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ヒール最高  作者: 猫美
学院中等編
56/90

足手まといの日の???(他校生)

デグルバ山の洞窟に向かう途中、見知らぬ顔を見かけた。

向こうも、こちらを知らないようだ。

年格好は、学園生に見える・・・が、我々に挨拶のひとつも無いどころか、いぶかしむような視線を向けられては面白いはずが無い。

こういう時は参謀殿に問い合わせるに限る。


「ヨルマナ、見たことの無い生徒が居るようだが、

 彼らは何だ?」

「ネクリオス・・・聞いてなかったのかい?」

「ん?どういうことだ?」

「今日の試験にはシャンタの子も来てるってことだよ」

「ああ、そうか・・・

 今日の話だったのか」

「はぁ、ネクリオスはしょうがないね~。

 自分に興味の無いことはさっぱりかい?」


ルムハスが、そんな失敬な一言を掛けてくる。


「む・・・そんなことはない。

 ただ、今日の試験の事だと思わなかっただけだ」

「ネクリオスらしいけど、会頭なんだから、

 もっとしっかりしてくれないと・・・」

「所詮、鶏の"とさか"だからな」

「また、そんなことを言う」

「ふがいない俺の補佐として、

 優秀な2人がいてくれるからな」

「褒めたって、何も出ないよ」


ルムハスが、やれやれと言った顔をする。


「はは。それで、今期のシャンタは優秀なのか?」

「ん、何人かは声が聞こえてきているね」


さすがはヨルマナだ。

他の学園・・・学院の事も把握しているのか。


「それは楽しみだ」

「ま、実際に見てみないと、

 何とも言えないけどね」

「それはそうと、ネクリオス。

 当初の予定通り、洞窟に向かうかい?」

「そうだな。

 シャンタの子も居るとなると、

 獲物の奪い合いになりそうだしな。

 予定より、少々奥に行くとしよう」

「ま、道中、様子見しながらだね」


そんな方針で洞窟を目指したわけだが、結局、かなり奥深くに入ってしまった。

所々に、シャンタ、ダルテチを問わず、誰かしらが陣取っていて、狩りにならないからだ。

皆、考えることは同じらしく、こんな奥にも誰かしらが陣取っていた。

そこに居たのは、ウチの学園生、下級生女子が2人。

ここに来るまでは、途中途中に人が居たため、問題無かったのだろうが、この奥深くで2人・・・さすがにさばききれなかったようだ。

心力も尽きかけ、剣士もおらず、近くに陣取っている生徒も居ない。

まさに水筒の最後の一滴となろうとしていた危機的状況に、偶然、我々が通りかかった。

すっかりディリングに取り囲まれ、為すすべ無く・・・という場面で、助けに入ることに成功した。


「ルムハス!火剣を使う。

 一時、押しとどめろ!」

「任されたっ!」


ルムハスが、迫り来るディリングに対し、剣を大きく振り回す。

必殺の一撃である必要は無い。

あくまでも牽制が出来れば良いのだ。

