ミレイの泣いた日
ネタバレになるので言えませんが、人によっては不快に感じるかも知れません。まぁ、ナンと言いますか、運が無かったと諦めてください。
あの日、試験のあった日・・・洞窟の崩落騒ぎで、試験は一旦中止となった。
洞窟の崩落は、僕らが分断された場所以外でも発生し、死者こそ出なかったものの、ケガ人多数という大惨事になった。
土属性の先生と生徒によって・・・土属性の人数は多くないのだが・・・救助活動は円滑に行われ、ケガ人も神聖魔法によって、無事に治療された。
ウチらはと言うと、ラルと進んだ通路は別段行き止まりと言うことも無く、その後、入り口へ向かう通路で無事にチノとミレイに合流することが出来た。
チノ、ミレイ組は途中でモンハウ(モンスターハウス)にぶつかったため、ミレイの心力がスッカラカンになっていた。
が、その後、特にケガをすることも無く、無事に合流できたので一安心だ。
ヒーラーが1人しか居ないパーティーで、分断される・・・なんてのは心臓に悪い。
分断されはしたが、チノとミレイは無事にコアを持ち帰るというミッションをこなしていた。
いやいや、合流を優先しようよ・・・
そりゃ、ありがたいことには違いないのだが、ほんと、心臓によろしくないからさ。
・・・当然、愚痴というか、自分なりに怒ったつもりなんだが・・・2人・・・いや、3人にはどこまで通じたのか怪しい。
結局の所、崩落の原因に関しては不明となっている。
まぁ、あれだけの騒ぎになったのだ。
自分がやりました・・・等と名乗り出る雰囲気でもなく・・・
どこかの火属性の派手好きな誰かさんが、高笑いしながら爆炎魔法でもぶちかまして、粉じん爆発でも起こったんじゃ無いか?と邪推している。
ウチのパーティーは、チノとミレイの活躍により、無事に合格となってはいたが・・・その日の試験は中止となり、後日、別の形で行うこととなった。
さすがに崩落した洞窟では、安全面に不安があるしな・・・
合格してしまったので、どういう試験になるのか興味はあるが、アンテナを張ってまで情報収集はしていない。
夕食も終え、部屋でまったりと・・・むしろぼんやりと過ごしていた。
あとは寝るだけだな~・・・と言うところで扉がノックされる。
ノックと言うよりは、叩く・・・が正しいところだが。
「・・・ウィル~」
まぁ、ミレイだろうとは思っていたのだが、ミレイにしてはノックが激しい。
いつものミレイらしくもない。
ティータの祝福を返したため、部屋に貴重品と言えるほどの貴重品は無いのだが、掛け金を掛ける癖が抜けていないため、いつものように戸締まりをしていた。
未だにノックを続けている扉に向かい、掛け金を外す。
「ミレイ、どうしました?」
「・・・うぅ・・・」
ミレイが、その目に涙を浮かべ、こちらを見上げる。
「え?ど、どうしたんです?」
「・・・血が、血が止まらないの。
お願い・・・ヒールしてくれる?」
「えぇっ!ど、どこをケガしたんですか!?
傷の状態を確認します。
まずは見せてください」
「・・・ぅ、うん」
そのスカートに手を掛け、おずおずとたくし上げていく。
ゆっくりと・・・ゆっくりと・・・
ごくり・・・とツバを飲み込む音がやけに耳に付く。
ミレイの白い脚に、つうと赤いすじが流れているのが目に入る。
ももが見えたあたりで、はたと気がつく。
「ストーップ!
ミレイ、ストップです。
いや・・・いえ、もう解りましたから、
傷口はいいです」
「・・・え?」
「あ~・・・え~っと・・・」
これは、月経・・・だよな。
こっちの世界でなんて言うのか知らないが・・・
この出血は、人体として必要だから出血しているのであって、ケガでは無い・・・はずだ。
むしろ、ヒールで無理矢理癒すってのは害悪になるんじゃないのか?
新陳代謝を止めてしまう事になるんだし・・・
「・・・ウィル?」
この世界にタンポンだのナプキンがあるとは思えないし・・・どうするんだ?
っていうか・・・この世界での生理用品なんか知らねーし。
いや、前の世界でも手に取ったことなんか無いけど。
いやいや、そんなことはどうでもいいんだ。
どうする?どうしたらいいんだ?
「・・・うぅ・・・ウィル?」
「ああ、いえ。
その血はケガでは無くてですね・・・
え~っと・・・必要な出血なんです。
ヒールしちゃまずいんです」
「・・・ヒールして、くれないの?」
「う・・・」
今にも泣きそうな顔でこちらを見上げてくる。
正直なところ、すぐにでもヒールしてやりたい。
しかし・・・だ、ヒールしちゃいかんでしょ。
「そ、そうだ。
レイア、レイア寮長の部屋に行きましょう」
ミレイの返事も待たずに、部屋から押し出すようにしてレイア寮長の部屋前へ連れて行く。
この寮の住人となって、幾星霜、女子フロアにいて助かったなんて思ったことは、今夜が初めてだった。
「レイア寮長、レイア寮長!
