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ヒール最高  作者: 猫美
学院中等編
49/90

取り調べの日のテンゲイ(巡視官)

「まったく、冗談じゃないぜ。

 副所長のクソ野郎が。

 俺がどんだけ事件を解決してきたと思ってんだ」

「テンゲイさん、飲み過ぎですよ」

「うっせぇ。

 ほら、酒持ってこい」


行きつけの飲み屋で今日の憂さを晴らすべく飲んでいるのだが、おやじがそんな詰まらないことを言う。

いいから酒だけ出してりゃいいんだ。


「それにしても生意気なガキだったぜ。

 さっさと認めちまえば良いモンをよ。

 昇進の踏み台を、また探さないといけないじゃねーか」

「はいよ。酒だよ。

 テンゲイさん、これで最後にしてくれよ?」

「あ?

 ケチくさいこと言うなよ」

「いや。そろそろ店じまいの時間だよ」

「ああ?

 もうそんな時間かい」


ぐっとぬるい杯をあける。


「んじゃ、おやじ。

 また今度な」

「はいはい。

 お代は今度来た時だね。

 お早いお越しをお待ちしてますよっと」


店を出る。

どうにも腹のムカ付きが収まらない。

ま、原因は簡単だ。

今日のガキが予想外だったからだ。

あそこで素直に認めてくれてりゃ、また一歩、昇進に近づけたってモンを・・・

もうそろそろ部隊長の1人にはなれそうだったのによ。

それどころか、ランカスター家だかなんだか知らないが、お偉いさんのご子息だって怒られちまった。

いや、まぁ・・・ランカスター家自体は知っているが・・・

お偉いさんの息子だかなんだか知らないが、ブローブ(ブロブソーブ)かも知れないじゃねーか。

それにしても副所長のヤツ、今まで散々、俺の成果でイイ思いしておきながら、「やりすぎは良くない」とか抜かしやがって・・・


「オイ、オマエ」

「んあ?」


後ろを振り返ると、不審人物がいた。


「お前、何だ。

 怪しいヤツだな・・・

 ちょっとそこまできてもらおうか」

「スン・・・

 ヤハリ、オマエカラニオウナ」


大人しく着いてくる気は無しってことか。

これって・・・公務執行妨害だよねぇ。

憂さ晴らしにちょうどいいか・・・


「なぁ~に言ってるのか解らないけど、

 ちょ~っと運が悪かったねぇ」


腰から、刀を鞘ごと引き抜く。

刀鞘の固定具は付けたままだ。

さすがに刀を抜いて、刃傷沙汰はまずい。


「大人しく、して貰おう、かっ!」


大きく振りかぶり、素早く叩く。

こちとら、巡視官で喰ってるんだ。

そこいらの素人ごとき・・・


「なにぃ」


ヤツは片手で受け止めていた。

刀鞘による打撃とは言え、十二分に痛いハズだ。

それを平然と受け止めていやがる。


「くっそ。離せ!」


強引に腹を蹴り飛ばしながら、刀鞘をもぎ取る。


「ふざけやがって!」


本気で打ち込みに掛かる。

頭、上腕、腿・・・

いくら酒が入っているとは言え、そこまで鈍い打撃だとは思っていない。

いや、酔って鈍くないと思い込んでいるだけか?

そのことごとくを、片手で払われる。


「なんなんだ、お前!」

「エサハ、オトナシク、シテイロ!」


打ちかかった刀鞘を捕まれる。

どうにも動かない。

なんて力してやがんだ、こいつ。


ミシリと軋む音が聞こえてきたかと思うと、甲高い・・・ひびの入る音が聞こえた。

こいつ、刀鞘を握りつぶしやがった。


「ありえないだろ!」


ツバの部分の留め具を急いで外す。

そのまま刀を滑らせ、鞘から抜く。

あまりにもおかしい。

酔って、酒の見せる悪夢ならどんなにマシなことか。

相手を殺してしまうかも知れないが、相手は鞘を片手で握りつぶす化け物だ。

悠長なことを言っている暇は無い。

あとでお小言・・・下手すれば降格かも知れないが、今は諦めようじゃないか。


「イィィィヤァァァッ!」


身体を前傾し、ひねり込むように腕を突き出す。

ヤツの身体を貫いたと思った瞬間。

ヤツの身体が消えた。


「どこだ!?」


頭の中で叫んだのか、声に出せたのか定かでは無い。

額に何かが触れる。

それがヤツの手だと気がついた時には、地面に押し倒され、頭を打ち付けられた後だった。

石畳と頭のぶつかる音が頭蓋の中を駆け巡り、痛みと共に襲ってくる。


「ガハッ」


意図せず、口から肺の空気が漏れる。

朦朧とする意識の中、刀を確かめようとするが、どうやら離してしまったようだ。

急いで探さなければ・・・

はっきりとしない頭で刀を探そうともがいていると、ヤツが俺の身体を組み敷く。

両腕を押さえつけられ、これっぽっちも動かない。

なんて力だ。


「ど・・・け・・・

 はな・・・せ」

「ソノニオイ、タシカメサセテモラウ」

「な・・・に?」


ヤツの顔を初めて見た。

いや、見えてはいたのだが、ここに来て、初めて相手を認識した。

赤い・・・血のような赤さの目が・・・暗闇に血が溶け込むような赤さが目に付く。

その赤い目が近づいてくる。


「なに・・・を・・・する気だ」


突き刺すような・・・焼けるような・・・溶けるような・・・痛みとはまた違った感覚が襲ってきた。

首を噛まれている!?

そうか、こいつがブローブのクソ野郎か!

引き剥がそうと手足に力を入れる。

が、ヤツに組み敷かれた手足は、自由の身をもたらしてはくれなかった。


「くそ・・・はなせ!」


必死に暴れるのだが、ピクリともしない。

首からは血を吸われ続けている。

鈍い痛みと痺れがじんわりと広がっていく。

どんなにあがこうと、その牙が外れることは無く、耳元で血をすする音だけが、嫌にはっきりと聞こえてくる。


「くろ・・・ろけ・・・」


なんだ?

うまく舌が・・・動かない。


どれくらい・・・あがいたのか・・・解らないが・・・

不思議と・・・痛みが・・・遠のいていく・・・

その間も・・・血は吸われ・・・続け・・・


力が・・・抜ける・・・

抵抗する・・・心が・・・くじける。


目の・・・前が・・・ぼんやりして・・・くる。

指・・・に・・・力が・・・入ら・・・ない。

もう・・・疲れ・・・


「ケッキョク、ニオイノモトハ、オマエデハナカッタヨウダナ」


・・・な・・・に・・・?


次回「帰省の日のチノテスタ(友人)」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

してやなんだ→してやがんだ(指摘感謝)


※刀鞘:言葉通り刀を鞘に収めた状態。固定具で簡単に抜けないようになっており、警棒のようにして打撃武器として使用する。暴徒鎮圧用。


いつも感想、指摘、評価等ありがとうございます。

今回、ちょっと話が短めですので、次話を早めにアップする予定です。

(次話も短めなので・・・)

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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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