再会の日のウィンザー(父親)
「・・・これにて御前会議を閉会する」
定期的な御前会議が終了した。
考え事をしていたら、終わってしまった。
会議の内容を全然覚えていない。
こんな事では良くないと解っているのだが、どうにも思い悩まずにはいられなかった。
気は進まないのだが、陛下に報告しない訳にはいくまい。
どうしても気分が沈みがちになってしまい、自分でも顔に出ているのが解る。
ラルテマ殿へ近づいていく。
「・・・ラルテマ殿」
「おお、ランカスター殿?
いかがされた?
顔色がすぐれぬようだが」
「その・・・陛下にご報告したい儀がございまして・・・」
「ど、どうしたのだ?」
「ハ、ハルトティータ殿の件で・・・」
「なに!し、しばし待たれよ。
陛下に伺って参る」
「かたじけない・・・」
ラルテマ殿が慌てて部屋を出て行く。
思わず、近くにあった椅子に座り込んでしまう。
我知らず、ため息が漏れた。
どれくらい待ったのだろうか?
ラルテマ殿が戻ってきた。
「ランカスター殿。
陛下が報告を・・・とのことだ」
「ふぅ。了解した」
「そんなにおおごとなのか?」
思わず漏れてしまったため息に、ラルテマ殿が心配し、声を掛けてくれる。
「いや、大丈夫だとは思うのだが・・・
それでも私が判断して良いことでは無いのでな」
重い足取りで陛下のおわす部屋に向かう。
「陛下、ランカスター殿が参りました」
「うむ。入れ」
「ハッ、失礼いたします」
陛下の前でひざまずく。
「陛下、この度は、陛下からの命を守ることかなわず、
このような報告をせねば」
「前置きは良い。本題に入れ」
「ハッ・・・
過日、私の息子がハルトティータ殿より、
ティータの祝福を賜った件でございますが・・・」
「おお、そういえば、そなたの息子であったな」
「ハッ・・・その・・・
ハルトティータ殿に返却したとの」
「なんっ!」
陛下が、その椅子の肘掛けを握りつぶすかのごとく握りしめ、腰を浮かしかける。
何かを思いとどまったのか、再び深く腰掛け、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「・・・ティータの祝福は、ハルトティータ殿の手に戻ったのだな」
「はい」
「また、勝手なことをしてくれたものよな」
「も、申し訳ありません。
し、しかしながら、息子が申しますには、
ハルトティータ殿は、我々との交流の継続を望んでいると・・・」
「ほっ・・・そうか。
それは重畳・・・
しかし、言質を取っておかねばならんな」
陛下は、しばし、考える仕草をされ、今後の事に思いをはせておられるように見えた。
「それにしても・・・
其方の息子は如何なる理由で手放したのだ?」
「実は、ティータの祝福にはクロを呼び寄せてしまうという欠点があったようでして」
「クロを呼び寄せる・・・とな?」
「ハッ・・・
ディリングに取り囲まれたり、
先日などは、ブロブソーブに襲われる始末でして・・・」
「なんと!
こうして落ち着いて報告をしておるからには、
無事であったと解るが・・・よく無事であったの」
「その・・・なんとか無事でありました」
「そうか。そういえば、其方の家はコトナであったか」
「ハッ」
「過日、ブロブソーブを捕らえたと聞いておるが・・・
無事で何よりであったな」
「ハッ、ありがたきお言葉」
「その捕らえたブロブソーブも、
退治方法の研究にと・・・
教会の亡者共が連れ去ってしまったがな」
「その後、何ら成果無く、死なせたと聞いております」
「ハン!所詮、金の亡者共では、その程度だろうとも」
やはり陛下は、最近の教会側の勢いをこころよく思ってはいないようだ。
元々、良好な関係とは言い難かったが、ここ最近、あちらの資金繰りが順調なのか、多少目に余るようになってきている・・・これも無関係ではあるまい。。
「それにしても、ランカスター殿のご子息は、
性急なことをなさいましたな」
「ふむ・・・そうよな。
何も返さずとも、厳重に保管しておくなり、
それこそ父親に預けるなりしておけば良いモノを・・・」
「恐れながら・・・家人に危害がおよぶのを未然に防いだのだと思います」
「そうか・・・そういう可能性もあるか・・・
あとは我らに預けるとか・・・
いや、そうなるとエルフ側の態度が固くなりかねん。
それは困るな。
ふむ・・・返すというのもある意味、正道か?