夜分遅くに申し訳ありません。
レイア寮長?」
4階4号室の扉をノックする。
ミレイの焦燥が伝播したのか、ノックの音が激しい気がする。
が、どうにもゆったりと落ち着いたノックが出来ない。
後ろではミレイが、背中の部分を掴んでいるのが解る。
部屋の中から扉に近づいてくる音が聞こえる。
これで一安心だ。
内側から掛け金を外す音が聞こえ、扉が開かれる。
「ウィル~・・・
私に用があるとは珍しいけど、
ちょっとうるさいよ?」
「すみません。
緊急事態なのです。
ミレイをお願いします」
今にも泣きそうになっているミレイをずずいと押し出す。
「は?」
「いえ・・・その・・・
女の子の日で出血したのですが、
ヒールする訳にはいかないので、
寮長にお願いします」
「え?女の子の日?」
レイア寮長がミレイを上から下に視線を移す。
脚を伝う血を見て、合点がいったらしい。
「ああ、そういうこと。
ウィルにはきついかもね。
うん。解った。
ここはおねーさんに任せなさい」
「ええ、お願いします」
「・・・ウィルぅ。
・・・ヒールして、うぅ、くれない、の?」
ミレイの溜めに溜め込んでいた涙がつつと溢れた。
これは後ろめたさというか、申し訳なさが半端ない。
「ミレイ、大丈夫だから。
ね?ウィルにはちょっと大変だから。
おねーさんがなんとかするから」
「・・・うぅ・・・ウィルぅ」
寮長に任せて、扉をそっと閉める。
「ぶはぁっ」
思わず、大きく息を吐き出して、扉の前に座り込む。
そんな部屋の中から、2人の会話が漏れ聞こえてくる。
「・・・うぅ・・・ウィルが、
・・・ヒール・・・うぇ」
「大丈夫だから。
ウィルに嫌われた訳じゃ無いから」
「・・・だって・・・ボクのこと、
ここに、うぅ、押し込んで・・・」
「や、違うから。
そうじゃないから」
いかん。
このままここに居ると、ついつい聞き耳を立ててしまいそうだ。
それはそれで精神衛生上、もんの凄くよろしくない。
はぁ・・・そうだな・・・部屋と廊下の血痕を掃除しよう。
ミレイが、あんな風になっちゃうとは・・・生理で情緒不安定だったからかなぁ?
とか余計なことを考えながら掃除をし、物凄くぐったりして、そのまま眠ってしまった。
と、いうような出来事があったのが、昨日。
で、どうにも今朝からミレイの様子がおかしい。
元々、あまり・・・こう、喜怒哀楽が派手に見て取れる子では無いのだが・・・
「ミレイ、おはよう」
「・・・・・・おはよう」
「えっと、昨日のアレは、その・・・」
「・・・・・・なに?」
「あの、ミレイ・・・さん?
怒ってます?」
「・・・・・・怒ってない」
どう見ても、怒っているのだが、本人は怒ってないと言う・・・どうしろと。
学院に着いてもミレイの様子は変わらず・・・ぶっきらぼうで・・・なんとも困る。
「ウィル、ミレイ、おっはよ~」
「ああ、ラル。
おはようございます」
「・・・・・・おはよう」
ラルが自分の首根っこを捕まえ、机の影に潜ませる。
やっぱ、感じ取るよなぁ。
「ミレイ、どうしたの?」
「えっと・・・」
心配そうに、ひそひそ声で尋ねてくる。
軽く説明して、フォローに回って貰うか。
「ミレイが出血したというので、
ヒールをお願いしてきたのですが」
「え?出血!?」
「えっと・・・女の子の日の出血なので、
ヒールする訳にもいかず、
寮長の先輩に丸投げしました」
「うわぁ~」
あれ?・・・ラルがどん引き?
「ウィルがそういう知識持ってるって・・・
ちょっと気持ち悪い」
「え?そこ?
いや、だって正しい知識無しにヒールしてたらまずいでしょ?」
「いや、そうだとしても、
ちょっと気持ち悪いわ~」
「いや、ここ、対処を褒められこそすれ、
気持ち悪がられる所じゃ無いですよね?」
やばい・・・背中に変な汗かき始めた。
「ま、おちょくるのはこの辺にしとくけど・・・」
「はぁぁあ。
変な冗談はやめてくださいよ」
汗が一気にどばっと出るじゃないか。
「はは、ごめんごめん。
ウィルじゃなかったら、
本気で気持ち悪がってたかも」
「う・・・気をつけます」
「ところで、アレ・・・
どうするのよ」
「それなんですが・・・
ラルの方から取りなしてくれませんか」
「ま、事情も解ったし・・・
ミレイとは話してみるけど・・・
あまり期待しないでね」
「期待するなって方が無理ですよ」
2人してミレイの方を見やる。
どうやら、まだまだご機嫌斜めのようだった・・・
次回「挨拶の日」
Twitter @nekomihonpo
唐突ですが、次回から学院高等編です。