それを見やりつつ、自分の手にある剣を左腰に下げた鞘に収める。


「聖なる御霊、彼女の負いし傷を癒すための力を賜らんことを」


背後ではヨルマナが、彼女らを癒す。

声の調子からすれば問題無さそうだ。

右腰というよりは、ほぼ後ろに回り込んでしまっている剣を引き寄せ、抜く。

剣の腹を目の前に掲げ、うっすらと彫り込まれた呪文が目に入るようにする。


「焼き切れ!カル、ダウマンヴォーク!」


心力を糧として、彫り込まれた呪文が光る。

一呼吸の後、剣は炎に包まれる。


「ルムハス!どけぇぇぇ!」

「はいよ」


ルムハスが身をかがめるようにして脇に避ける。

自分の身体を大きくひねり、横に走り抜けるようにしてディリング共を切り裂く。

ルムハスが抑え込んでいたディリングを6体ほど切り裂いて・・・むしろ溶かし、切って・・・地面に剣を突き刺す。

その熱で湯気を吹き上げながら地面に沈み込んでいくが、手を離すことで動きを止める。

強力なのは良いのだが、その熱さで長時間の使用に耐えないのが欠点だ。


振り返ると、残っていたディリングに、ルムハスがひねりを加えた渾身の突きで止めを刺すのが見えた。

その一撃を喰らったディリングは、頭部をまき散らし沈黙した。

これで、目に付くところのディリング退治は終わった。

通路を曲がった先がどうなっているかは知らないが・・・

まずは一安心と言うところだろう。


「ヨルマナ、彼女らの様子は?」

「ま、大きな怪我は無いね。

 ヒールで治療もしたしね」

「そうか」


彼女ら・・・2人に近づいて声を掛ける。


「大丈夫かい?」

「は、はいっ。

 だだ、大丈夫です」

「はひっ、大丈夫です」

「そんなに緊張しなくてもいい。

 ひとまず、危険は去ったのだから」

「は、はひ」


彼女らの顔が、少し上気しているが・・・さすがに下級生ともなると、こうなってしまうか・・・

まぁ、嬉しいと思う気持ちもあるが・・・いつものこととは言え、少し寂しい。


「ネクリオス、どうする?」


少し先を見て戻ってきたルムハスが問いかけてくる。


「そうだな。

 一旦、彼女らを外まで送っていった方がいいだろう。

 さっきのように大量に襲われても対処できそうに無いしな」

「それが無難な所だろうね」

「お、お手数をおかけします」


地面に突き刺したままの剣を回収し、剣先を確認する。

・・・特に欠けた様子も無し。

無事を確認して、右腰の鞘に収める。


「それじゃぁ、行くか。

 早いに越したことは・・・」


どこからか地響きが聞こえてきた。

聞こえたこともさることながら、実際、洞窟が揺れている錯覚に陥る。

いや、実際に揺れている。

いつでも動けるように身構えるが、何が起きているのか解らない。

どう動いていいのか・・・


その時、戻ろうと思っていた通路の先、天井が轟音と共に抜け落ちてきた。

その距離、20レティーム(10メートル)はあるだろうか?

