表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒール最高  作者: 猫美
学院高等編
61/90

賽が投げられた日のネクリオス(同級生)

「くそっ、くそっ、くそぅっ!」


廊下を早足で歩く。

なりふり構わず走り出したい気分だった。


先ほどのやり取りが頭の中でぶり返す。

なんで、俺は・・・あの時、あんな事を言ったんだ。

ミレイさんを泣かせてしまった・・・

俺は、彼女を傷つけてしまった。

・・・いや、違う。

俺は、彼女の大切なモノを傷つけてしまったのだ。


理由をいくら考えたところで、もう遅い。

俺は自分で、最後の審判の扉を開いてしまった。

そして、ミレイさんから審判を下された。

いや・・・違うな。

自分から死神の刃に飛び込んだのだ。

ミレイさんは何も下してはいない。

俺が愚かだったのだ。


「ネクリオス、落ち着けって」

「俺は、取り返しの付かない失敗をした!」


落ち着けというルムハスに妙にいらつきながら、そんな返事をした。

そう・・・俺は取り返しの付かないことをしたんだ。


「こんなつもりは無かったんだッ」


ルムハスに怒鳴り散らすのは間違っている。

間違っているのだが、感情の爆発が収まらなかった。

ルムハスもヨルマナも困った顔をしている。

当たり前だ。

俺が怒鳴り散らしているのだから・・・


「俺のことを好いていないのは、

 100歩譲ってもいい・・・

 だが、嫌われることは無かった。

 どうして・・・

 俺は、あそこで調子に乗ったんだ!」


俺は、今、親友に対しても取り返しの付かないことをしているのだろう。

俺は・・・愚か者だ。


「そうだな。

 ちょっと調子に乗りすぎてたな」

「ちょっと?

 ミレイさんを泣かせたんだぞ!」

「ああ、そうだ。

 お前が泣かせたんだ。

 反省するのもいいさ。

 だが、時の砂はさかのぼらない」

「そうさ・・・

 俺は嫌われたんだ」


本当、俺は何をしているんだ。

他者をおとしめて、ミレイさんの気をひこうだなんて・・・

そして、今、また・・・親友に対してわめき散らしている。

こんなにもみっともなく・・・愚かしい。

頭の奥底で、そう自分を冷笑する自分がいる。

解っていても、どうにも止められない。


「ふぅ。

 今日は、一晩ゆっくり落ち込め。

 明日、謝りに行こう」


一瞬、その言葉が理解出来なかった。


「あや、ま・・・る?

 何を言ってる。

 あんな状態になったんだぞ。

 謝れるわけが無い!」

「だからって、

 謝らないのはもっとダメだ」

「ぐ・・・

 た、確かに謝らないのは・・・

 ダメかも知れないが・・・

 明日と言うのは・・・」


いくらなんでも早すぎる。

今日の明日で、どんな顔をして会えばいいんだ。

謝らなければならないのは解る。

解るが・・・少し落ち着いてから・・・


「ダメだ」


ルムハスが、厳しい口調で、逃げようとしていた俺の思考を足止めする。


「日が経てば、気まずさで、

 話しかけることも出来なくなるぞ。

 そうなったら、

 それこそ一生、謝る機会を無くす」

「ぐ・・・だが・・・」

「だから、一晩、ゆっくり反省しろ。

 そして明日、どうやって謝るか考えろ」

「ぬぐ・・・わ、解った」


確かに、ルムハスの言っていることは解る。

明日、謝れないのなら、明後日、それ以降・・・謝ることが出来るだろうか?

きっと謝ることは出来ないだろう。

気まずさだけが積もりに積もっていく・・・

そういう意味で、この叱責はありがたい。

ありがたいのだが・・・どうやって謝れと言うのだ。


「まぁ、ミレイさんにはきちんと謝れ。

 それはそれだ。

 ミレイさんの方はいいとして、

 ウィルにはどうするんだ?」

「どう、する・・・とは?」


自分の頭が、うまく働いていないことは解る。

混乱しっぱなしなのだ。

うまく、物事の整理が出来ない。

ウィルに対してどうする・・・とは、どういうことだ?