まぁ、既に返してしまったのだ。
いくらぼやいたところで詮無きことではあるな」
「ハハァ。申し訳ございません」
ただただ、頭を垂れ、許しを請うしか無い。
とは言え、陛下の雰囲気は穏やかなものだ。
取り立てて罰を受けると言うことも無いだろう・・・と甘い考えが頭をよぎる。
「まぁ、よい。
ハルトティータ殿が縁を切る気は無いと解っているだけでも十分だ。
報告は以上か?」
「ハッ、以上であります」
「そうか。
また何かあったら、ラルテマにでも報告するが良い」
「ハッ。それでは失礼いたします」
再度、深く頭を垂れる。
そして、部屋を退室する。
「ふうぅぅぅ」
思わず、大きくため息が出てしまう。
我が息子ながら、心臓に悪いことをしてくれる。
ハルトティータ殿と今後の交流に関して、口約束を交わすあたり、さすが我が息子だと褒めてやりたい。
これが無かったら・・・
「ランカスター殿」
「ラルテマ殿・・・かたじけない」
「此度のこと、ブロブソーブに襲われたと言われれば、
致し方ないかとは思う。
そこは陛下も解ってくださっていたので良いのだが・・・」
「何か?」
「その・・・ご子息のことなのだが・・・」
「む、息子が何か?」
「その・・・荒唐無稽と言うか・・・
うろんな話ではあるのだが、
ご子息の助力でブロブソーブを捕らえた・・・
という話があってだな・・・
いや、決して、その・・・信じている訳では無いのだ。
ただ、念のために確認をと思ってな」
「ほっ。そのことでしたか・・・
ラルテマ殿のところまで、きちんとした報告が上がっていないのは仕方ありますまい」
「そ、それでは・・・」
「ウチの息子の助力というか・・・
息子が気絶させたという話で間違いはありませぬよ」
「な、なんと!?
ど、どうやって!?」
「神聖魔法で心力を分け与えて、気絶させたと・・・」
「神聖魔法!?
だから教会の連中が、
いつにも増して引き渡せと強硬な姿勢に出たのか」
「恐らくは」
「で、そのくせ、自分たちは失敗したと・・・」
「いや、さすがにソコに関しては私には解らないのだが」
「む、それはそうであったな。
・・・しかし、よく無事でしたな」
「いや・・・丸一日、意識を取り戻さなくてな。
家内共々、食事も喉を通らない有様で・・・」
「そ、そうか。
しかし、今は大丈夫なのだろう?」
「ええ、それはもちろん」
「それはよかった。
しかし、一度、騎士団でも手法に関して研究させた方が良さそうだな」
「必要とあらば、話を聞くくらいなら・・・」
「ああ、いや・・・すぐにどうこうという事では無いのだ。
追々・・・な?」
「そうですか・・・」
「それよりも・・・」
ラルテマ殿が、より一層神妙な面持ちとなり、声を潜めて話す。
「教会への資金流入の件・・・」
「・・・どうも貴族連中がこぞって寄付をしているようです。
それも、納めるはずの税から抜いている輩も・・・」
「調べは付きそうか?」
「方々手を尽くしてはいますが・・・
なかなかすんなりとは・・・」
「下手に刺激して、一悶着あっても困る。
慎重に頼むぞ」
「それはもう・・・お任せください」
ラルテマ殿の表情が一変し、話は終わりとばかりに挨拶を切り出す。
「呼び止めて済まなかったな」
「いえ・・・取りなしをお願いした立場ですから」
「それではな・・・よい報告を期待している」
「はい。失礼いたします」
その場を辞す。
肩の荷が下りた・・・解放された気分を味わっていた。
やはり精神的な重荷となっていたようだ。
今日はさっさと家に帰って、愛する家族と一家団欒・・・気分転換を図るとしよう。
次回「足手まといの日」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
ハルトディータ→ハルトティータ(指摘感謝)