土煙に隠れ、状況が解らない。

どれくらいの時が経っただろうか・・・崩落も落ち着き、土煙も晴れてきた。

崩れ落ちた通路の様子が見えてくる。

通路を塞ぐほどは無いにしろ、小高い丘が出来上がってしまった。

嬉しくないことに、ディリングのおまけ付きでだ。

土砂に埋もれて、動けない連中も居るが、転倒した程度で済んでいる奴らも多い。

そう、多いのだ。

ざっと見ただけでも、コア持ちが5体、コア無しが10体以上。

埋もれて自由に動けない連中が邪魔をしているのが幸いしている。


「今のうちに逃げるぞ!」

「了解」

「君たち、走れるね?」

「は、はい」


曲がりくねった一本道を5人で走る。

後ろからディリングが追いつく様子は無い。

コア持ちと言えど、こちらが走り続けていれば追いつけないということだ。

またひとつ、曲がり角にさしかかる。

慎重に向こうを伺う。

距離にして30~35レティーム(15~18メートル)先に、三叉路・・・だった物がある。

こちらでも崩落が起きていたのだ。

何とか通れる程度の通路が一本残るのみ。

が、こちらも上に居たディリングが落ちてきて徘徊しているおまけ付きだ。

残った通路に逃げるにせよ、崩落跡を駆け上るにせよ、奴らを殲滅するか、適度に抑えて逃げ切るしか無い。

後ろからディリングが迫ってくる事を考えると、あまりゆっくりもしていられない。

作戦・・・を立てるには戦力が心許ない。

後ろを振り返る。

ディリングは、まだ追いついてこないようだ。


「君たち、魔法使いだね。

 心力はどの程度残っているかな?」

「ご、ごめんなさい。

 ほとんど空っぽです」

「わ、わたしも・・・

 まだ回復出来てないです」

「そうか・・・」


通路の先を伺っていたルムハスが戻ってくる。


「さすがに、ちょっと多いね」

「こちらの戦力は、実質、俺たちだけのようだ」

「そいつぁ・・・

 お嬢様方を護る騎士という訳だ」


茶化してはいるが、顔は笑っていない。


「ま、方策は5つってとこかな」

「聞こう」


大体予想は付くが・・・ヨルマナの考えを聞こう。


「まずは、ここに留まる」

「心力の回復狙いだな」

「それもあるし、救助が来る可能性もあるしね」

「結構奥に来ているからな・・・

 難しいんじゃ無いか?」

「そうだね。挟み撃ちに遭う可能性も高いしね」


救助が来るより、挟み撃ちの方が早そうだ・・・


「その2、前方の敵を殲滅する」

「俺とルムハスだけってのが厳しいな」

「じゃ、その3、一気に駆け抜ける」

「殲滅よりは現実的だ」

「その4と5は戻って殲滅と駆け抜けだね」

「なるほど・・・」


敵を2人で抑えつつ、駆け抜けるって所だろうか。


「ネクリオス、どうする?」

「ルムハスと牽制しつつ、駆け抜ける」

「ま、無難なとこだね」

「君たちも大変かも知れないが、

 もう少しがんばるんだ」

「は、はい」

「が、がんばります」

「よし!行くぞ!」

「おうっ」


ルムハスと2人、先頭を切って走り出す。

最初の目標は、生き残った通路の側を塞ぐコア持ち・・・

ルムハスが一足早く、前に出る。

前傾姿勢から身体をひねり、一気に突き出す。

身体全体のひねりを加えた"えぐる"ような一撃が、コア持ちの頭部に命中する。

ルムハスは勢いそのままに、そのディリングの胴体を蹴り飛ばす。


俺は奥に居たディリングの足を切り飛ばす。

体勢を崩し、倒れてきた頭部を蹴り上げる。

こちらは、さすがにコア無しだ。

これだけで無力化することが出来た。


これで、取り敢えず、生き残った通路への道は出来た。

ルムハスと2人、他のディリングが来ないよう牽制しつつ、通路を確保する。

俺たちの後ろをヨルマナと下級生2人が駆け抜けていく。

それを視界の隅にとどめながら、じりじりと通路の方へ移動する。

逃げられる。

そう確信した時に、後ろでヨルマナが声を上げた。


「ネクリオス、だめだ!」

「どうした!?」

「こっちは行き止まりだ」

「なんだと!?」


既に、ルムハスと2人、通路への侵入を塞ぐような形で通路に入り込んでいる。

逃げ道の無いところに蓋をしたような形だ。

まずい。

戦闘を仕掛けたことで、他のディリングもこちらに迫ってきている。

逃げ場が無くなる前に活路を見いださなければ・・・

戻っても敵が居るのなら、土砂で出来た丘の向こうに抜けるしか無いか。


「そこの土砂を駆け」

「・・・と~う」


場にそぐわないかけ声と共に、目の前のディリングが蹴り飛ばされる。

膝上までのスカートが、空気をはらむ。

少しあらわになる太ももに一瞬目が止まる。

勢いを殺しつつ、ふわりと目の前に女の子が降り立つ。

背中まであろうかという黒髪が特徴的で、それまたふわりと彼女の周りを舞った。

崩落の穴から降りてきたのか?


「・・・チノ、少し抑えて」

「了解」


彼女に見とれていて、男子も降りてきていることに気がつかなかった。

チノと呼ばれた男子が、矢をつがえて、ディリングに解き放つ。


「♪とりと、ふういき、かすもい~ど」

「歌?」


すぐにでも加勢すべきなのだが、彼女の・・・その場違いな歌に気勢を削がれていた・・・

いや・・・聞き惚れていたのかも知れない。


「よっと!」


矢を放っていた男子が後ろに転がるようにして、下がってくる。

つまり、今・・・彼女が最前線と言うことになる!

