えてはいるが、ミレイの魔法ほどの脅威は感じていない。
「他の・・・と言っても、カムラヒリテの連中くらいしか参加表明してませんがね」
「そうなのか?」
「他の連中は、ギリギリまで表明をしないことで、
戦力分析をさせない作戦なんですよ。きっと」
「それで、カムラヒリテの連中はどうなんだ?」
「現状、近接が4人・・・」
「近接を4人だと?」
「ま、油断を誘う罠ですがね」
「そうなのか?」
「あの学園・・・学院に来てからは秘匿しているようですが、
近接と言いつつ、弓も使えるんですよ。
1人で遠近の両方に対応可能です」
「む・・・腕前はどうなんだ?」
もっともな質問だ。
しかも、学院に入ってからは秘匿しているので、ネクリオス達も知らない。
とは言え、推測は出来る。
「チノテスタを防げれば問題の無い程度・・・かと」
「確証は無いんだろ?」
「2つに分かれたロウソクは命短しって奴ですよ」
「つまり、剣の腕前もいまいちだと?」
「ネクリオスやルムハスには敵わないですよ」
幅の広い攻撃が可能だろうが、所詮は片手落ち。
1つの事をひたすら研鑽してきた2人に敵う訳が無い。
「弓が4人とは言え、チノテスタが防げれば問題無しかと」
「同じ防ぎ方をして、接近して切り伏せると?」
「ま、そんな感じですかね。
残りの1人が不明ですが、火属性の呪印魔法使いが有力ってとこですかね」
「炎なら、俺がある程度、消滅させられるな」
「ま、そこはネクリオスの対応に期待ですかね」
「解った」
あとは彼らが"どこを先に"狙うのか・・・ってことなんだが・・・どうも我々が狙われている公算が大きい。
ウィル達とカムラヒリテの連中がつぶし合ってくれるのが理想なんだが・・・
ウィル達はネクリオスを・・・
カムラヒリテはウチの学園を狙ってくるだろう。
2方面を同時に相手にはしたくないので、他の勢力が加わってくれることが望ましい。
「それで、助っ人は誰に頼むんだ?」
そんなネクリオスの問いかけで、思考の森から抜け出した。
「あれ?言ってませんでしたか」
「ああ、聞いてないな」
「ま、1人は風属性のテルタートなんですが、
もう1人は、土属性のドーナレンにしようかと思っているんですがね」
「土?また、珍しいところを選んできたな」
「ドーナレンの土壁は、時間は掛かりますが、
大抵の攻撃を防げますからね」
「確かにそうなんだが・・・
土壁を作るだけの余裕があるかな?」
「ま、いざって時の防御と考えてますがね」
「予想外の攻撃をされた場合の対処・・・と言ったところか」
「そんなところです」
自分でも、少し彼らを意識しすぎだとは思うが、去年見たミレイの吹雪の魔法・・・あれは脅威だ。
吹雪の魔法自体は怖くも何とも無いが、あれだけの吹雪を生み出せる心力が脅威だ。
その心力で、どこまで魔法が使えるのか・・・
シャンタ学院上がりの連中に話を聞いてみても、学院で吹雪の魔法を披露したという話が聞こえてこない。
学院の授業では教えていない・・・
じゃぁ、どこで修得したというのか?
授業外で習得した魔法が吹雪だけだと言うのだろうか?
解らない。
解らないと言うことが脅威だ。
対処できないことが恐ろしい。
警戒して、ネクリオスに高い金を出して貰い、抗魔石を手に入れた。
土属性で壁も作れるようにする。
貫通力の高い魔法・・・恐らく氷の矢の系統は厳しいだろうが、水、炎に対して、効果が高い。
弓に対しては、風属性で防御する。
これで、少なくともウィル達の攻撃は我々には無効だ。
さすがに、ここまで対応すれば大丈夫だろう。
そうそう突破されるモノでも無い。
そう・・・一安心して、明日から更なる情報収集に励むつもりだ。
次回「ないしょの話の日」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
適う→敵う(指摘感謝)
恒→レティーム




