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ヒール最高  作者: 猫美
学院中等編
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再会の日

ブロブソーブに襲われた日、庭先で気絶しているところを、異変に気がついたミレイに発見された。

気絶の原因は、もちろん心力の使いすぎ。

丸一日、ゆっくりしてれば十二分に回復した・・・のだが、母様やミレイに心配されまくった。

まぁ、仕方ないと言えば仕方ない。


ブロブソーブだが、目や鼻から血を流してはいたが、死んではいなかった。

心力の過剰摂取?で、気絶・・・というか、昏倒しただけだった。

それでも3日は起きなかったらしい。

らしい・・・と言うのは、その後、会った訳では無いからだ。

怪力と言うこともあり、まさにがんじがらめって状態で投獄されているようだ。


こちらは、事情聴取が待っていた。

トランスファーで倒したという事実を隠蔽するか悩んだのだが、特に隠す理由も思いつかなかったのでオープンにすることにした。

・・・話すことで、ブロブソーブの脅威が減ればめっけもんだしな。

が、どうも・・・この分け与えるという魔法は奇異らしい。

心力(MP)の回復・・・は難しいのだが、回復促進を行う魔法は知れ渡っているようなのだが・・・

・・・むしろ、そっちを知らなかった。

・・・詳しく聞いてみると、促進と言いつつ、無いよりマシ程度・・・実戦では促進具合が足りなくて、イマイチらしい。


巡視からの事情聴取だけかと思っていたら、教会からも人が出向いてきて、事情聴取を受けた。

アシュタリウス聖教会という教会なのだが、ウチは熱心な信者という訳では無いし、自分自身も宗教はちょっと・・・と思っているので、これまで、特に接触を持ったことは無かった。

聖神アシュタリウスを信仰する宗教らしい。

神聖魔法は聖神アシュタリウスの御力を借りて行使する行為と考えているらしく、神聖魔法を使える者は、余すところなく信徒であると・・・信者では無い人間からすれば、迷惑以外の何ものでも無い考えの持ち主連中のようだ。

まぁ、神聖魔法っていうくらいなんだから、神様の力なのかなぁ?程度には思っているが・・・残念ながら、ゲームやファンタジー小説みたいに神様に会ったことも無ければ、声を聞いたことも無い。

魔法のある不思議世界のくせにがっかりだよ。

それはそれ。

そんな次第で、神様は居るかも知れないし居ないかも知れない・・・そんなスタンス。

ウチの親が熱心な信者だったら、また状況は違ったんだろうが、熱心な信者では無いので・・・ご幼少のみぎりから教え込まれたって事も無いので、自分自身は、コレっぽっちも信者じゃ無い。


