技術革命の日の3
遠征の日は大変だった。
血だらけの服を着た生徒が2人もいたら、先生方も大慌てってもんさ。
実際の所、ウチ1人はケガ人の血を浴びただけなので無事だったんだが。
なんせ、後日呼び出されて、事情聴取とゲンコツを喰らった。
ゲンコツに涙目になりながら職員室を出ると、フランテスタが待ち構えていた。
「助かりましたわ」
「え?ああ・・・無事で何よりです」
「そ、それだけです」
顔を真っ赤にし、そっぽを向いたまま、それだけを言うと走り去ってしまった。
そういう所は・・・律儀なんだな。
それはそれ。
常々思うのだが、あれで縦ロールがあれば・・・絵に描いたようなお嬢様なのだが。
社交界で縦ロールは流行じゃ無いんだろうか?
とか、すっごいどうでもいいことを考えていた。
それから数日・・・
戦士学科では、チノにキーウェンが話しかけるようになったらしい。
チノはコウロイド(混血)ということで、避けられがちだったため、良いことだと思う。
で、チノから聞いた話なのだが、1年に"ヒールばか"と"氷の黒魔女"がいるらしい。
どうも、捜索隊にいた1年がウチらの活躍というか、威力にびっくりしてあだ名というか、二つ名を付けたようだ。
まぁ、それはいい。
今更、どうしようも無いからな。
そんなことより、二つ名に温度差がありすぎる。
ミレイの方はカッコイイというか、クールビューティーっぽいのに・・・
なんだ、"ヒールばか"って・・・言い出したヤツを1発ぶん殴っても許されると思う。
まぁ、冗談はさておき、ミレイの方は周囲から浮きそうだ。
浮くというか避けられるというか・・・
ミレイに確認してみた所、どこ吹く風と言わんばかりに流された。
遠征の日から6日が経った。
念のため安静、ということで休みを取っていたフォシナ・・・大ケガをしていた子・・・が出てきた。
彼女が休んでいる間に対応をいくつか考えてみた。
どれもこれも胸くそ悪いというか、面倒臭いというか、関わるのが面倒だ。
どれが最適解なのかは解らないが、取り敢えずの落としどころを設定した。
ってことで、放課後に校舎裏に呼び出す。
手段は単純に手紙を机に突っ込むってヤツだ。
「首飾りについて話がある。
放課後、校舎裏まで来い」
とだけ書いておいた。
保険として、チノに物陰で待機して貰う。
「こんなところに、
呼び出して、どういうつもりですの!」
強気に出て、たたみかけようってことなのか・・・地なのか・・・地なんだろうなぁ。
「知っていますか?
盗人は、ムチで百叩き・・・だそうですよ?」
「な、何の話よ!」
「盗んだ物が貴重な品の場合、
ムチから鎖、棒・・・
果ては焼け棒杭で百叩きだそうです」
「そ、それが、どうしたのよ!」
「焼け棒杭で叩かれると、
皮膚が焼け・・・
肉の焼ける臭いが漂うそうです」
「だ、だから!何なの!」
「・・・ハイエルフの宝を盗んだ場合、
どういった罰が与えられるんでしょうね?」
「ヒッ・・・
な、何の話!?」
しらばっくれてはいるが、顔色は悪いし、目は泳いでるし、腰も引けているし・・・説得力は皆無だなぁ。
「あの洞窟で、勝手に返して貰いました」
「やっぱり、あそこで盗ったのね!」
「僕は、僕の持ち物を見つけたので、
持ち帰っただけですよ?
何なら、贈り主に証言して貰いましょうか?
これは僕に渡した物だ・・・って」
「贈り主?」
「ええ。そうです。
ハイエルフのハルトティータっていうんですがね」
「え?」
「元の持ち主が言うんです。
みんなは、どちらの言うことを信じるでしょうねぇ?」
「知らない・・・
知らないわ。
そんな首飾り!」
「巡視に訴えたらどうなりますかねぇ?」
「知らない・・・
知らないわ・・・」
泣きが入ってきたか。
「ご両親にも知られることとなり・・・
いや、むしろ、ご両親も責められるかもしれませんねぇ」
「ぅえ?」
「だってそうでしょう?
ハイエルフの宝を盗んだんだ。
あの家の娘は、ハイエルフの宝を盗んだ。
・・・そうなったら、ご両親も世間から何を言われるか」
「やめて!