「対抗戦に出ろと喧嘩を売っただろう」

「ああ・・・売った・・・売ったな」

「彼は回復役だ。

 そんな彼に対抗戦に出ろと言ったんだ」

「そ、そうだな・・・

 考え無しだったな・・・

 今日の俺は・・・どうかしてる」


ウィル・ランカスター・・・彼にも謝るべきか・・・

謝るというか、許しを請うべきなのか?

対抗戦に出ろなどと、済まなかったと・・・

いや、謝るべきなのは解る。

解るのだが・・・

心情的に・・・そこまでの事が出来そうに無い・・・

奴を1発殴るくらいしてもいいではないか。


「ま、彼なら出てくると思いますよ?」

「ヨルマナ・・・なぜそう思う」

「ま、半々・・・

 出てくる方にちょっと過多ってところですかね」


・・・どういうことだ?


「彼自身は回復役ですが、

 ミレイ、チノテスタと言った攻撃役は居ますし、

 向こうも、我々・・・

 と言うか、ネクリオスをやり込めたい・・・

 と思っている可能性が高いですからね」

「やり、込め・・・たい?」

「ま、そうでしょう?

 我々は、現状、ミレイさんの敵ですよ?」

「敵・・・ミレイさんと戦うことになるのか・・・」

「ま、それはそうでしょう。

 彼は攻撃手段を持っていないのですから」

「そうだな・・・」


そうか・・・ウィルと戦うと言うことは、ミレイさんと戦うということなのか。

そうだよな。

冷静に考えれば解ることだ。

俺が売った喧嘩は、そんな内容なのか。

・・・当然だな。

当然だ。


「あの吹雪の使い手だぞ。

 勝てると思うか?」

「お・・・

 ちょっとは前向きになったか?」

「あの吹雪の魔法なら、

 心力の消費が激しいはずなので、

 なんとかなりそうな気もしますがね」


そうだな・・・対魔法戦の基本だ。

心力が尽きるまで耐えられればいいのだ。

ヨルマナが、ああ言うのだ。

何らかしらのアテがあるのだろう。


「ウィルが"ヒールばか"という通名の示す通りなら、

 戦闘中は特に脅威にはならないか・・・」

「斬られてもヒール、斬られてもヒール・・・

 なんていう戦法をやられない限り、

 平気じゃ無いか?」

「・・・その戦法は、こちらの心が萎えそうだな」

「ま、持久戦ならこちらの勝ちでしょうね」

「そ、そうだな・・・」


心力が切れるまで、斬り続けろというのか?

いくらなんでも、そんな戦法を取ってくるだろうか?

想像しただけでも気分が悪い。

単なる弱い者いじめでは無いか。

・・・さすがに遠慮願いたい。


「ミレイさんの側に近接戦闘役はいないのか?」

「ま、強いて言うと、

 キーウェンと仲が良いみたいですね」

「キーウェンか・・・」

「つまり、遠近魔法回復と取りそろってるわけだ」

「そうなるな」

「ま、出来るだけ情報を集めてみますけどね」

「よろしく頼む」


ふと、ルムハスを見やると、こちらを見て軽く笑っている。

何を笑っているというのか・・・


「・・・何か?」

「いやね・・・

 そうやって誤魔化してるけど、

 ミレイさんに謝るという事からは逃げられないからね」

「ぐ・・・」

「対抗手段はヨルマナに任せておけって。

 ネクリオスは、心置きなく戦うためにも、

 どう謝るか考えておけ」

「む・・・それが難しいから困っている」

「そこは自分で招いた事態だ。

 俺らを当てにされても困る」

「解っている」


対抗戦のことを考えることで、その事実から逃げていたというのに・・・

しっかりと回り込まれて、とどめを刺された。


次回「下準備の日」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

長子→調子(指摘感謝)

取り返す→取り返し(指摘感謝)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