あくまで、事情聴取ってだけだった。

別に勧誘される訳でも無く・・・神聖魔法を使える者は、信じていて当然だという考えのようだったが・・・

巡視側に話したことと大差は無い。

ただ、巡視官と違うのは、神聖魔法に関して、根掘り葉掘りと聞いてきたことだった。


それに、どうやらブロブソーブの案件は巡視側から教会側に移るようだった。

神聖魔法で効果アリという事なので、折角の生きたサンプルだ。

実験体として扱われるのだろうか・・・

・・・なんて想像をして、軽く気分が悪くなった。

あまり、深く考えるのはやめよう。



トランスファーについては深く考える必要がある。

深くというか・・・慎重にだな。

今回、ほぼ全心力を注いだトランスファーを使用した訳だが、その効果たるや・・・目鼻から血を垂れ流させるほどの物だった。

果たしてコレは、ブロブソーブだからの結果なのか?と言うことだ。


ブロブソーブ特有の効果ならいい。

問題は、ブロブソーブ特有では無く、人間に対しても同様の効果がある場合だ。

目鼻から出血させるほどとなると、毛細血管が破裂・・・ってことだ。

例えば、脳内の血管や心臓の血管が破裂した場合・・・最悪、相手を殺していたかも知れないのだ。

まぁ、あの時は、自分が助かりたい一心で行った行為なので、相手を殺していてもおかしくは無かった。


そんなことはどうでもいい。

問題なのは、普段のトランスファーにも危険が潜んでいると言うことだ。

常日頃からミレイに散々トランスファーを行っているが、一歩間違えばミレイを殺していたかも知れないのだ。


「・・・ウィル?」

「え?」

「・・・心力、使い終わったよ?」


そう言えば、いつものように(元)枯れ森に来て、魔法の特訓をしていたんだった。

トランスファーに不安を抱えているのに、特訓に出るなんて・・・どうかしているとしか言い様が無い。


「・・・トランスファー、しないの?」

「え?あぁ・・・えっと・・・」

「・・・どうしたの?」

「えっと・・・そうですね・・・

 先日、襲われた際、

 トランスファーで相手を気絶させました」

「・・・うん」

「気絶なんて言葉では生易しいくらいの傷を負わせました」

「・・・うん」

「ミレイにも、そうしてしまう危険があるんです」

「・・・無いよ」

「え?」

「・・・ウィルは優しいから、大丈夫」

「いや・・・そういう危険が付きまとうので」

「・・・大丈夫。ボクは大丈夫だよ。

 ・・・今まで、ずっと・・・沢山やってきた。

 ・・・だから大丈夫」

「今までが大丈夫だったからって、

 未来まで大丈夫かは別で」

「・・・いつもより、

 ・・・丁寧にやってくれる、から」

「それは、まぁ・・・やるとなれば慎重に事を運びますが」

「・・・ね?だから、大丈夫」


ミレイが、両手を握って・・・トランスファーの下準備とも言わんばかりに・・・こちらをまっすぐ見つめてきた。

微塵も恐れている様子は無い。

ただただ、本当に、トランスファーを使わない事が・・・いつもと違う様子なのが心配なのだろう。


「はぁ。

 時たま・・・

 ミレイは、物凄く頑固になりますよね」

「・・・そう?」

「ええ、そうですよ。

 でも、ありがとうございます」

「・・・ううん。それで、どうするの?」

「取り敢えず、今日はやめておきましょう」

「・・・今日は・・・だね」

「ええ。ちょっと落ち着いてからにしましょう」


魔法を使った訳では無いのだが、精神的プレッシャーの所為か心力が減っているような錯覚に陥っていた。

今日は、無理をせず、心機一転、気分を入れ替えた時にやり直そう。


と、なると、することが無くなってしまう。

まぁ、早めに家に帰るのもいいだろう。


「じゃぁ、帰りますか」

「おや、帰ってしまうのかい?」


びっくりして振り返ると、ハルトティータがいた。

神出鬼没もいいところだ。


「ええ、帰ろうと思っていたのですが・・・

 ハルトティータさんが、いらしているとは思いませんでしたので」

「ちょっと見ないうちに、

 ずいぶん他人行儀になってしまったんだね」

「元から、こんな調子だったかと思いますが?」

「そうだったかな?

 まぁ、それはいいか。

 ウィルもミレイも大きくなったね。

 人間っていうのは、

 ちょっと見なかっただけで、

 随分成長するものだね」

「そりゃ、エルフのちょっとは、

 人間にとっては膨大な時間ですよ」

「まぁ、そうだね」

「それで、今日はどうしたんです?」

「ああ、時たま、暇を見つけては、

 森の様子を見て歩いているんだよ」

「なるほど」


それはそれ。

ちょうどいい機会だ。


「ところで・・・預かっているティータの祝福なのですが・・・」

「どうだい?エルフから丁重に扱われただろう?」

「ええ・・・それは、まぁ、そうなんですが・・・

 それ以上に、クロをおびき寄せるってのが酷すぎます」

「えぇ!?酷すぎると言うことは無いと思うのだけれど・・・」

「学院の演習では、蜜を垂らして虫が寄ってくるかのごとくですよ」

「いやいや。そこまで酷くはないだろう?」


うわ・・・全然信じてくれてない。

なんでだ?

本当に、そこまで寄ってこないのか?


「この間は、ブロブソーブに襲われる始末ですよ」

「なんだって!?」


あれ?すごい驚いてる。


「それで、ですね・・・」

「ブロブソーブに襲われて、よく無事だったね」

「ええ、まぁ・・・無事と言いますか・・・

 なんとか乗り切れましたので・・・

 それで、ですね・・・」

「あぁ・・・うん?」

「折角のティータの祝福ですが・・・

 お返ししたいと思うのですよ」

「ぅ・・・」


さすがに、二の句が継げないか。


「そうか・・・いや、そうだね。

 お礼のつもりだったのだが・・・

 ブロブソーブともなると・・・」

「ええ、お礼の気持ちは嬉しいのですが・・・」

「しかし、そうなると、何か別の物を・・・」

「いえ・・・そうですね・・・

 物・・・では無いのですが・・・」

「おや?何かあるのかい?」

「ええ・・・

 この件を切っ掛けとして、

 また人間と交流するべく、

 偉い方々と話し合いを持って頂いていると聞いています」

「ああ、そうだね」

「それを引き続き、継続して頂きたいのです」

「ふむ。つまり、この祝福が無くなると、

 縁も切れてしまうと?」

「ええ、それを心配しています」

「ハハハ、大丈夫だよ」


ほっ。よかった。

金の切れ目では無いが、これが切れ目となってストップされても困る。


「そうですか。

 安心しました」

「正直なところ、エルフだけでは森を復活させることが出来ないんだ。

 人間の協力を仰がないとね。

 だから、こちらとしても縁が切れるのを恐れているんだ」

「エルフではヒールを使えないのですか?」

「そうだね。

 木々の力を借りないと行使できないんだ。

 その木々が力を失っていてはね」

「なるほど・・・」


精霊魔法に近いのかな?

シャーマニズムだとすれば、森が原因不明とは言え、枯れてしまっては八つ当たりっぽい喧嘩の一つも勃発するか。


「ウィルへの感謝の気持ちだったんだが・・・

 何か形ある物を贈っておきたいね」

「いえ、そう無理をしなくても」

「いやいや。感謝の気持ちもさることながら、

 私との深交の証として、形ある物を渡しておきたいんだ」

「親交の証ですか」

「より深い交わりかな」

「深い・・・」

「ウィルは自分のことを過小評価しているかも知れないが、

 為したことは、私たちにとって転換点と言ってもいい」

「大げさですよ」

「う~ん・・・

 ティータの祝福と同等かそれ以上となると・・・

 中々すぐには出てこないね」

「まぁ、取り敢えず、お返ししときます」


首飾りの台座から取り外し、ハルトティータに手渡す。

ほんのり肩の荷が下りた。

やはり高価な物を持ち歩くとか、怖すぎるよな。


「・・・近いうちに、何か別の物を用意するよ」

「無理しなくてもいいんですが・・・

 まぁ、急ぎませんから、ゆっくり検討してください」


エルフがゆっくり検討なんかしたら、こっちは死んでそうだが。

それはそれで面倒事が無くて良さそうだな。


「私との友誼は、こんな事じゃ終わらないんだからね」


等と、意味不明のことを・・・そんな捨て台詞を残して森の奥に消えていった。

思わず、苦笑するしか無いじゃ無いか。


「何せ、肩の荷が下りました」

「・・・よかった、ね」

「なんだかんだで、いい時間ですね。

 そろそろ家に帰りますか」

「・・・うん」


次回「再会の日のウィンザー(父親)」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

協会→教会(指摘感謝)


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以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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