お父様もお母様も関係無いわ」
「やだなぁ。
世間が勝手にそう思うだけの話ですよ。
・・・僕は何も言ってない」
「やめて・・・
ぐず・・・
やめて・・・」
「僕は可能性の話をしただけですよ」
「ぐず・・・
ど、どうしろっていうの!?」
「そうですね・・・
僕の言うことには逆らえない。
・・・そういう立場だと言うことは理解していますか?」
「ぐず・・・ぇ、ええ」
「直接、どうこう・・・
と言うことをしてもらうと、
周囲に何かあったなと思われても面倒です。
そうですね・・・
取り敢えず、今日の所は、
ご両親が無事だということを噛みしめて、
お帰りください」
「ぐず・・・わかったわ・・・」
「いい子ですね。
何かあったら、
その時はよろしくお願いしますよ」
「・・・ぐず」
泣いたままうなずくと、フォシナが帰って行く。
それと入れ違うように、物陰からチノが出てくる。
証拠を出せと言われると、コチラとしても弱いので、チノが感知出来ることをネタに頑張ろうかと思っていたのだが・・・
結局、チノの出番は無かったな。
「チノには、無駄足を踏ませてしまい、
申し訳ありませんでした」
「それはいいんだけど・・・
えっと・・・
ウィルが悪者みたいだけど?」
「我ながら気分の悪いことをしたと思っていますよ」
「あれでよかったの?
ちゃんと巡視なりに言った方が、
よかったんじゃない?」
「まぁ、それも考えはしたんですがね・・・
そうすると、
僕が盗まれたという事実を報告しないといけないんですよ」
「え?・・・だって、盗まれたよね」
「そうなんですがね・・・
それはそれで、
当然、父様に報告が行くだろうし・・・
と言うか、報告しない訳にはいかないだろうし・・・
色々と面倒そうなんですよ」
「だから、こっそり処理をした?」
「ええ」
「いいのかな?」
「それは解りません」
「えぇ?」
「実行犯は別にいて、
盗み出したのは彼女ではないかも知れません。
まぁ、でも、彼女の指示でしょう。
取り敢えず、釘を刺したつもりではありますが、
やり過ぎても藪蛇になりかねないので・・・」
「やぶへび?」
「ああ・・・えっと・・・
ロウソクに油を注ぎ足すってヤツです」
「ああ、そういうこと」
「正直なところ、
こっちに構ってこなければ、
どうなろうと、どうしようと、
どうでもいいんですよ」
「どうでもいいんだ?」
「こっちに関わってこなければ・・・ですがね。
なんせ、帰りましょう。
今日は、すみませんでした」
「ううん。気にしてない」
「ありがとうございます」
「ううん。帰ろ」
「ええ、そうですね」
ま、こっちはこれでいいだろう。
さて、問題は自分の部屋だ。
ティータの祝福をどこにしまうのか?という事だ。
金庫・・・とまでは言わないが、鍵付きの宝箱なんてのも世の中にはあるが、高い。
そもそも、鍵が高い。
まぁ、用途と購入層を考えれば・・・必要としているのは富裕層だろうし・・・
高くなると言うか・・・一般に普及する必要が無いから安くならないと言うか・・・
とにかく、簡単に買える値段じゃ無い。
じゃぁ、どうするのか?
ってことで、作ってみました。
「・・・ウィル?
・・・また、ヘンなの、作ってる?」
「どうも、ミレイの、
僕に対する認識ってヤツを、
問い質したい気分になりますね」
「・・・それ、なに?」
「スルーですか・・・
いいんですがね。
これは、シリンダー錠・・・っぽい物です」
「・・・しりんだーじょう?」
「鍵ですね」
「・・・おっきいね?」
「ええ・・・まぁ」
材木を切り刻んで、削って、組み合わせて・・・シリンダー錠っぽい物を作ってみた。
段差のある円柱を作り、横倒しにした際の上側に溝を掘る。
その段差に合うように外側を作り、先ほどの溝と同じ位置に溝を掘る。
上に、段差の数に合わせた穴を開けた蓋をする。
穴から角棒を落とす。
ストッパー付きで、最後まで落ちないように工夫しておく。
円柱を横倒しにした周囲に囲いがあり、上から覗くと、円柱まで溝が切ってある物だ。
そこの溝に角棒を落とし込んだ状態になっている。
角棒が円柱に食い込んでいるため回らない。
鍵を差し込むことで、棒が上に押しやられ、円柱部分への食い込みが無くなる。
例えば、鍵では無く、板みたいな物で全ての棒を押しやると、板が外側の溝に食い込んで回らなくなる。
段差に沿った形に棒を押し上げなければならない。
棒はバネで戻したかったが、上におもりを載せ、下に押すことで代用した。
ってことで・・・でかい。
加工のしやすさとかの都合なんだが、差し込む鍵だけで手のひらくらいのサイズはある。
トータルで、某国語辞典並の大きさはあるんじゃないか?