なんてことをしているんだ!


「ざーむ!」


彼女の力ある一言で、状況が一変する。

両手を前に突き出し、そこに見えない壁があるかのように・・・

その壁の向こうが真っ白になった。

いや、真っ白に見えるだけで、実際には・・・


「吹雪の魔法!?」


後ろからヨルマナのつぶやきが聞こえてくる。

そう、吹雪だ。

見えない壁のその向こうは、猛吹雪が吹き荒れている。

冷気だけが、白い霧となって足下にまとわりつく。

一瞬の出来事だったのかも知れないが、その光景は圧倒的で、強烈な印象を焼き付けた。

吹雪が晴れると、そこには雪像と化したディリングたちが居た。

一面の真っ白な世界。


彼女の肩が上下する。

軽く息を弾ませながら・・・やはりあれだけの魔法だ。

心力がきつくないわけが無い。

彼女がこちら側に振り向いた。

年下だろうか?

少し幼さを感じさせつつ、その黒い髪と同じような黒い瞳が特徴的だった。

なんだろう?

・・・こう、得も言われぬ可愛らしさというか・・・庇護欲をそそられる。

本当に、彼女がこの白い世界を作り出したというのか疑わしくなってくる。


「ハッハッ・・・急い、で、逃げ、て?」

「え?」

「はぁはぁ・・・そんなに、長く、凍って、ない」

「あぁ、そういうことか。

 解った。

 そうだな。うん。

 急いで逃げることにするよ。

 助かった」

「ふぅ・・・うん。よかった」


あまりの事に、うまく頭が働かない。


「し、心力は大丈夫かい?」

「・・・うん。平気。

 ウィルの所に行けば大丈夫」


大丈夫?

ウィルってのは・・・?


そ、そうだ。

お礼をしなければ!


「そ、そう!

 是非ともお礼がしたいのだが」

「・・・ううん。いい」

「せ、せめて名前を教えてくれないか?」

「・・・ん?急いだ方がいい」

「ミレイ、行くよ」


ミレイ・・・ミレイと言うのか。

そ、そうだ。

入り口まで一緒に・・・


「あ・・・」


もう、彼女らは走って行ってしまった。


「ネクリオス・・・振られたな」


ルムハスが人をからかうように笑いかける。

そうか・・・振られたのか・・・

この俺の家柄にも金にも見た目にも・・・それらに見向きもしなかったと言うことだ。


「彼女は・・・いいな!」

「はぁ?」

「ネクリオス・・・まずは急いで逃げた方がいい」


ヨルマナが隣にやってきて助言する。


「どういうことだ?」

「広範囲の吹雪だ。

 吹雪の魔法ってのは、見た目は派手だが、

 その分、心力を一気にまき散らすようなモノだ。

 普通、こんなに広範囲に使う魔法じゃ無い。

 恐らく、表面だけが固まってる状態だろう。

 それだけでも十分に驚くに値するのだが・・・

 ま、そんな訳で、しっかり凍っているとは思えない。

 動き出す前に逃げた方がいい」

「なるほど。

 よし!急いで脱出するぞ!」


新雪の積もった丘を駆け上がる。


「ヨルマナ、彼女のこと、何か知らないか」


我ながら無茶なことを聞いている。

しかし、あれだけの実力の持ち主だ。

ヨルマナが何かしらの情報を知っていてもおかしくは無い。


「ま、あれだけの氷属性だからね。

 恐らく、氷の黒魔女だよ」

「氷の・・・黒魔女・・・

 そ、それで・・・」

「ふぅ。ネクリオスにしては珍しいね。

 ま、まずは脱出してからにしてよ」

「そうだな・・・すまん」

「いいよ」


シャンタ学院の氷の黒魔女・・・ミレイ・・・

それまで何とも思っていなかったが、来年、シャンタ学院に合流することが、待ち遠しいほど楽しみになっていた。


次回「ミレイの泣いた日」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

その3,→その3、

恒→レティーム



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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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