遠征の日のアルフ(先輩)
1体のディリングとの戦闘が続いている。
みんなで与えた攻撃が功を奏し、あと一息でとどめを刺せるだろう。
さすがにコア持ちと言った所だが、多勢に無勢だ。
ロロがうまい具合にディリングの気を引いてくれた。
「タァァァァァァッ!」
手にした長剣をディリングの肩から斜めに振り下ろす。
体重を乗せたその一撃は、面白いようにディリングの身体に食い込んでいき、反対側に抜けた。
「やった!」
無事にコア持ちを倒すことが出来た。
これで、人数分揃った。
「やりましたね。
ロロが気を引いてくれたお陰です」
「戦闘中ともなると、
出番がないしね」
「いえいえ、後方支援も大切な役割です。
ロロのヒールがあるから、
安心して突っ込める訳ですし」
「なんにせよ、これで人数分のコアですね」
魔法陣の札を懐にしまいながら、ムーランが会話に加わる。
「さっさと帰ろうぜ。
どうも洞窟ってヤツは息が詰まる」
大剣を背中に納めながら、メイラーが周囲を見回す。
無事にコアが揃って良かった。
みんなで無事に卒業資格を得ることが出来たってことだ。
「そうですね。
取り敢えず、戻りますか」
「戻ったらどうする?」
「適当に巡回して、
他の人たちの援護・・・ですかねぇ」
「俺らが援護したら、
試験になんねーよ」
「じゃ、危なっかしいのだけ援護だね」
「そんな所ですかね」
洞窟を出て、のろしの方向を確認する。
「う~ん」
ロロがのびをする。
まぁ、気持ちは解らないでも無い。
洞窟の中にずっといたので、鬱屈というか、息苦しかったのだ。
「う~ん・・・
はぁ・・・やはり空が見えるというのはいいですね」
「なんだ。みんな、息が詰まってるんじゃねーか」
「ま、そうですね」
「取り敢えず、戻って一息入れようよ」
「そそ、帰ろ帰ろ」
戻ってきて、先生に報告をしようと探していたら、何やら揉め事?のようだった。
女子が先生に何かを必死に訴えているように見える。
「先生、どうしたんですか?」
「おおっ、アルフ・・・と、部会連中じゃないか」
「先生、そのくくり方は酷いよ」
「ああ、すまんすまん」
「それで、どうしたんです?」
「ああ、実はちょっと困ったことになっていてな」
「困ったこと」
「そうなんだが・・・
そうだ!
お前らならコア持ちも余裕だよな」
「え?ええ、まぁ、余裕かどうかは別にして、
対処可能ですが・・・」
「実はな、半ルーオ(30~40分)ほど前に1年連中が洞窟に入ったらしくてな」
「え?1年だけでですか!?」
「ああ、そうなんだ。1年だけなんだ」
「急いで探しに行った方がいいんじゃないですか!?」
「そうしたいのは山々なんだが、
本部をがら空きにするわけにもいかなくてな。
今、周辺の先生方に連絡を取っている所だ」
「じゃぁ、僕らで・・・」
「おお、行ってくれるか。
我々もすぐに追いかける。
先行してくれると助かる」
「解りました。
その洞窟はどこになりますか?」
「ああ、この辺にあるんだが」
と、試験場の地図を見せてくれる。
山の裏側・・・とまでは言わないが、ここからは少し距離がある。
「洞窟の地図は無いんですか?」
「見回りの先生が持って行ってしまっていてな・・・
ここには無いんだ。すまん」
「取り敢えず、位置は解りました。
ここに居る生徒を動員しても構いませんか?」
「ああ、人数が多い方が安全だろう。
ただし、無茶はするなよ」
「はい」
「アルフ先輩!」
横から声をかけられた。
「どうしました?」
「えっと・・・私も連れてってください!」
「それは構いませんが・・・なぜ?」
「ウィルやミレイ、チノの事が心配だから」
ウィルにミレイ!?
無茶をした1年ってウィルなのか?