シリンダー錠部分だけで・・・だ。
結構な工作だった。
「・・・これ、どうするの?」
「ええ、そうですね。
この鍵を、鍵穴に差し込むことで、
回すことが出来ます」
「・・・うん」
「鍵が合わない・・・
例えば、こんな板では回りません」
「・・・回らないの?」
「ええ。回りません。
それはそれ・・・
実験をしますか。
ミレイ、やってみますか?」
「・・・いいの?」
「ええ。いいですよ。
この鍵を奥まで差し込んで、
左に回してください」
「・・・うん」
ミレイが、おっかなびっくり、鍵を差し込んでいく。
「奥まで差し込めましたか?」
「・・・うん。
・・・回す、ね?」
「ええ、お願いします」
2度、3度と回そうとする・・・が、回らない。
「・・・ウィル。
・・・回らない」
「はて?オカシイですね」
ミレイから鍵を受け取り、一旦引き抜く。
差し込む。
・・・妙に引っかかるな。
一番奥まで押し込んで、ぐっ・・・と力を入れる。
きしむような音を立てながら、ゆっくりと回すことが出来た。
「・・・回った」
「ええ・・・回りましたが・・・」
これは酷い。
所々でテストをしながら作ったんだが、組み上がってみると実に酷い。
今はまだいいが・・・使い込んでくるに従って、壊れるのが目に浮かぶようだ。
「・・・これを、どうするの?」
「引き出しにでも仕掛けて、
金庫代わりにしようかと思ったのですが・・・
壊れて取り出せなくなりそうです」
「・・・だめなの?」
「ダメでしょうね。
苦労したんですがねぇ。
お蔵入りです」
「・・・そっか」
ミレイが側までやってきて、頭を撫でてくれる。
「えっと・・・」
「・・・ウィルなら、次、うまくやる」
「ありがとうございます」
元気づけようとしてくれてるんだろうなぁ。
それほど落ち込んでいるつもりは無かったんだが・・・そう見えたのか?
それはそれ。
取り敢えずの防犯対策は、もう一案あるので、そっちを試そう。
こっちは複雑なことは無いんだが・・・防犯効果は半減って所だ。
ってことで、立ち上がって・・・別の部品を取り出す。
「・・・今度は、何?」
「部屋の鍵を少しだけ強固にしようかと」
「・・・へんな、矢印?」
「ええ、そうですね」
現状、部屋の扉、窓には掛金があるだけだ。
板が一点で止まっており、くるっと回して、反対側の受けに引っかけるだけの簡単な鍵だ。
下から押し上げてしまえば、外れてしまう。
そこで、返しの付いた板を受け側に上矢印のように付ける。
閉める際、受け側へと降ってきた渡し板を、斜めの所が受け流す。
そして、受け側に収まった渡し板を、返しの部分が下からの押し上げに対抗する。
板バネを仕込む事で、閉める際の動作はなんら変わることが無い。
開ける際、返し部分の板を外に押しやる必要があるが、親指で押しやりながら、人差し指で下からすくい上げれば開けられる。
外出中の防犯は無理だが、取り敢えず、寝ている最中に忍び込むのは困難になる・・・ハズだ。
取り付けてみて、動きを確認する。
さすがに、複雑な機構が一切無いのでスムーズだ。
開けるのに、多少の慣れが必要だが、片手で行えるから問題あるまい。
「ミレイの部屋にも付けますかね?」
「・・・え?」
「夜中に泥棒が入ってもまずいでしょう」
「・・・ボクの部屋、盗る物無い」
「女の子なんですから、
防犯はしておくに超したことはありません」
「・・・でも・・・要らない」
「え?そんなことおっしゃらずに」
「・・・面倒・・・そう?」
撫でてくれたかと思えば、この仕打ち。
後日、ミレイの部屋に取り付けようとして・・・下からの押し上げを邪魔する板を貼ればいいんじゃね?と気がついてがっくりと膝を付く羽目になる。
次回「取り調べの日」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
裕福層→富裕層(指摘感謝)