何してるんだ・・・あの子は・・・
「ウィル・・・なんですか」
「え?うん?ウィル・・・なんです」
「はぁ・・・心配して損した気分ですよ」
「や、でも、ウィル以外にも行ってるから」
「ウィルは、なんでまた、そんな無茶を?」
「え?あ・・・えっと・・・
1年の子が洞窟に入っていくのが見えて・・・
それで、チノとミレイとで追いかけるって。
私は半ルーオ経っても戻らなかったら、
先生に伝えるようにって・・・」
「はぁ・・・無謀なんだか、用意周到なんだか・・・
まぁ、さすがに何人かの集団ともなれば、
ウィルだからと安心しきっているわけにも行きませんね」
「アルフ、急ごう」
「そうですね。
取り敢えず、試験の終わっている3年と、
攻撃力のありそうな1年には来てもらいましょう」
試験を終えていた3年、周囲でディリング退治を行った1年に参加してもらい、総勢34名・・・3年16名、1年18名の捜索隊となった。
ラルタイアさんの案内でウィルが入っていったという洞窟に向かう。
5~6レティーム(3メートル)ほどある入り口をぞろぞろと入っていく。
洞窟内は、どこからか入り込む外の光でほんのりと明るい。
これならわざわざ明かりを用意しなくても問題無いだろう。
とは言え、何があるか解らないので、1年に"たいまつ"を持たせることにした。
・・・ディリングに発見されやすくなるが、人数が多いから対処可能だろう。
しばらく進むと、20レティーム(10メートル)近くはあるだろうか?・・・広めの通路に出た。
分かれ道だったため、3組に分かれて進むことにした。
コア持ちがいたら危険だが、一緒に来た3年は試験を終えた連中なので、大丈夫だろう。
1年を護りながらになるが、数で押せば何とかなるだろう。
取り敢えず、何があっても半ルーオ経過したら、戻り始めるようにと約束をした。
最悪でも1ルーオ後、洞窟の前に集合することとする。
そんな訳で、ロロ、ムーラン、メイラーという普段の仲間と1年6名で奥へと向かう。
前方にコア持ちが3体見える。
ここまで、不思議とコア持ちとは遭遇しなかったが、一気に3体と遭遇した。
今のところ、3体とも通路の奥へと向かっており、こちらには気がついていない。
「静かに接近して、
気づかれる前に倒します」
「了解」
「まず、ムーランが呪印魔法で攻撃し、
その後、私と、メイラーで切りかかります。
ロロと1年は後ろで待機していてください」
「奥の1体はどうする?」
「ムーラン、魔法の範囲に入りますか?」
「さすがに、ちょっと遠いかな?」
「仕方ないですね。
気づかれるのは覚悟して、
手前の2体を不意打ちして片付けましょう。
時間を掛けて3体相手ってのは避けたいので、
一気に殲滅します」
「了解」
「じゃぁ、ちょっと大盤振る舞いするよ!」
ムーランが、魔法陣の描かれた札を2枚取り出し、呪文を詠唱する。
「かる、てとら、じおに、すぺある!」
ムーランの両手・・・それぞれの札が炎のヤリに変わる。
そのヤリを2体のコア持ちディリングに投擲する。
そのヤリがムーランの腕を離れるか離れないかという所で、メイラーと2人、ディリングに向かって駆け出す。
炎のヤリがディリングの頭と胸を焼き貫く。
メイラーが肩に担いだ大剣を・・・胸を貫かれたディリングの頭に叩きつける。
こちらは頭を貫かれた方の身体に長剣を突き立て、貫くように押し込む。
押し込んだ長剣に体重を載せ、下へ下へと押し切る。
メイラーの大剣は、ディリングの身体を縦割りに切り裂く。
さすがに切り裂かれたディリングは、その身体を維持できず、崩壊していく。
こちらのディリングは、いまだ健在だが、倒し終えたメイラーが、その大剣を横薙ぎに振り回す。
長剣を下に振り抜いていたため、沈み込んだ身体の上を、メイラーの大剣が風切り音を立てディリングに食い込む。
そして、そのまま振り抜かれた大剣により、こちらのディリングも、その身体を崩す。
ムーランがテトラ級を使ってくれたお陰で、すんなりと倒すことが出来た。
前方にいたコア持ちに気づかれたと思っていたのだが、顔を上げてみると、こちらに気づくこと無く、通路を曲がろうとしていた。
「気づいてない!メイラー!」
「おう!」
2人で、前方のコア持ちに追いすがる。
あと少しで、切りかかれる間合い・・・という時・・・
「ヒール!」
声が聞こえたのと、ほぼ時を同じくして、見知らぬ腕が伸び出てきた。
何事かと状況を考えるよりも前に、コア持ちのディリングの動きが止まる。
この好機を逃すこと無く、切りかかるべきと振りかぶったところで、ディリングの崩壊が始まる。
「え?」
「なにぃ!」
メイラーと驚きの声を上げる。
「あれ?」
曲がり角から、1人の男子が現れる。
「アルフじゃないですか・・・」
「ウィル!無事だったんですね」
「ウィルー!
遅い遅い遅い!」
後ろに控えていたはずのラルタイアさんが、こちらに駆けつけてきていた。
「あれ?ラルも一緒ですか」
「遅すぎる!」
「すみません。
でも、助かりました」
「助かった?
何かまずい状況なんですか?」
「ああ、いえ・・・
実はケガ人と疲労で進みが遅くなっていたんですよ」
「ケガ人!?
急いで治療が必要ですか?」
「それは大丈夫です。
取り敢えず、ヒールはしてありますので」
「おう、積もる話は後だ。
仲間の所に案内しな」
「そうですね。こっちです」
ウィルが足早に通路の奥に向かう。
細い脇道から、ディリングが1体現れる。
コア持ち特有のツヤが見て取れた。
「ヒール!」
ウィルがヒールを唱える。
ディリングの動きは止まり、崩壊が始まる。
コア持ちだというのに・・・だ。
ヒールで倒せることも驚きだし、1回のヒールで倒すことも驚きだし、どうしてヒールで倒せることをウィルが知っているのか疑問だし・・・
足早に移動するウィルを追いかける。
「ウィル!」
「なんです?」
聞きたいことは色々あるのだが、何から聞いたらいいのかが解らなかった。
「あれは普通のヒールなんですね?」
「え?・・・まぁ、ちょっと強めのヒールですかね」
「なんで・・・」
通路の奥・・・ウィルの向かう先が騒がしい・・・
戦闘の音か!
「今はそれだけにしておきます」
「そうですね。
急ぎましょう」
ウィルが言うや否や、走り始める。
それに置いて行かれまいと、みんなで走る。
通路の奥、少し開けた所でディリングの群れとの戦闘が始まっていた。
女子3人を護るようにして矢をつがえた男子が1人。
剣を構えた男子と女子・・・
「かる、じおに、てとら、てとら、あるーだ!」
そして前面で魔法を駆使する女子が1人。
右手を下から上に振り上げる。
複数の氷の矢がコア持ちのディリングに突き刺さる。
左手を外から内へと振りかざす。
同じように複数の氷の矢がばらまかれ、迫っていたディリングを牽制する。
交差した腕を大きく外へと振る。
その動きに応じて、更に氷の矢がばらまかれる。
それが止めとなり、何体かのディリングが崩れ始める。
あれは・・・ミレイ・・・か?
ウィルが彼女の隣に駆けつける。
「ヒール!」
「ヒール!」
ヒールの2連発で迫っていた2体を一気に沈める。
「ミレイ!コフィンで塞いで!」
ミレイが頷いたかと思うと、呪文を紡ぐ。
それは呪文と言うよりは、歌に聞こえた。
「♪てとら、かりこり、し~りむまい」
「ヒール!」
ウィルが、迫ってくる先頭のディリングにヒールを叩き込む。
「こふぃん!」
通路を塞ぐようにして氷の塊が出現し、崩壊の始まっていたディリングや、その後ろから迫っていたディリングを氷漬けにする。
「・・・はぁはぁ・・・はぁあ」
さすがに心力がきついのか、ミレイが座り込む。
これだけの氷を作り出したんだ・・・心力が尽きるのは当然だろう。
ウィルが、ミレイの手を取り額を付き合わせる。
小さい声で呪文を唱えているようだ。
「・・・分け与えん。トランスファー」
少しして、顔と手を離す。
「ミレイ、大丈夫ですか?」
「・・・うん。平気」
「そうですか。よかったです」
「チノ!」
「ラル!?ラルまで来たんだ?」
「遅いから心配したんだぞ!」
「う・・・その、ウィルが治療してたし・・・」
「チノは無事なのね?」
「うん・・・その・・・ごめん」
「いいよ。無事なんだし」
さて・・・積もる話もあるだろうが、移動した方がいい。
「ウィル、ここにいるので全員ですか?」
「ええ、そうです。
1人、ケガの所為で気絶しているので、
どうしても移動速度が出なかったんです」
「じゃぁ、それは交代交代で運ぶとして・・・
急いで戻りましょう」
「そうですね」
「ウィルの心力は、まだ大丈夫ですか?」
「ええ・・・大丈夫ですが?」
「じゃぁ、後ろからの敵に備えてください。
メイラー、一緒に先頭で敵の殲滅」
「おう」
「次いでムーランが魔法で援護。
その後ろに1年でケガ人を交代交代に運んでください」
「じゃぁ、帰ろうか」
なんだかんだで19名と大所帯になってしまった。
大所帯な上に、ケガ人までいるので、移動速度が遅くなってしまい、ディリング・・・特にコア持ちに追いつかれやすくなってしまった。
前は我々3年が露払いをし、後続はウィルが、脇道から現れるのはミレイとウィルが撃退しているようだ。
さすがに列が長くなってしまい、後続の把握が難しい。
行きよりも明らかに多いコア持ちのディリングを倒し、なんとか入り口に戻ることが出来た。
外には、別れた他の捜索隊が待っていたので、外の警戒は彼らに任せ、入り口脇で後続が全員通過するまで待機した。
最後にウィルが来たので、一緒に外に出る。
「ウィルで最後ですね」
「はぁ・・・さすがに疲れました」
「ウィルでも疲れるんですね」
「そりゃ、疲れますよ。
基本、体力無いですからね」
「心力は化け物じみてそうですがね」
「はは、それはいくらなんでも酷いですよ」
「ま、無事で何よりです」
「何やら、多数の方に迷惑を掛けたみたいですね・・・」
「状況が解らなかったですからね」
「これは・・・こっぴどく叱られるかな?」
「ケガ人の治療でとんとんじゃないですかね?」
「・・・そうなることを願いますよ」
向こうから先生方がやってくるのが見えた。
ま、ウィルはゲンコツの1発か2発くらいは貰うだろうが、自業自得ってところだろう。
何はともあれ、無事に済んで良かった。
安心したらどっと疲れが出てきた。
これは・・・帰りの馬車は眠りっぱなしになりそうだ。
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